むしろ情報が主食では?
『ラーメン発見伝』という漫画の登場人物・芹沢(ラーメンハゲ)の名言がある。
「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」
これはネットでもよく引用されるものなので目にすることが多い。主にネタとして用いられているが、僕はこの言葉は至極名言だと思う。
最近大人気となったNetflixのドラマ『地面師たち』に登場するハリソン山中も、こんなことを言っている。
「ウイスキーマニアが、今はもう製造できないポートエレンを高値で買おうと競い合っている。
でも彼らのほとんどは、本当の味なんてわからないでしょう。では、彼らは一体何を買っているんでしょうね。」
ポートエレンという、高級ウイスキーを巡る主人公とのやりとりだ。ウイスキーの値段と、その本来の価値に関する問答で「値段ほどの価値があるとは思えない」と言う主人公に対してハリソンは
「それでいいんですよ。およそ物の価値なんてものはその時々で変わるものです」
と答える。僕がドラマの中で最も好きなシーンだ。このあと、ウイスキーや本ドラマのテーマである「土地」に関して、虚像ともいえる価値と人間の愚かさを語るハリソンの持論が展開される。
このシーンでは、土地のもつ本来の価値に違いは無いが、人間の愚かな知恵によってその価値が勝手に定められ、それを巡り人類は争いを繰り返してきた、というわけだ。
全てのものに、本来は価値の差などない。
「ただそこにあるだけ」だ。
では、そうしたものに価値をつける人間の愚かさとはなんだろうか?
現代社会においては、それは間違いなく「情報」である。食べ物ひとつとっても、国産か輸入品か、ウイスキーやワインであれば年代だの生産地だので価値が決まる。しかし、消費者の我々は、その情報の真偽を自ら確かめることはできない。なので、企業はその情報の信頼性を担保し、我々に提供する。我々は「しっかりした企業が言っていることだから」ということで、特に疑いもせずに信用する。海原雄山でもない我々は細やかな味の違いなどわからない。「店が言ってるならそうなんだろう」くらいで終わる。自分の舌より情報の方がよっぽど信頼できる。
情報と、情報の信頼性こそが、商品の価値を決めるのだ。
アイドルが清純である必要はないが、清純であるという情報と、ファンの信仰心によってアイドルはアイドルとしての価値を保っている。
我々消費者にとって、むしろ情報こそが主食であり、それを信じる我々の愚直さによって、世界は成り立っている。
商品だけではない。
家族、友人、肩書き、コミュニティ・・・
この世の多くは我々が「そう思い込んでいる」だけの虚構であるが、それでいいのだ。
だってその虚構こそ、社会なんだから。
我々は、情報を食っている。
愚かである。
結構結構。
こうして僕は今日も、YouTubeでオススメされたウイスキーをロックで飲みながら
「やっぱりみんなが美味しいって言うだけあって美味いなあ」と、情報の塊であるウイスキーを飲みながら楽しく酔っ払うのであった。
おわり
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