アネモネは眠る。
紫色のアネモネを迎えた。
その日は、部屋にあるフラスコの形をした花瓶にちょうどいい花を探していた。
近所にある花屋は、隣にカフェが併設されていて、少ない席数と、誰にも干渉されない雰囲気がなんとなく気に入っていた。
ソファ席に通されると、冬の終わりを名一杯駆け抜ける風に、冷えた体をあたためようと、ホットミルクを頼んだ。
注文したホットミルクを待つ間、目的の花を選ぶ。
年々、気が付けば知っている花の名が増えている。
偶然知ったもの。
教えてもらったもの。
気に入った作品に登場したもの。
誰かが好きだと言ったもの。
目の前に並ぶ花ひとつひとつに、
記憶の影がこちらをのぞく。
求める花のイメージに、
結び付く記憶がときに邪魔をして、
目を細め、伸ばした手を止めたりなどするけれど、
そんなことがとてつもなくしょうもなかった。
一度引っ込めた手を伸ばして、
アネモネを手に取った。
紫色のアネモネを主役に、
赤いカラーと淡い紫のルピナスを選び、ソファに戻ると、あたたかいホットミルクが置かれた。
なんだか、しょうもない自分を許してもらえたような気がした。
家に帰り、鏡台の上にアネモネを飾った。
寝る前に鏡台の前に座ると、
昼間まで開いていたはずのアネモネが閉じていた。
不思議に思って、手元のスマホで検索する。
どうやら気温や明るさによって、
閉じたり開いたりを繰り返す類の花らしい。
「なるほど。アネモネは眠るのか。」
閉じては開くを繰り返し、徐々にその開きは大きくなり、ついに限界まで開くと、それがアネモネの終わりらしかった。
こういうことなら、いいな。
アネモネを少し羨ましく思った。
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