【フェムテック通信#19】2023年1月〜4月の日本のFemtechまとめ10選と予測
2023年1月から4月にかけての、日本におけるFemtechの動向をまとめた。Femtech市場は急速に成長しており、日本でも注目されている。
日本におけるFemtech企業の動きなどを深堀りし、今後注目される分野や予測についても解説した。特に、女性の健康やデータ活用、プライバシー保護に力を入れたサービスに注目が集まると予想されるが、Femtechに興味がある人や、市場動向について知りたい人は必見の内容である。
■資金調達やファンド設立
1.生殖補助医療の自動化機器を開発する株式会社アークス、プレシードラウンドで7,000万円の資金調達(4/24)
2022年4月から日本では保険適用が始まり、経済的負担が軽減されて、より多くの人々が治療を受けられるようになった。しかし、生殖補助医療を行う医療機関においては、胚培養士の専門職の確保や育成が課題となっている。
アークス社は、AIおよびロボット技術を活用して、生殖補助医療の質及び成功率向上ための新しいプロダクト開発に取り組んでいる。
今回調達した資金を用いて、共同研究、データ収集、技術開発を進め、胚培養士の高度な判断を支援するAI支援システム、培養室作業を自動化するためのプロダクトの開発を進めるとのこと。
胚培養士については、以下の漫画がわかりやすくておすすめ!
2.「あすかイノベーションファンド」設立(4/3)
フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)は、あすか製薬と共同で、あすかイノベーション投資事業有限責任組合「あすかイノベーションファンド」を設立。このファンドは、女性の健康課題解決、医薬品研究、デジタル医療、アニマルヘルス・診断薬をテーマに投資を行う。
投資目的は、あすか製薬グループ企業との事業シナジーが期待されるスタートアップ企業への投資を通じた「戦略的リターン」の確保とのこと。
あすか製薬では、女性のための健康ラボMint+も展開している。
■ChatGPT
3.FloraがChatGPTをFemtechに活用した「Flora AI」を開発(3/31)
Flora AIは、女性の健康に関する情報提供やアドバイスができるアプリの新機能。OpenAIのモデルと同社のデータセットを活用しており、ユーザーは健康上の問題や悩みを自由に相談可能。さらに、オンライン診療やセルフチェック、ECサイトなどとも連携し、最適なソリューションを提案してくれる。
Flora AIは2023年5月以降に有料公開予定で、現在はウェイティングリストに登録可能。Floraでは、2023年4月20日にChatGPTを活用した不妊治療費用に低金利の銀行ローンの提案も開始している。
■調査
4.5年目となる『妊活白書2022』公開 ー「妊活」意識・取り組みは日常化、一方で若年層の未来不安が顕在化(3/29)
報告書によると、若年未婚男女の約半数が子供を望まないと回答し、過去3年で増加傾向にある。その理由は結婚、出産、育児の負担から経済的な問題や将来の不確定性に至るまでさまざま。同時に、妊娠と出産に関する認識が高まっており、妊娠と出産に関連する製品やサービスが増えていることが指摘されている。
5.【調査報告書】「社会経済的要因と女性の健康に関する調査提言」を公表(3/15)
日本の女性において、月経随伴症状や更年期症状による不調が日常生活に影響を与えているにも関わらず、定期的な婦人科受診を行っている女性は少なく、受診を抑制する心理的・社会的障壁が存在している。
さらに、月経随伴症状や更年期症状により、日本の女性労働者全体に換算した場合、プレゼンティーズムによって年間約3,628億円の生産性損失が生じている。受診抑制の経験者は特に労働生産性の損失が大きい傾向にあることが課題のようだ。
6.法人向けフェムテックサービス『ルナルナ オフィス』、プログラムの効果に関する調査結果を国際女性デーに合わせて公開(3/8)
LIFEMは、職場における女性の健康問題の改善に向けたルナルナオフィスの効果に関する研究結果を発表。
同サービスは、産婦人科医によるセミナーと医療機関との協力によるオンライン医療サービスを提供し、従業員の生理、妊娠、不妊、更年期に関連する症状をサポートしている。
生理と更年期のサポートプログラムの効果に焦点を当てており、LIFEMのサービスによって、症状による影響を受ける日数や職場でのパフォーマンスが著しく改善したことがわかった。
フェムテックの新規事業の相談を受ける中で、「フェムテックサービスの効果を数値化したものがないか」と聞かれることも多いため、こちらの調査結果は大変参考になる。
■企業の動き
7.『健康経営銘柄』に6年連続で選定(3/9)
政府による女性活躍推進の取り組みとして、経済産業省の「健康経営銘柄」や、厚生労働省の「えるぼし認定」がある。
今回、『健康経営銘柄』に選定された企業は、大規模法人部門3,169法人のエントリー中49社。6年連続の選定は、小売業種としては丸井グループが唯一の事例となっている。
丸井グループでは、性別や年齢に伴う健康課題に関して、違いを認め合える組織をどうつくるかを戦略的に検討するためのイニシアチブチームを、2022年10月に立ち上げた。以下の記事を参考にしてほしい。
■サービスリリース
8.スマホで簡単に、精子の状態を匿名で培養士にチェックしてもらえるメンズホームチェッカー『MiteCare(ミテケア)』が発売開始(2/1)
MiteCare(ミテケア)は、不妊の不安に向き合うカップルをサポートするための精子チェッカーで、男性妊活をサポートする在宅検査キットとオンラインサービス。専用レンズをスマートフォンに取り付けることで、自身の精子状態を自宅で簡単に動画撮影することができ、専用サイトからその動画ファイルを認定培養士に匿名で送ることが可能。
認定培養士はWHOの基準値を参照値として、撮影された動画ファイルの精子の状態についてのレポートを送付してくれる。
男性妊活をサポートするサービスやメンズウェルネスについては、以下のnoteでも紹介しているので、参考にして欲しい。
9.NTT Comが創設するフェムテック領域のビジネス共創、データ利活用のコミュニティ『Value Add Femtech™ Community』に参画(1/23)
「Value Add Femtech™ Community」は、NTT Comが提供するヘルスケア業界向けプラットフォーム「Smart Data Platform for Healthcare」を活用して、様々なフェムテックの事業者間でのデータ連携、利活用により新たな高付加価値製品、サービスの開発や提供を行い、エンドユーザーである女性のQuality of Life(QOL)の向上を目指す事業者間コミュニティ。
SDPF for Healthcareは、予防・治療・ケアにいたる各ステージにおいて、各事業者が保有する複数のデータを収集・蓄積・分析・活用し、新たなヘルスケアサービスの開発を実現するとのこと。
女性のバイタルデータが不足していると言われる中、このようなエコシステムが広がり、新たなサービスが立ち上がることを期待したい。
10.在宅での微量血液検査サービスを共創、更年期障害対応から(1/11)
ルナドクター株式会社、株式会社ユニバーサル・バイオサンプリング、アール・ナノバイオ株式会社の3社は、在宅等で提供可能な微量血液による女性ホルモン検査を共創するプロジェクトを開始。
更年期障害は女性ホルモンが関係する女性特有の疾患で、早期発見、早期治療には採血による検査が不可欠と言われている。今回のプロジェクトで微量血液検体管理システム“UBiSS”を活用することで、在宅での血液検査を可能とし、女性向け更年期障害のための早期発見スクリーニング検査の提供を目指す。
更年期障害は、筆者が数年前から注目している領域だが、ユーザーヒアリングをしていると「更年期障害とわかっただけでも安心する」という声も聞く。このような在宅検査が広がることで、更年期障害に苦しむ女性たちの「もやもや」が解消できるとよいと感じている。
■まとめと予測
フェムテックが注目されるようになった背景には、女性の健康意識の高まりがあるといわれているが、男性も健康に対する意識は欠かせない。「MiteCare」のような男性向けフェムテックサービスの需要が高まっていることもあり、フェムテック業界が男女を超えたプロダクトを開発していくことが求められているため、どのように男性を巻き込んでいくのかが一つの課題と感じている。
また、働く女性が大半となってきた昨今において、女性のライフスタイルに合わせたサービスを提供することが重要な観点。ユーザーに負担がかからないトラッキングの仕組みや、在宅での検査サービスは、今後も注目領域である。
■お知らせ:5月30日(火)ChatGPTイベント登壇
5月30日(火)18:00〜、「業務に活きるChatGPTの使い方」のイベントに登壇します。3月に「Flora AI」の開発を発表したFlora代表のアンナ・クレシェンコさんと一緒に、Femtechの活用事例をご紹介。
大手町の会場とオンラインのハイブリットで開催するので、ぜひ会場&オンラインでお会いしましょう。