私のわがままな願いと祈りと
腎不全で病院通いと定期検査を続けてきたすもも、今年に入ってから肝臓の数値がほんのりと悪くなり始めた。
毎日の投薬に一粒新しく肝臓のお薬を追加して様子を見ていたけれど、夏になり実施した定期検査で肝臓の数値が急激に悪化したため、エコー検査を実施することになった。
「じゃ、この上に仰向けになって」
仰向け、さぞかし怒るやろうな、看護師さんや先生に怪我させませんように、と心の中で念じつつ診察台の上に置かれた夏の海に浮かんでいるフロートベッドのような形のマットのその溝にぴったりはまるように仰向けにさせられ頭側を私に、足側を看護師さんにガッチリ保定され
「ヌゥ」
と小さく鳴いたすもも。思っていたよりもずっとかしこかった。
溝にハマって身動きがとれなかったからか、このところ通院頻度がマシマシで少しずつ病院に慣れてきているからか、はたまた大騒ぎ大暴れする体力がないのか、どれやろうな、と考えながらも保定する手は緩めずにすももの頬を指で撫でつつ、目線は先生が見せてくれたエコーに釘付けになった。
「ここに影があるね、3センチくらい。」
悪性の腫瘍、かもしれない。
確定診断のためにはより精密な検査が必要で、麻酔をかけなければならず、それはとてもハイリスクで歳を重ね腎臓も弱っているすももには負担が大きいこと。
影があるのは肝臓のど真ん中で手術するにも難しい場所であること。
もしかして、もしかしたら、ただの加齢によるもの、かも、しれないこと。
エコーを終えて保定から解放された私によじ登ってきて肩にしがみつき小さな声でブツクサ何か文句を垂れているすももをよしよし頑張ったな、となだめながら話をきく私に、先生は言葉を選びながら伝えてくださって、一方で
「お薬を飲んでみて経過観察を続けてこれまで通り過ごしてみるのがいいんじゃないかな。でも、わからないってことは怖いことやから、確定させたいという飼い主さんの気持ちもあるからね」
と選択の余地をくれた。
私の腕の中のすももはすっかり軽くなって、今の病院の初診時に先生にはじめましてのご挨拶もそこそこに大声で叫び怪我までさせ「この子はあれだね、気性が荒い」といわしめた全盛期バリバリの「やんのかオラァァ」という勢いもなくなってきて、中身も外見もほんとうにおばあちゃん猫らしくなってきた。
「もうおばあちゃんやもんなぁ」
その言葉が勝手に口をついて出てきて、自然に答えは決まった。
確定診断は望まない。
帰宅後夫にも話したけれど、夫も同じ気持ちのようだった。
毎日しっかり寝て、食べて、出すもの出して、たくさん甘えて気ままに生きて。
(ただ、少しでも体が楽に過ごせるように最低限のお薬は飲んで最低限必要なタイミングで病院だけは行ってもらうけどなんぼでも肩にしがみついていいから、そこは頑張って。)
すももの命の尽きるまで、家族全員元気にくだらないことで笑って、なるべく幸せ感じてご機嫌に生きられるように。
願わくば、おわりのその時が1日でも先の未来でありますように、1日でも長く一緒にいられますように、というのは私のわがままな願いで、祈り。
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