未利用食材のこれからを考えるめぐるめ倶楽部、東京で開催
3月中旬、東京丸の内の3×3Lab Futureで「めぐるめ倶楽部」が開催されました。
今回は、今まで食べられてこなかった「未利用食材」の活用に挑戦するチャレンジャーが集い、販売方法や文化の情勢まで多様な議論が交わされました。本記事では、会場の様子や議論の内容をお届けします。
チャレンジャーのプレゼンテーション 〜前半
集ったチャレンジャーは6名。まずは、それぞれの活動と、お題となる食材「めぐる芽」のプレゼンテーションです。前半後半に分かれて3名ずつ発表しました。
丸岡 毅さん|京都大学大学院農学研究科博士課程
めぐる芽「虫秘茶」
始めに、ほうじ茶のような色合いのお茶が配られました。丸岡さんが開発しているのは、虫の糞で出来たお茶「虫秘茶(ちゅうひちゃ)」。会場に配られたお茶は「マイマイガ」という虫の糞でできたお茶です。香りは華やかで、発酵感が紅茶に近いお茶でした。
丸岡さんによれば、虫の体内で行われる咀嚼から腸内発酵の過程が、一般的なお茶の製法と酷似しているため、このような味わいが生まれるそう。この世に存在する、27万種の植物と16万種の虫を掛け合わせて生まれる虫秘茶は、その数だけ多様なものとなります。その多様性が新たな嗜好特性や健康付加価値の発見につながる可能性がある、と丸岡さんは話しました。
現在、一般販売は行っていませんが、これから飲食店での取り扱いが始まるそうです。
沖 浩志さん|合同会社アルコ
めぐる芽「山さんが焼き」
続いて登場したのは、千葉県館山市でジビエ加工処理施設を運営する沖さん。獣害に悩まされている館山市では、被害に合った畑や田んぼが耕作放棄地になり、さらに猪が増えるという悪循環が生まれているそうです。
館山市のみならず、全国で被害総額は161億に上ります。国は被害減少のためのジビエ活用を進めていますが、捕まえる方の高齢化により後処理ができないという課題があります。そこで、捕まえた猪を買い取っているのが沖さんです。その取り組みにより、以前は9割以上廃棄されていた猪が、現在では7割まで減少しました。
会場に配られたのは猪をミンチにした「山さんが焼き」。猪の雌雄や季節による個体差を個性と捉え、付加価値にしていく必要がある、と沖さん。脂の乗った季節のお肉と、硬めのお肉が混ぜ合わさった歯ごたえの違いを楽しんでほしい、と話しました。
若杉 亮介さん|ByteBites株式会社
めぐる芽「廃棄予定の食品を活用したクリームデザート」
ByteBitesは「デジタル技術による食製造・食文化の拡張」をミッションにした企業。最初に若杉さんは、自身が活用している3Dフードプリンターの4つの価値を説明してくれました。
1つめは「自由な造形」。会場には繊細な網目が施されたチーズ配られ、3Dフードプリンターで造形することができる難しい構造を目の当たりにしました。2つめが「再現性」で、調理データを誰にでもシェアすることができる点です。3つめが「個別生産」。パーソナライズされて、一人一人違うものをつくることができます。4つめは「柔軟な生産」。これまでの食品製造は工場を建てるなどの初期コストが高かった部分を、一台から簡単に導入できるところがポイントです。
若杉さんはこれらの特徴を生かし、今までにない商品開発を目指しています。自由な生産ができることにより、「成長型プロダクト」としてユーザーニーズを反映できる商品作りが可能になるのでは、と話しました。現在はこの技術を用いて飲食店のレシピ開発や、ハードウェアとソフトウェアの販売を行っているそうです。
前半のチャレンジャー3人のプレゼンテーションが終わり、会場にはそれぞれのチャレンジャーからの「問い」が投げかけられました。「未利用食材」をどのように生かしていくのかについて、A、B、Cの3テーブルに分かれ、参加者がアイデアを出し合いました。
議論〜前半
各チームが議論を終えたあとは、それぞれ印象深かった点をチャレンジャーが共有する時間を持ちました。
丸岡さん「産業として確立させるためには、虫に食べさせる新鮮な植物の確保が一番の課題になると考え、議論していました。議題となったのは、どうやって植物を入手するかと、誰に虫を飼育してもらうか、の2点。そのなかで『杉の間伐問題などの林業と結びつける』という意見がおもしろかったです。あとは、小学生の体験型学習に取り入れるなどの意見も出ました」
沖さん「新しい食文化として、猪の個性の強さと食べやすさを見せていくことと、教育や文化作りが重要だと話し合いました。ペットフードの可能性がとても参考になる意見だったと思います。議論していくうちに、ターゲット選定とコンセプトの練り上げが根本的に足りていないことが認識できました」
若杉さん「おもしろいと思ったのが、『デジタルツイン』という文脈。メタバース上で考えたレシピを、現実世界の3Dフードプリンターでつくって食べるアイデアです。また、現状の3Dフードプリンターは無機質ですが、例えばアバターをプリンターの中に用意し、アバターがつくった料理とするなど、生命感のようなものを出してもおもしろいのでは、という意見が出ました」
チャレンジャーのプレゼンテーション〜後半
前半の議論を終え、今度は後半のチャレンジャー3名のプレゼンテーションがスタートしました。
佐藤 大智さん、三嘴 光貴さん|合同会社SHINRA
めぐる芽「ウコンチャイ」
「手元にある2種類のウコンの香りを嗅いでみてください。とても苦いので食べない方がいいです」という声かけから始まったプレゼンテーション。新潟の農家さんが育てた春ウコンと秋ウコンの2種類を持ってきてくれました。会場ではかじっている方もちらほら……(私もかじりましたがとっても苦かったです)。
2020年からノンアルコールドリンクをつくる活動を開始した佐藤さんと三嘴さん。社名は「森羅万象」に由来し、「あらゆるものの素材の可能性を引き出して、液体として抽出することで、喉だけではなく感性を潤したい」という想いが込められているそうです。現在はコラボレーション商品の販売や、商品開発の依頼も受けています。
誰しも名前は聞いたことがある「ウコン」ですが、良さを知っている人は少ないと話すふたり。その良さをどう届けたらいいかを問いかけたい、と締めくくりました。
井上 豪希さん|稲とアガベ コーポレートシェフ、TETOTETO Inc.
めぐる芽「発酵マヨネーズ」
井上さんはTETOTETOというフードロス食材を使った商品開発を行う会社を運営しながら、稲とアガベのコーポレートシェフとして活動しています。稲とアガベは、秋田県男鹿市で「クラフトサケ」という新たなジャンルのお酒をつくる酒蔵。(稲とアガベについて、詳しくはこちら[2] のレポートで紹介しています)過疎のまちを持続可能にし、いい雇用を生むために事業を行っており、お酒作り以外にもさまざまなことにチャレンジしています。
今回の取り組みもその一つで、日本酒業界で課題になっている「酒粕の活用」です。昔は酒粕を売るだけで蔵人の給与が賄えたほど、日本人にとっては需要が高いものだったと井上さんは話します。しかし、現代ではほぼ産業廃棄物として捨てられている状況です。そこで生み出したのが「発酵マヨネーズ」と名付けた酒粕を使ったマヨネーズの代替品。会場には、4種類の試作品が配られました。
「おいしくない」と食べられてこなかった酒粕を、無理なく食べられる日常品として販売することで、日本中の酒粕を買い取り、日本酒業界の課題を解決することを目指しています。クラウドファンディングでは、1,200万円の応援金が集まったそう。これからは辛子やニンニク醤油などを混ぜた新たなフレーバーがついた「クラフトマヨ」の展開も検討されています。
友廣 裕一さん|合同会社シーベジタブル
めぐる芽「すじ青のり・若ひじき」
「世の中にあるマニアックな海藻は宝の山です」と、友廣さんは話し始めました。日本の沿岸に生えている海藻は約1500種類。その全てに毒がなく食用になりますが、現状はそのうちの10数種類しか流通していません。
現在、磯焼けの影響により、急速に海藻がなくなっているそうです。高知県四万十市では60tの水揚げがあった青のりが、一時期0kgになりました。そこで友廣さんたちが漁師さんと共に生み出した技術が「陸上養殖技術」「海面養殖」です。これまでは海の中でしかつくることができなかった海藻を、陸上や海面で養殖することで、生産量を上げていこうとしています。
生産量だけでなく、海藻の消費量も減少しています。海藻と大きく紐づいている和食が食べられなくなっているためです。この状況に対して友廣さんは、日本中の海藻をおいしく食べる研究をするラボの開設などを進め、新たな海藻食文化をつくることを目指しています。
議論〜後半
後半も前半同様、3つのテーブルに分かれて議論しました。その後、それぞれのチャレンジャーから感想を聞きます。
三嘴さん「確かに、と思ったのは『ウコン』と聞くとドリンク剤『ウコンの力』のイメージに引っ張られてしまうこと。例えば、“和ターメリック”のようにジャンルから設定したほうがいいのではと意見をもらいました。また、このテーブルにはチャイ好きな方が多く、『市販のチャイは甘いものが多いため、すっきりしたチャイが欲しい』という意見を聞くことができて参考になりました」
井上さん「日常食にするには価格が高すぎるという意見が印象的でした。とはいえ、アニマルウェルフェアやヴィーガンの考え方を持つ人に刺さる商品にはなっているため、喜ぶ人たちもいるのではと議論をしました。『マヨネーズの代替品としてどうか』という問いに対しては、日本人にはマヨネーズを代替したいというニーズがあまりないかも、との声が。あえて『マヨ』と言わなくていいのではという意見が多くあったので、メッセージの発信の仕方を考える必要があります。海外でも販売できそうという意見も出ました」
友廣さん「食べ方がわからないので、消費頻度を増やすためにはレシピや簡単な食べ方があったらいい、という意見が出ました。また、海藻そのままではなく加工品として、例えば麺に練り込んで海藻麺として販売する案も。栄養の切り口で見ると海外でもニーズがあるのではという視点ももらいました」
終わりに
盛りだくさんの議題で、2時間のプログラムはあっという間に終わりを迎えました。今回のめぐるめ倶楽部には、直接の仕事では食に関係していない、カメラマンやデザイナーなど多様な参加者が集いました。この繋がりから、どのような新たな価値が生まれてくるのか期待を寄せながらの閉幕となりました。
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