港から里山まで……多彩な地形に学ぶ食のめぐみ射水食卓会議レポート 前編
4月下旬。めぐるめく事務局は、全国各地から多領域の食農に関わるメンバーとともに、まだ少し肌寒い富山県射水(いみず)市を訪れました。
富山県のほぼ中央に位置する、人口約9万人の県内第三都市、射水市。官公庁や大学、商業施設が集まり、子育てのための施設や公園も充実しているため、ファミリー層に人気の地域です。漁港や田畑など地形を活かした産業が多数存在しています。
今回のフィールドツアーは、グリーンノートレーベル株式会社の大坪史弥さんにコーディネートいただき、港や里山で生産や加工に取り組む人たちのもとへ会いに行ってきました。
1.案内人・みなとキッチン/大坪さん
まずは案内人の大坪さんをご紹介。静岡県から地元の富山県へ2015年にUターン後、富山県氷見市の移住相談員を経て、2017年よりまちづくり会社グリーンノートレーベルに入社。新しい関係が生まれたり、交流が深まったりする“場”づくりを富山県内でプロデュースするなかで、コワーキングスペースの立ち上げや空き家リノベーションの企画に携わってきました。現在は、射水市が誇る新湊(しんみなと)漁港すぐそばに建つ「みなとキッチン」のマネージャーとして活躍中です。
みなとキッチンは、株式会社グリーンノートレーベルが地場の水産卸会社と手を組み、2022年の10月に空き店舗だったスペースをリノベーション、魚食専門のシェアキッチンとしてオープンした場所です。
「みなとキッチンがオープンしてからは、魚や漁業の魅力にハマってしまって、朝5時半から漁港へ行って競りに参加して魚屋の見習いのようなこともやっています」と笑顔を見せる大坪さん。港での日々を楽しく過ごしているのが伝わってきます。
この日は、白えびの身剥きをみんなで体験しました。“富山湾の宝石”と言われる白えび。とろりとした食感の身は、殻を剥くのも一苦労なのです。「僕も得意ではないですが……」と、大坪さんが白えびのきれいな剥き方のコツを教えてくれました。
まずは頭を取って、殻のままの身を真ん中でパキッと割ります。割れ目を少しねじりながらやさしく中身を押し出します。身がやわらかくてとても繊細なので、とにかくちぎれやすい!苦労して剥いても、ほんの少しの身しか取れません。剥き身以外の部分はスープなどの出汁として使えるとのこと。
「ちぎれちゃう……」と指先に真剣な眼差しを注ぎ、剥いた身を嬉しそうにお皿に並べていくみなさんの姿がほほえましい。味見をすると「甘い!」と目がまん丸に。いつも美しく盛り付けられている白えびのお刺身の素晴らしさを身を持って体験しました。
2.有限会社孫七・川田水産/川田さん
続いて足を運んだのは、新湊漁港で水産仲卸業を営む有限会社孫七・川田水産(以下、孫七)の加工所。孫七の店舗では、白えびやホタルイカ、カニなどの四季折々の富山湾の海の幸を取り揃えています。先ほど訪れたみなとキッチンの発起役でもあります。
“天然のいけす”と呼ばれる富山湾のなかでも、新湊漁港は有数の漁港として知られています。山々から運ばれてくるミネラルを豊富に含んだ水が、新湊の魚介類を栄養いっぱいに育てるのです。
加工所に訪れると、茹でたてつやつやのホタルイカが、ズラリ!!「普段見ているホタルイカと大きさが全然違う!」と参加者の驚く声も。富山湾のホタルイカは、産卵のために沿岸近くに寄ってくるので大粒なのです。
「富山のホタルイカは肝のうまさが特徴です。なかでも射水のホタルイカが一番うまい!」と誇らしく話す川田さん。3時間前には富山湾で泳いでいたという、茹で上がったばかりのホタルイカを試食させていただきました。
身がプリプリで、ぷちゅ!と弾けるように肝のうまみが口の中に広がる、たのしい食感。「茹でたては軽やかな風味に感じますね」との参加者の感想に、「1日経つと味が馴染んでうまさが変わってきますよ」と川田さん。
漁場から近く、早く加工できるからこそうまみが詰まっている孫七のホタルイカ。塩分濃度や茹で時間、温度にもこだわっています。ホタルイカを一度にたくさん茹でると茹でムラができてしまうため、あえて少量ずつ茹で上げていくとのこと。シーズンのなかでもホタルイカのサイズが変わっていくので、茹で時間を調整しているそうです。
ちなみに大坪さんは、川田さんから週に1回、茹でたてのホタルイカを一皿いただくのだとか。川田さんは大坪さんを「うちの広報担当だよ」と笑顔で紹介。日頃の仲の良さが垣間見えました。
孫七では、白えびの剥き身もパッキングしています。白えびは4月から11月の上旬まで獲れるものですが、水揚げされたものを急速冷凍&ストックし、一年を通して加工しているとのこと。日本全国から取引があり、人気の高級食材です。
「生の白えびをそのまま剥くのは非常に難しいので、急速冷凍後に解凍するタイミングで剥きます。殻と身の間に細胞から出た薄い水の膜が入って剥きやすくなるんですよ」と川田さん。1時間で、一人あたりおよそ1キロの白えびを剥くのだそう。私たちも体験したからこそ、「信じられない……」と驚きの声があがりました。
孫七を訪問後、参加者同士で「富山のホタルイカは格別に甘い」「東京のスーパーに並んでいる魚の種類って少なすぎるよね」「鮮魚コーナーがないスーパーもたくさんある」など、地域によるホタルイカの違いやスーパーの鮮魚コーナーについての話が盛り上がりました。
3.いみず食香バラ研究会/福井さん
最後に向かったのは、港ではなく里山。木々が生い茂り、鳥たちがのびのびと鳴く見晴らしのいい農地へ。「食香バラ®」を栽培するいみず食香バラ研究会の福井さんにお話を伺いました。
食香バラは中国で育種された“食べるバラ”。日本では2017年頃から販売されていますが、まだ馴染みのないバラかもしれません。
食香バラを知った射水市内の花き流通業者が、射水の里山地域一帯をバラ畑にしようという構想を市長へ提案したことがきっかけで、2022年4月、射水市が使われていない農地を引き取って食香バラの試験栽培を始めました。
現在は「豊華(ホウカ)」「紫枝(スズ)」「唐華(トウカ)」の3種類、計870本ほどのバラが植えられています。農場として生産されているのは、群馬県の中之条ガーデンズと射水市の畑のみ。日本の農業のなかでも新しい取り組みということがわかります。
バラ畑を訪れると、ニホンカモシカが遠くからこちらをじっと見つめている姿を発見!少しずつ近寄ってきて、駆け抜けていきました。カモシカによる食香バラへの被害は特にないそうですが、自然との距離の近さを感じますね。
私たちが訪れた4月下旬は、まだバラの小さなつぼみが芽吹き始めているところでした。ゴールデンウィーク頃から6月下旬までは、ほぼ毎朝、花を摘むことができます。
射水市の観光といえばベイエリアやお魚にスポットが当たりがちですが、里山にも新たな観光スポットを生み出していきたいと話す福井さん。射水市役所の職員として、熱意をもって食香バラ栽培の担い手となり、ほぼ一人でバラ畑の手入れをしています。「花が開く瞬間が一番香り高いんですよ」と嬉しそうに蕾を眺める福井さんの表情から、活き活きと取り組まれている様子が伺えました。
いずれは宿泊や滞在も伴うような地域のコンテンツとして育てていけるように力を注いでいるとのこと。現在は、ブランチ付きの朝摘み体験などを行っているそうです。「食香バラの栽培と商品化をうまく組み立てて、農業者が潤う仕組みを作っていきたいです」と話す福井さん。射水の未来を担うかもしれない食香バラの可能性に触れたひとときでした。
4.みなとキッチンへもどり、ランチタイム
フィールドツアーを終え、お腹を空かせてみなとキッチンへ。
ツアー参加のお土産に、食香バラ「紫枝(スズ)」の花弁にレモン汁とグラニュー糖を加えてミキサーにかけたジャムをいただきました。とても鮮やかなピンク色。せっかくなので、ランチの前にソーダ水にジャムを少しだけ溶かした食香バラソーダでさっぱりとリフレッシュ。少量でもふわっと芳醇な香りにみなさんが驚いていました。
ランチは、味噌作りワークショップなど、県内で食にまつわる活動に取り組む料理家のたべごと屋 ナトゥーラのおふたりが作ってくれました。射水市の特産「いみずサクラマス」と新鮮な葉野菜やお花で彩られたちらし寿司、サクラマスのあら汁、タンポポの蜜をかけた豆腐花をいただきました。素材の良さがしっかりと伝わるやさしい風味に、ほっとひと休み。
向き合い、言葉を交わし、五感で味わった射水の食のめぐみ。語り手のみなさんが笑顔で取り組みについてお話しされる姿に、地域と食への愛着を感じました。射水を誇りに想い、前へと進む姿にエネルギーを与えてもらえたフィールドツアーとなりました。
フィールドツアーの後に開催された地域内外の交流会については、後日記事を公開予定です。お楽しみに!
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