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【禍話リライト】まりあの本


これは学校の怖い話です。



みなさん子供の頃に図書室や地域の公民館で、絵本とか児童書を読んだり借りたりしたことあると思うんですけど。
ときどき寄贈された本なのか元々の持ち主の名前書いてることありますよね。
とある小学校の図書室に、寄贈されたちょっと古めの絵本が一式あって。
苗字は分からないんですけど、それに「〇〇まりあ」って名前が書いてあったらしいです。
昭和とか平成の、キラキラネームとか出て来る前の話で、まりあって名前は珍しかったから「あ、まりあ様の本だ」みたいに軽くいじるみたいなのがあって。

最初はただそれだけだったんですけど。

あるとき絵本じゃなくて高学年が読むような漢字多めの本の巻末にも「〇〇まりあ」って書いてて。
本自体の年代も全然違うし、ここ半年ぐらいに新しく図書室に入った本なんですよ。でも見た感じ筆跡は同じみたいで、気持ち悪いなあって。
もちろん図書委員の子たちがいたずらはやめてくださいって言ったんですけど、そもそもその学校の図書室はマナー良かったらしくて。
貸し借りの履歴をカードに書いたりするじゃないですか、それを見る限り全然借りられてないし。
じゃあ開いてる時間に誰かが落書きしたのかって話になるんですけど、そこのルールで図書室で勉強したり、筆記用具持ち込んだりするのは禁止になってて。
落書きなんかしてたら絶対目立つし気付くはずだから、いよいよ何者の仕業か分からないってなったんですよ。

さらに。
よく図書室の奥に持ち出しちゃいけません、禁帯出って書いてあるデカい百科事典とかありますよね。
たまたま新聞部か何かが難しい調べものがあってそういう本を開いたら
「おいおいおい、ここにもあるよ、まりあ様って書いてるよ」
って騒ぎになって。しかも巻末とかじゃないここに書くか?っていうような変なページに書いてあるんですよ。
流石に先生達もちょっと調べますってなって。
でも不思議なことに、じゃあ発端になった寄贈の絵本はいったんどこかにまとめておこう、みたいな話にはならなかったんですって。
普通こんな変なことが起こったら、落ち着くまで奥に仕舞っておこうとかなると思うんですけど、ずっと読めるし借りられる状態のままだったそうです。





この話をしてくれた人を仮に「Aさん」としておきますけど。
小学生の時のAさん、普段は物静かな感じなんですけど、ものすごい愉快犯気質の子で、ときどき洒落にならない悪ふざけをするタイプで。
まりあ様の本の話を聞いて、ちょっといたずらしてやろうと思って。
こっそり筆記用具を図書室に持ち込んで、うまいこと図書委員や先生の目をかいくぐって、当時流行ってたアイドルっぽい子が頑張るみたいな本に「〇〇まりあ」ってサッと落書きして元の場所に戻しておいたんですって。
「人気の本だから明日になったら誰か読んでビビるだろうなへへへ」って。
特に深くは考えてなかったんですけど、どうせこんな感じで自分以外にも誰かが人をおどかそうとしてやってるんだろうなって思ってたそうです。


翌日、昼休みまで待ってみたんですけど騒ぎにはなってないみたいで。
まだ気付かれてないか~、じゃあ放課後なら何か起きるかな~って帰りのホームルーム終わってすぐに図書室行って。
それとなく本棚を見たら自分がいたずらした本がなくなってるので、愉快犯気質が刺激されるというか、よし、これは誰かが引っかかったよと。
それで、誰かが借りていったか、でなければ今ここで読んでるかもしれないと思って、図書室にいる全員を見て回ったんですって。
この人が読んでるのは……違うな、推理ものだな。
次、この人は……図鑑だな。
一通り回って、座って読んでる子たちの中にはいなかったと。
じゃあ持ったまま部屋の中をぶらついてるやつがいるのかな、と一応奥の方にも行ってみて。
奥の大きな百科事典とかがある、本棚の陰になってるところまで行って、やっぱり誰もいない。
誰かが借りて帰ったんだな、それなら騒ぎになるのは明日だな、って納得して。


じゃあ帰ろうって振り返ったら、私服の知らない女性が立ってたんですって。当時の印象で言うと自分たちのお母さんぐらいの年代の人が。
先生じゃないし、じゃあPTAの人かなって思ったらしいんですけど、じゃあなんでPTAの人がいるんだろう?
立ちふさがって、じーっとこちらを見てるんですって。

何だろ、あ、これ自分が落書きしたってバレて、それで怒られるのかな。
そう思ってたら、その女の人がAさんのフルネームを言うんですって。例えば仮に佐藤花子さんだったとしたら
「さとうはなこ」
って。

そこってみんな名札付ける決まりの学校じゃなくて、ぱっと見で名前分かるようになってなかったんですね。
なんでこの人わたしの名前知ってるんだろう?クラスメイトの誰かのお母さん?どういうこと?
そしたら今度はこっちを指差しながらもう一度
「さとうはなこ」
って言うんですって。

だから小声で「え、なんですか」って。
流石に気持ち悪いから後ずさったら、ゆっくり追ってくるんです。
本棚の端で曲がってダッシュしたら逃げられるかなって思ったんですけど、そうしたら回り込まれてしまって。
その女性がかけてたバッグから何かごそごそって取り出して、Aさんにぐーって突き付けてきて。
何だと思ったら自分が落書きしたあの本の、落書きしたページを開いてこっちに向けてるんですね。

恐怖で固まってたら、「〇〇まりあ」って書いてるところを指で一文字一文字追いながら、またAさんのフルネームを言うんですよ。
違うんですよ、そこには「〇〇まりあ」って書いてるんですけど、

さ・と・う・は・な・こ
さ・と・う・は・な・こ


って指で追いながら繰り返し言うんですって。

ごめんなさい!ごめんなさい!って言って今度はぐるっと大回りして図書室から出ようとしたら。
そしたら図書室が真っ暗になってたんです。
あれ、え、なんで真っ暗なの!?って困惑してたら、入り口のところに図書委員の子が立ってて。あ、ごめんなさいまだ残ってました?もう時間だから消しますよ~って。
放課後入ってすぐに行ったので時間は余裕あったはずなのに。時計を見たらいつのまにか1時間経ってたっていうんですよ。





その後何事もなかったそうなんですけど後日談があって。

Aさんが大学生ぐらいになってあるとき、友達が占い師のところに行くと。
道端とかお店じゃない、口コミでしかやらないマンションの一室でやってる人で、女1人で行くのはちょっと怖いから付き合ってくれって。
それで一緒に行って、まあAさん的にはどうでもいい話でわあきゃあ喜んでて。終わったのでじゃあわたしは付き合いできただけなんで、って帰ろうとしたら。
その占い師の人が「いやあ良かったねえ」って。
なにがですかって聞いたら、「あなたあのとき右回りに行ったでしょ」って。

図書室で追いかけられたとき右回りに大きく行ったでしょ。もしあのとき左回りに行ったらね、どうなってたか分からないね。

最初なに言ってんだこいつって思ったんですけど、図書室ってキーワードが入ってるから、うわ気持ち悪い!って。
ああはい、ありがとうございます、って帰ったそうです。


皆さんも本に落書きとかしない方が良いと思います。

【おわり】






※本記事は、猟奇ユニット「FEAR飯」による怖い話をするツイキャス『禍話』のうち、『元祖!禍話 第七夜 食糧支援大感謝祭』(2022/6/11)の31:27~にて語られたお話を、筆者が編集、再構成等を行い文章化したものです。実際の語りとは表現が異なりますので、気になる方は是非本編を視聴してみてください。

※筆者個人は小学生の頃から本の虫でしたが、学校の図書室って普通に怖い本(学校の怪談大ブーム直撃世代だった)やグロい本(自然科学系)も内包されていて、好きな場所ではありつつ望まぬものとも遭遇しうる漠然と怖い場所でもあると感じていたのを、この話で思い出しました。

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