【禍話リライト】はじまりのベル
この話をしてくれた人なんですけど、大学生時代にあることが原因で人がたくさんいる場所が苦手になっちゃって。
それ以来あまり人付き合いしないようになってしまったんですって。
Aさんは元々は結構明るい人で、広く浅く付き合いがあって。
学部で大教室の授業とかあるじゃないですか、大体みんな知ってるっていうか、ちゃんと知ってるわけじゃないけど名前聞けば「ああ~、あの」って。
アドレス帳に苗字だけで知り合いいっぱい載ってるみたいな、交友が広いタイプで。
それで、そういう名前しか知らないけど、みたいな人がいっぱいいるような飲み会に参加してて、たまたま隣になった人がいて。
それこそ授業で一緒だな、くらいしか接点のない人だったんですけど、話してたらちょっと仲良くなって、その場で番号とかアドレスとか交換して。
この人を仮にBさんとしておきますね。
どちらとも大学近くに住んでて、お互いの家に遊びに行くような感じになって。
それこそ文化系と体育会系みたいな、本来であれば全然接点がない者どうしだったそうなんですけど、なんかウマが合って。
一緒にご飯食べに行ったり、カラオケや買い物行ったりしてたと。
ある日、Aさんの部屋で一緒にテレビを観てたら、なんかBさんが暗いなあって。
番組見ながらおやつとか食べてるんですけど、なんか様子がおかしい。
それで今日どうしたの?って聞いてみたんですね。
いや、今朝ね。
寝てたら明け方くらいに大きなベルの音で目が覚めて。
寝起きでえ?え?え?って、なんだか分からないけど大変だって身の回りの物つかんで外出たら、自分のマンションは何ともなくって。
なんだなんだと思ったら、二個向こうぐらいの学生マンションの前で、女性専用なのかな?女性がいっぱい出てきてて、不安げに建物見てて。
酷い話だけどウチじゃなかったんだ良かった、じゃあいっかって戻って寝ちゃったんだ。
ああ、そうなんだ、とは言ったものの。
自分も近所に住んでる訳です。
内心、非常ベルもサイレンも聞こえなかったけどなあって思って。
仮に間違いだったとしても、とりあえずいったん消防車来るじゃないですか。
それで話しながら、一応インターネットで消防車の出動の情報とか見たんですけど無くって。まあ全部が全部網羅されてるかも分からないのでそれは置いといて。
それにしたって、この話でどうして凹んでるのかが分からないなと。
朝寝てたかったのに起こされちゃったって話かな?とは思ったんですけど。
それで?って話の先をうながしてみたんですね。
いやあそれがさあ、後から思い出してみると、マンションから飛び出してた女の子たち、みんな同じジャージを着てたんだよね。
そんな訳ないだろう、と。
体育大学の寮でもないし、全員が全員寝間着がジャージってのもおかしいし。
2、3人同じジャージだったとかなら、たまたま同じ大きい運動系サークルの人だったとかはありえますけど。
だから、そんな訳ないじゃん、そうだよね気のせいだよねって話して。
でもちょっと沈んだ雰囲気のまま少ししたらBさん帰っちゃって。
何をそんな凹むことがあるんだろう?
なんか理由があってみんな同じジャージだったからって、別に関係ないじゃないですか。
*
次の日Bさんから電話があって、昨日はごめんねすぐ帰っちゃって、って。
実は二個向こうのマンションでね、人が死んでたの。
でね、それが高校の同級生だったの。
それを聞いてAさん、そうだったんだ、知ってる人が亡くなってて凹んでたのかって合点がいって。
つまり、同じ建物に住んでる人が死体見つけてパニックになっちゃって非常ベル鳴らした、みたいな話なのかな?と思って。
まあずっとそんな話してるのも嫌なので話題を変えようとしたそうなんですけど、Bさんが話を戻すんですって。
そうなんだ大変だったね、あ、そうだ今度さ、こないだ言ってたどこそこ行こうと思ってたんだけど……って話を振っても、何度も何度も。
うん、それでさあ。
二つ向こうのマンションで同級生が死んでたの。
うちの高校のやつだったの。
戻っても戻っても同じ話なんですよ。
向こうも今ちょっとショックで病んでるのかもしれないけど、申し訳ないけど電話切りたいなあって。
それで何度目かの同じ話で、うちの高校のやつだった、うん分かった分かった、同級生の友達だったんでしょ?って正直うんざりしながら話を合わせてたら。
「いや違くて。ジャージがさ」って言うんですよ。
え?何が?
みんな同じジャージだったって言ったでしょ、あれみんなうちの高校のジャージだったんだよ。
一瞬あっけに取られて。
は?いや、同じマンションにそんなに同じ母校のやつが集まる訳ないでしょ、何言ってるのって突っ込もうと思ったんですけど。
その直後ありがとうって切られちゃったそうです。
流石に話にとりとめがなさ過ぎるし、気持ち悪くなってきて。
最後ありがとうっていうのも変じゃないですか、まあ話を聞いてくれてありがとうってことかなとは思ったそうなんですけど。
*
それからしばらくして、大教室の授業で次週テストだって告知があって、持ち込み可だけどただしプリントのコピーは駄目ってやつで。
じゃあ、たまたま自分が休んでた授業のぶんを誰かに見せてもらわなきゃって、まあ大学生あるあるですよね。
Aさんが知り合い何人かにメールで聞いてみたら、Bさんが持ってると。
ありがたく見せてもらいに行くねって話になったんですけど、たまたまバイトとかで色々都合悪くてすぐ行けなくて。
結局夜の10時ぐらいにBさんの部屋に行ったんですって。
「ごめんね本当こんな時間に、いま大丈夫?」「大丈夫だよ」ってやり取りのあとで、Bさんがノートとプリントを玄関先まで持ってきてくれて。
まあ普通な様子だったから、良かった立ち直ったのかなって。
ざっと目を通してみたら、これはテストには出ないなって内容で。
もし仮に出たとしても、別の日の内容で十分回答できちゃうなって感じで。
それでパラパラと内容確認しながらテストの話をしてたんですね。
そしたら急に「●●はさあ」って知らない誰かの名前を言われて。
え?誰って聞いたら。
ああ、●●って死んだやつの名前。
●●はクラスずっと一緒だったんだけど、こっちに来てたの知らなかったんだよね。
学部が違ったから気付かなかったんだろうけど、どうして教えてくれなかったのかなあ。
うわっ、また話が戻ったよって。
まあ知ったこっちゃないじゃないですか。
だから、いや知らないけど、高校のとき違うグループだったから気まずかったとか?わざわざ教えるまでもないって思ったとかじゃない?って言ったんですって。
いや全然けっこうまとまってるクラスだったんだけどね。
なにが気まずかったのかなあ。
あ、でもね、高校のときクラスで一人死んじゃったやつがいてさあ。
面白いやつだったんだけどなあ。
話が戻るばかりか、さらに嫌な話になってきたな、なんかどんどん死ぬなこいつの知り合いと思って。
あ、そ、そうなんだって返すのが精いっぱいで。
ところで。
さっきからとりあえず上がればいいのに、なんでずっと玄関先で話してるのかってところなんですけど。
実はBさんの部屋を訪ねたとき、玄関にいっぱい靴があったので、何かサークルとかBさん側の交友関係の人が来てるんだと思ったんですね。
直接は見えないんですけど、奥の部屋の中に何人か座ってる気配がしてて、だから遠慮して玄関先で話してたんです。
話してる最中、そんな下って見ないじゃないですか。
でも、話の雲行きが怪しくなって、ちらっとそのたくさんある靴の方を見たら。
上履きだったんですって。
最近買ったような、でも中高生が履くような上履きが、5~6足ぐらい。
それで、「え?今日誰が……?」って言いかけて。
そしたら部屋の中から、それまでずっと何の音もしてなかったんですけど、
あたしのせいじゃないよ!!
って知らない女性の声がして。
「……あのごめん、奥の部屋で何してんの?」って言いながらAさん、(あ、これ聞いちゃいけないやつだな)って思って。
Bさんがごく普通のトーンで「がっきゅう……」まで言ったところで、ノートとプリントその場で放り出して逃げちゃったんですって。
万が一あとを追って来られたら嫌だから、エレベーターも使わないで階段で駆け下りて。
学級……まで聞いちゃったらもうほとんど分かってしまったようなものなんですけど、とにかく最後まで聞いちゃ駄目だ!と思ったそうです。
*
そんなことがあったって、やっぱり授業は出なきゃいけないしテストも出なきゃいけない。
教室でずっと下向いてるしかないんですけど、視界の隅に服装とかでBさんが近くに座ってるのが分かってしまうんですね。
話しかけては来ないんです、でも後ろとか前とか結構近くにいる。
もう黒板と教授だけ注視し続けるんですけど、時々どうしても視界に入ってきてしまって。
自分より前の方の席に座ったとき、明らかにこっちを振り返って見てるんです。
それでAさん、だんだんと人混みが駄目になってしまって。
Bさんがその後どうなったかは知らないそうです。
それ以降、大教室の授業とかは避けて、同じ学部の人間しかいない少人数の授業だけ取るとか、何とかBさんと被らないようにしたそうなんですけど。
どこかでばったり出会ってしまったら、話の続きをされるんじゃないかって怖くなって。
Bさんも普段は明るくて交友の広い、それこそ人が集まるようなところならどこにいたっておかしくないような人だったので。
そういうところに行けなくなれば、必然的に交遊も狭くなってしまって、今に至ると。
下手したら今でも、同じように誰かにまた話をしようとしてるんじゃないかって、それも怖いって。
なるほど怖い話ですねって聞きながら思ったんですけど。
Bさんが言ってたベルの音のこと、非常ベルだって解釈して話してるじゃないですか。
でもこれ本当はBさんに聞こえてたのは、授業開始のベルだったんじゃないか、そんな気がするんですよ。
【おわり】
※本記事は、猟奇ユニット「FEAR飯」による怖い話をするツイキャス『禍話』のうち、『禍話アンリミテッド 第二十三夜』(2023/6/24)の58:30~にて語られたお話を、筆者が編集、再構成等を行い文章化したものです。実際の語りとは表現が異なりますので、気になる方は是非本編を視聴してみてください。
※永遠に過去が追いかけてくるというホラーのド定番を、その外側から垣間見た(垣間見ただけでドえらい影響を被った)みたいな組み立てがとても良いなあと思いリライトしました。余談ですが、私の中ではBさんに聞こえていたであろう始業のベルの音が『さよならを教えて』終盤のアレで再生されています。
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