バッハと秘密結社
歴史的に偉大な人物と、フリー●イソンや●ルミナティといった秘密結社との関わりは、嘘とまことがごちゃまぜになってさまざま噂が飛び交っていますが、まさかカルチャーセンターでそんな話が聞けると思いませんでした。
『フリーメイソンと音楽家たち 大バッハ、サティと薔薇十字団』
パリ在住の作曲家、吉田進さんがシリーズで行っている講座で、もう16回目になるのだとか。会場には、秘密結社とは何の関わりもなさそうな普通のおじさん、おばさんが多く、みなさんクラシック好きなのかどこか優雅な雰囲気。吉田進さんも、かたわらにあるグランドピアノでときおり生演奏を挟みながら、長年のパリ暮らしで培ったであろうインテリジェンスさを振りまいていらっしゃいました。
誰もが知っている名作曲家、バッハ。彼が秘密結社とつながりがあることを明確に記した文書(日記とか、手紙とか)は存在しませんが、「暗号」という形で衝撃のメッセージを残しています。
「私はバッハ 薔薇十字団」
これはバッハの楽曲「インヴェンション14」に織り込まれた巧妙な暗号。
吉田さんによると、音階を数字に当てはめ、さらにそれをアルファベットに置き換えると、このメッセージが現れるのだそう。説明を聞いても、数学の才能が圧倒的にない私には一体どうやってこうも見事に設計できたのかちんぷんかんぷんで、吉田さんの言葉を借りるなら「本当に信じられないほど、神秘的なしかけ」。
たった一箇所にこのメッセージが仕掛けられているだけなら、「偶然じゃない?」という見方もできますし、私もそう思いますが、驚くことに曲全体でどこからどう捉えてもそうなるというか、意図的に仕組まないと絶対にこうならないというレベルで作られているのです。薔薇十字団にまつわるキーワードが、幾重にも織り込まれていて。
これはもう偶然に出来上がる可能性は絶対にないわ、ということが素人でもわかる感じ。
ちなみに薔薇十字団はローゼン・クロイツによって生まれ、17世紀初頭にヨーロッパの知識人の間で大流行した思想組織。団員にはバッハの息子やフランシス・ベーコンがいて、デカルトも入団を熱望していたといいます。今から思うととんだスター集団ですよね。
昨年、日本でも展覧会が開かれた作曲家のエリック・サティは、バッハと違って堂々と薔薇十字団と関わりを持っており、薔薇十字団のために4曲を書き下ろしています。儀式の際に演奏される曲だったようで、吉田さんが音源を聞かせてくれたのですが、なんだか陰鬱で退屈な印象。私はバッハの方が、華があって好きだなぁ。
ちなみに余談ですが、モーツァルトの『魔笛』は、フリー●イソンの参入儀式がモチーフになっているのだとか。
バッハやサティ、モーツァルト……歴史に名を残すそうそうたる芸術家と、秘密結社の関わり。世界を動かす権力と芸術との関係は、まだまだ掘りどころがありそうです。