実録!モラハラサバイバー19

恋ゲー

 モラハラ被害者の自己肯定感は恐ろしく低い。低いどころか0(ゼロ)を通り越してマイナスだ。次に病気をしたら本気で死のうと思っていたり、なんなら自分が死ねば夫は「最愛の妻を失った可哀そうな夫」という立場を手に入れられる。自分が夫にしてあげられる唯一にして最高の事なんじゃないかと真剣に考えたこともある。
 そこまで堕ちたカスのような自己肯定感なので、とても些細なことで少し浮上する。私にとってきっかけは『恋ゲー』だった。
私は一時期スマホの『恋ゲー』に夢中になった。『恋ゲー』とはいわゆる恋愛ゲーム。様々なシチュエーションが設定されていて自分が物語の主人公となり登場人物と恋をする。場面場面で選択肢が用意され、自分の言葉や行動をその中から選ぶことで物語は進行していく。有難いのは実際の世界では自分の選択肢として考えもしないようなセリフや行動もちゃんと提示してくれること。現実社会で自分がしてしまうであろう卑屈極まりない選択肢はそもそも存在しない。しかも登場人物はことごとく私を好きになってくれるではないか!
私は次々に恋をした。ひとつの恋が終わると別の登場人物。一つのゲームを制覇すると次のゲームと渡り歩き、多い時には3つのゲームを同時進行していた。彼らは一様に私を心から愛し、幕末の志士などは私のために命までかけてくれた。
 そうして、ちょっと・・・ほんのちょびっと浮上した。

 ―私は愛される価値のある人間かもしれない。
 ―私の名前を愛を持ってささやく人がいる。
 そのことは私を大きく勇気づけた。

 些細なことと言うべからず。私はこのささやかな浮上をきっかけに蘇ったのだ。
 その後、大学の社会人講座の選抜試験に挑戦し合格。必要単位数などお構いなしに獲れるものは全て受講し、貪欲に学んだ。
 
 知識は人を強くする。外に出て一流講師陣の講義を受けることで、少なくとも家庭という小さな社会で、ただただ夫のストレスの吐け口として生かされることに疑問が湧く。ダメ押しは必須講座だった「ハラスメント講習」。
 おかしいのは私じゃない。
 ハラスメント駄目絶対。
 そこに気付いたことで私は私の人生を取り戻した。まぁ、そこから大いなる戦いが始まっちゃうんだけど(笑)
気付かなければ良かったとは決して思うまい。

きっかけは『恋ゲー』だった。そんなことを考えて作られたものじゃないんだろうけど、こんなにお手軽なリハビリツールがある時代に心から感謝なのである。

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