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一期一会の半ケツ/愛おしき日常(第11回)
以前、引っ越しをした時の話を書こう。
再就職のため地元長野から学生時代を過ごした京都へ出戻ること8年。
諸々の思い出が詰まった京都を遂に去ることとなった。
衣食住隔たりなく共在していたワンルームは、ひと度荷物をまとめてしまえば思いも寄らない広さを感じる。
薄っすらと残る家具の形跡も愛おしい。
田舎から飛び出て今日に至るまでを思い出し、窓際でひとり感傷に浸っていた。
ピンポーン。
そんなセンチメンタルな空気から現実に引き戻されたインターホンの音とともに、「(こん)チワーす」と引っ越し屋の若い兄さんが入ってきた。
今回頼んだ引っ越し屋さんは大手企業ではなく、地元密着型の事業所に依頼したからなのか、その兄さんは私服でアルバイトらしかった。
一応靴下はちゃんと履いていたものの、思い出の詰まった私のテリトリーに躊躇なくドカドカと踏み込んできたのだった。
数箱積まれたダンボールやら、むき出しの家具やらを次々と運び出される中で居所のない私は、棒立ちも落ち着かず、手伝う素振りを見せたりしていると、
「あ。おねぇさん自由にしとってもらっていっすよ」
長い襟足、色落ちて傷んだ茶髪、小汚いジーンズの腰パン、向こう側が覗けるピアス穴という出で立ちの兄さん。
放たれたチャラい口調も含め、もれなく100%のヤンキー判定であろう。
「うーん、大丈夫だろうか」
と、一抹の不安もよぎる中、彼は見た目とは裏腹にテキパキと、丁寧に仕事を遂行する。
棒立ちで眺めていた私も、「兄さん・・・素晴らしいやん・・・」と徐々に感心へと変わっていったのだった。
しばらくすると、集中しすぎた兄さんの腰パンから半ケツが見え隠れし出した。
しかし兄さんは気づかない。
半ケツならば、その肌身で捉える空気の感触があるはずなのだが、気づかないほど作業に集中していたのである。
兄さんが急に愛おしくなった。
第一印象では、見た目のレッテルを貼られやすいタイプだと思った。
実際私も貼ってしまっていた。
しかし、兄さんはわずか十数分で、一切の滞りなく荷物運びを遂行した。
半ケツを見せられているにも関わらず、清々しい気持ちにさせてくれたのである。
それは間違いなくプロ仕事だった。
今後私の人生で、再び兄さんと交差する時は決してないだろう。
今も変わらず半ケツで頑張っているのだろうか。
どこかで彼の頑張りが日本経済の一端を担っていると思うと、それはそれで感慨深いものがある。
あの時の兄さんには心から感謝している。
※この作品は、大阪のコワーキングスペースOBPアカデミア様より依頼をいただいているリーフレットで掲載されたものを、リライトしてお届けしています。
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