【禍話リライト】忌魅恐NEO「丑三つ時、公園にて待つ」
よく分からない話なんですよ。
でも、分かってはいけないというか、
分かろうとしてはいけない話らしいんです。
この話をしてくれた人が直接体験した話ではないんですけど……
*
職場の同僚の女性が、残業で残ってたときに話してくれたんですって。
「私あんまり実家に帰らないんですよ」
地元よりも実家出た後の友達の方が多いとかそういう話かなと思ったら違って、ちょっと訳があってあんまり帰りたくないんです、って。
実家を出て一人暮らしだそうなんですけど。
数年前、家で寝てたらいきなり耳元で言われたそうです。
「公園で待ってるから」
けっこうぐっすり寝てたのにバッチリ目が覚めてしまって。
しかもそれがなんか聞き覚えがある声で。
夢かな?寝ぼけてたかな?分からないけど寝直そうって、眼が冴えてしまったので睡眠導入剤か何かを飲んでもう一度布団に入って。
そしたら、寝入る直前にまた聞こえたんですって。
「公園で待ってるから」
じゃあ夢とか寝ぼけてるとかじゃないじゃないですか。
やっぱり聞き覚えのある声だったから、誰だったかなあって考えたら。
高校のときのあの人だ。
高校のとき嫌な思い出というか、変なことがあって。
あのカップルの彼氏の方の声だ、って気付いたそうです。
*
もうだいぶ昔の話なんですよ。
ちょっと大きめの高校だったからか、男女の交際に関してわりと寛容で、不純じゃなきゃ異性交遊してもいいよ、みたいなところだったんですって。
男女で一緒に登下校しても冷やかされるぐらいで、先生に駄目だぞって注意されるようなところではなくて。だからみんなオープンにしてて。
でも、とあるカップルだけ、付き合ってるのはみんな知ってたんですけど、登下校とか昼休みとかで一緒にいるところを誰も見たことがない。
でも仲良さげなのは見れば分かるんですよ。
だから、単に奥ゆかしいのかなってみんな思ってて。
そのカップルの彼女の方と、授業の発表でグループが一緒になったとかで、携帯の番号を交換してて。それこそ高校生が携帯持ち始めたような頃だったっていうんですけど。
その彼女からある休日の昼間に電話がかかってきて。
急になんだろう、学校外のことで電話で話したことなかったけどな、と思って出たんですって。どうしたの?って。
●●くんと待ち合わせしてるんだけど、
●●くんこっちに来てくれないんだよね
名前が出てきて、ああやっぱり付き合ってたんだと思ったんですけど。
こっちに来てくれない?ん?と思いつつも、まず待ち合わせ?どこで?って尋ねたんですね。
そしたらまあ、大体その辺のカップルはそこで待ち合わせるよねっていう、みんな知ってるようなちょっと大きめの公園で。
時間になったのに来ないとか連絡がつかないなら、ああ待ちぼうけしてるんだなってなるじゃないですか。だから聞いたんですって。
ごめん、こっちに来てくれないって何?って。
わたしはベンチに座って待ってるんだけど、
●●くんね、
入り口から入ってきてこっちに来てくれるのかなって思ったら、
公園の時計塔の周りをぐるぐる回ってるだけなんだ
は?何言ってんの?
ずっとあの時計の周りをぐるぐるぐるぐる回ってて、
ほら今も今も、
目線は合った、目線は合ったんだけど、
こっちに来てくれないんだよ
え、何言ってるの?
彼氏がふざけてるにしても何も面白くないし。
時計塔って言っても、よくあるポールの上に時計が据え付けてるような簡易なやつで。
そこをぐるぐる回ったりしたら当然目も回るし、真昼間なんだから公園にいる他の人たちがおかしいぞ何やってるんだってなるじゃないですか。
だから、ここだよ!とか声かけたらいいんじゃないのって言ったんですけど。
いやだって来てくれないんだもんおかしいよ、
前は待ち合わせてたらおーいって来てくれたのに、
時計塔の周りをぐるぐるぐるぐる回っててこっちに来てくれないよ
ずっと繰り返すんですよ。
知ってる公園だし位置関係は大体分かって。
それで、別にそんなのサッて行ってちょっと何してんのよ、で済む話じゃんってちゃんと言ったんですけど。
ああもう今も視線が合ったけど回りだした、
とけいとうのまわりをぐるぐるぐるぐる回ってて……
もう何言ってんの馬鹿じゃないの、って切っちゃったんですって。
よく分からないけど痴話喧嘩なのかな。
誰かに言いたくて、でも周りには隠してるというか公言してないから、たまたま番号を知ってた私にかけてきたのかな。
まあ気にしないことにしたそうです。
それで次の日。
登校してきた彼女の方が、ごめんねって話しかけてきて。
ああ冷静になったのかなと思ったんですけど。
「昨晩はパニックになっちゃってごめんね、あんなに長時間」
って言うんですね。
ん?昼間だったし五分くらいでこっちから切ったけど?
「本当にごめんね、ありがとう」
って行っちゃって。
一応自分の携帯の着信履歴も確認したんですけど間違いなく昼で。
そのあとで彼氏の方も来て。
「ごめんね、俺らで解決しなきゃいけないことをさ、付き合ってもらったみたいになっちゃって本当申し訳なかった、お昼ぐらい奢ろうか」
って、なぜか何らかの解決しなきゃいけないことに対して長時間親身に付き合ったことになってるんですよ。
何言ってんの馬鹿じゃないのって言って切ったのに。
訳が分からないんですけどそこは、ああいや、奢ってもらうほどのことじゃないからって濁して。
放課後になったらまた改めてカップルふたりで来て。
本当に助かったよ、ところであのことは他の誰にも話してない?って聞いてくるんです。
いや、話してないよって。
まあそもそも、こんなこと誰にどう話したらいいんだよって思ったそうなんですけど、そしたら。
「あ~あ、本当●●ちゃんに相談してよかった~」
「そうだな、不幸中の幸いだったよな」
そう言ってふたりとも帰っちゃって。
なに?これもふたりの間だけで通じる遊びというか、惚気の一環なわけ?
付き合いきれないなあって。
でもその数日後。
彼氏の方が交通事故で亡くなったんです。
例の公園を出たところの通りで。
夜になると結構大きいトラックとかが走るところなんですけど。
遅い時間にはねられて亡くなっちゃって。
クラスメイトだからお葬式に出席したんですけど、彼女の方は来てなかったんですって。つら過ぎて来られなかったのかなって思ったんですけど。
でもその後、彼氏が死んだにしてはえらくサバサバしてるなって様子で。
みんな変な感じだなあとは思ったものの、別に現実を否定するというか、死んだことを認められないとかではない訳です。
悲しまないの?って聞くのもおかしいじゃないですか。
私たちが知らないところで、何かきっかけがあって吹っ切れたなら、何か言うようなことでもないし。
変な感じではあったんですけど、立ち直ったならまあいいかって。
*
これが高校時代の話です。
公園で待ってるって言った声が、その彼氏に似てて。
今更どうして、別に自分のせいではないし引きずってたわけでもないし。
それで気になって翌日、地元に残った友達に電話で聞いてみたそうです。
あの彼女の方の子、今どうしてるんだっけ?
ああこないだスーパーで会ったよ、どこそこのデパートに勤めてて元気らしいよ。
特に変なこともなく、ああそうなんだで終わって。
それからしばらくして。
祖父母の何回忌とかそういうタイミングで地元に戻ることがあって。
法事が終わって会場から実家まで、まあ歩いて帰れるけどちょっと遠いかなぐらいの距離で。
両親はバスで帰ることにしたんですけど、じゃあ自分は散歩がてら歩いて帰るねって分かれて。
それで歩いてたら急に思ったんですって。
「あ、今日だ」
その足でコンビニに寄って、お菓子とか飲み物とか色々買い込んで。
「今日だ今日だ」
あの公園に向かったんですって。
「そうだった今日だった、今日会うんだった」
ってベンチに座って。
どう考えてもおかしいんですよ。
おかしいんですけど、その時は自分で疑問に思ってないんですって。
そのあいだ実家から、あれ?なかなか帰ってこないけどどうしたの?っていう電話が何回も来てて。
マナーモードにはしてなかったので着信が何度も鳴ってたはずなんですけど、でもなぜか一切気付かなくて。
そうしてベンチに座ったままずっと待ってて。
もう丑三つ時ぐらいになっちゃって。
そこで急に思ったんですって。
あ、でも、お目当ては私じゃないかも。
そもそも自分たちで解決しなきゃいけなかった話なのに、
巻き込んでごめんねって言われてたし。
別にお前に来てほしかった訳じゃないんだけどなあ、って。
がっかりならまだいいけど、
何でお前がいるんだよって怒るかもしれない。
やっぱ帰ろう。
そう思って。
立ち上がって歩き始めたぐらいで、やっと気が付いたんですよ。
え?自分何してるの?
何でこんな買い込んでここにいるの?
それで携帯見たらすごい時間になってるし、親から滅茶苦茶電話来てるしで、とりあえず急いで折り返しかけて。
やっと繋がったどうしたのどこ行ってたの心配した~って当然言われて。
ああごめんごめん友達と会っちゃってさ、本当ごめんねこんな遅くまで、今から帰るからさって何とか話を合わせて。
はや足で歩きだして。
そのときよせば良かったんですけど、一応確認というか、あの懐かしの時計塔の方に振り向いてみたんですって。
そしたら。
時計塔のところから、まさに今スタートしたみたいな感じで。
誰かがものすごい勢いでこっちに走って来たんですよ。
もう走って逃げだして汗だくになって家に着いて。
家族にどうしたの大丈夫?って聞かれたけど、うん、まあ……って誤魔化したそうです。
ここでいったん話が終わって。
この話をしてくれた人も、そんな怖い目に遭ったら実家に帰りたくないよなって思って。
でも、それは理由じゃないって言うんです。
あれは、たまたま変な人がいただけかも知れない。
大きい公園だから、そんな時間でも他にたむろしてる人がいたし。
ふざけて自分じゃない誰かに向かって走った人を勘違いしただけかも。
そういう風にまだ説明を付けられるからって。
じゃあどうして?
それからある時、高校の同窓会があったそうです。
本人は興味なくて行かなかったそうなんですけど。
地元の友達から連絡があって。
卒業の時に埋めたタイムカプセルを開けたんだよ。
あんた将来の夢は何々って書いてたよ。
へえそんなこと書いてたっけ、って話をしてて。
そうそう、それが変なんだけどさ。
こないだ話に出てたあの子、今はデパートに勤めてるあの子さ。
彼氏亡くなったあと澄まし顔でいたけど、
やっぱ内心なんかあったんだろうね。
タイムカプセルの中に手紙が入っててさ、
他のみんなの手紙は閉じられてたんだけど、
何故かその子の手紙だけ開いてて不可抗力でみんな見ちゃったんだよ。
あの彼氏とあの子の連名で書いててさ、
それがあんた宛で、何か覚えある?
「●●ちゃんへ。何から何までありがとう」って。
*
全然分からないですよね。
何が起きていたのか、いったい何に巻き込まれていたのか。
時間って歪むからねって言った人もいるんですけど。
この話を聞かせてもらったとき、なんか汚い手書きのメモを一生懸命見ながら話してくれてたんですね。
だから何かに打ち込むとかすれば良かったのにって思ったんですけど。
聞いた当時どこかにアップしようと思ってパソコンで書き上げたんだけど、原因は分からないんだけど全部消えちゃって。
それでもう一回書き直してもやっぱり消えたっていうんですよ。
手書きなら大丈夫だったって。
他にも、素人の飛び入り参加で怖い話するみたいなイベントがあって。
そこで話そうとしたら、何故かぼーっとしちゃって話せなかった。
貧血になったみたいに言葉が出て来なくなったんですって。
ワンクッション置いたからもう大丈夫だとは思うんですけど。
そういう話です。
【おわり】
※本記事は、猟奇ユニット「FEAR飯」による怖い話をするツイキャス『禍話』のうち、『禍話アンリミテッド 第七夜(後半)』(2023/2/25)の5:00~にて語られたお話を、筆者が編集、再構成等を行い文章化したものです。実際の語りとは表現が異なりますので、気になる方は是非本編を視聴してみてください。
※何ひとつわからんという意味では確かに非常に怖いというか気持ち悪い話なんですけど、でも「本当のこと」が決定的に届かないところに行ってしまった、そこに束の間時間を超えてすれ違った、のかな?という部分に、不気味なだけではない寂しさ、儚さ、透明さの感触も覚えました。何故なのかは考えないようにしています。
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