一進一退の攻防戦/愛おしき日常(第12回)
カフェのように周辺が適度にザワザワとしている方が集中できるという人も多いのではないだろうか。
私もそのひとりだ。
コワーキングスペースの会員になる前はカフェで作業をしていた時期がある。
わざわざカフェで仕事をするというのは、この適度なザワザワ感が落ち着いていたからかもしれない。
しかし、カフェというのは時々怪しげな相談場所、勧誘現場などに様変わりする。
様々な人間模様が交差するのがカフェなのである。
こちらがすこぶる調子よく集中していたタイミングで、その二人の女性はやってきた。
一方はポジティブ感120%オーラのキラキラ姉さん。
もう一方は、ネガティブ感180%のおとなしい姉さんである。
ネガティブオーラが少しだけ打ち勝つその絶妙なバランスに、私は作業の手を止めないわけにはいかなかった。
人間観察好きにとって、こんなに面白い現場がそうそうあるものか。
気づけばパソコンの指を適当に打ち鳴らして耳だけは隣へ集中させていた。
”やればできる!”派ポジ姉さんは、どうやらネガ姉さんを救いたいようだった。
「私も駄目だなぁ〜って思う時は何度だってあった!けど、最後はほんま気持ち!」
と、熱烈に煌めくセリフを投げるポジ姉さん。
相手の目を見据え、息を吸ってもうひと押し。
「ほんの少し勇気だけ!それからは見える世界が変わったし、心も軽くなったの!」
まるで例の美容整形外科のCMみたいなセリフではないか。
一方で、うん、うん、、、と静かに頷いて、一旦は拾おうとしたのか、ネガ姉さん。
「でも・・・私には無理なんよ。いつもそう・・・頭ではわかってるんやけどねー・・・」
なんなんだ、この世の終わりか?
ネガ姉さんは自分のペースを守りながら、ひとつひとつを慎重に返答しているようだった。
何の話なんや・・・気になる。
「大丈夫だって!!私ができたんだし!やってみないとわからへんて!世の中そんなもんじゃない?」
「う、うん。そうやねんけどね・・・それはわかるんやけど、私には無理だと思う・・・」
一進一退の攻防戦である。
『いや、だから一体何の話やねん!』
隣の私の心が一番翻弄されていたことは想像に難くないだろう。
こんなやり取りが隣で始まれば、仕事などできるものか。
干からびたコーヒーカップを下げながら、ざわつく場所も考えものだなと店を後にした。
未だテーマが何だったのか分かっていない。
思い出すと、心がざわつく。
※この作品は、大阪のコワーキングスペースOBPアカデミア様より依頼をいただいているリーフレットで掲載されたものを、リライトしてお届けしています。