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地球のエネルギーを陶芸に落とし込むビダイセイ

陶芸歴6年のビダイセイ、山根彩を訪ねる。

東北芸術工科大学陶芸コース4年生、2月7日〜12日の卒業作品展に向けて対策を製作中。埼玉県にある美術科の高校へ入学、今年で美術歴7年に至る。有機物の曲線を模した器の制作をしており、山形ビエンナーレや陶器市の出店では一回に20枚売れている人気っぷりである。

2022.9 山形ビエンナーレで作品を販売する様子

彼女の「制作のために陶芸で使う土を試食する」というSNS投稿を見た瞬間、ビダイセイをキャプションという企画の要石となる言葉を持つ人物だと直感した。この企画の底にある好奇心という欲を体現しているような存在だ。そのため、山形ビエンナーレで作品を野外販売しているところを見計らい、どうにかバックボーンを取材させていただけないか対面で取材願いし記事作成に至った。

文章の方が得意だということで、質問を文章で回答いただいた。この企画は通常、取材文を推敲しSNSで拡散する流れだったが山根彩さんの文章が完成されすぎていた。そのため、私にできることは原文のままでより多くの人に彼女の美学を堪能してもらうのが使命だと悟った。以下の文章は、すべて原文である。

私は幼少の時より、鉱物や化石、遺跡や遺物に夢中になり、地球科学や宇宙科学に関する本を読んでいた。家の外へ出れば採集や探検ごっこをしたように、自分の好奇心が向くままに生き物や自然に触れていた。
二十余年を生きてきた中で自然、地球が生み出す色彩やエネルギーにどうしようもなく魅了され、それらを器によって表現し、暮らしの中に彩りを添えるような存在をつくりたいと考えた。創作に対する好奇心と釉薬への探究心を抱き、轆轤によって成形した形と焼きで現れる釉彩の融合によって器をつくり出す。
それが人の感情や記憶に語りかけ、人と人を繋ぐ。花を生け料理を盛り、生活を形づくる。私がつくる器は、人に訴えかける力を帯び、心を動かし、誰かの生活の一部になるような存在でありたい。

2月公開予定の作品の一部を撮影したもの

興味の連続によって導かれた美大

ー元々幼少の頃から粘土や砂遊びが好きで、外で石や植物を採集したり、科学や歴史関連の本を読むことに熱中していたと記憶しています。高校受験で志望校を決める際、当時は図鑑や雑誌などの編集に興味があって映像、平面系の仕事に携わりたいと思い、美術の基礎を学ぼうと地元の埼玉県で美術科のある高校を受験しました。一年次ではデッサンやデザインなど美術基礎、各専攻演習で素材に触れていきました。三学期の頃、芸工大の先生が高校に訪れ、美術科の学生に講演をして頂いた機会があり、そこで芸工大の存在を知りました。

2022.3 高校の同期と開催した企画展の作品の一部

ー漠然と自分は五美大のいずれかを受験するのだろうと考えていたのですが、東北の地で生活し、学ぶということに興味が湧きました。

その好奇心はどう運命を変えたのか

ーちょうど冬のオープンキャンパスと卒展が行われる時期だったので、参加しました。映像や文芸のブースを回り、その時点では志望校の視野に入れようか、程度で考えていました。
最後に、ついでのような軽い気持ちで工芸の展示に足を運んだ時、陶芸が持つ表現、用途、目的の幅広さと、土や釉薬の質感、物量感に目の前が開けるような感覚を受けました。とりわけ鈴木美雲さんの器のそれぞれの焼きの違いや表情に惹かれたことを覚えています。
当時美術やデザインを学びはじめたことで、目指していた図鑑や雑誌の編集が本当にしたいことか、と疑問を抱いていました。私は図鑑や本を読むことでわからないこと知らないことを知る、興味が増えまた考えるというその行為が好きでした。卒展に訪れた時は陶芸の制作の工程や工芸の中のそれぞれの位置付けといった知識は全く無かったので、展示された物を見て、どういった工程や化学反応によって生み出されるのか、知りたいという純粋な興味を掻き立てられました。
私は好きなこと、興味を提示する物を作るのではなく、物を作ることで知る、考えるという行為がしたいのだとそこで気づいたように今になって思います。その行為を与えてくれるのが私にとっては陶芸でした。この体験によって志望校、専攻を芸工大、陶芸に決め、高校でも座学や演習の傍らで轆轤を回すようになり、受験に至りました。

2022 2年次進級展の作品
作者曰く、現在とは作風が違うとのこと

ー四年次の今では、ここで影響された器の曲線や釉薬の使い方を自分独自の表現に起こし、荒い高台や滑らかな曲線の融合、複雑な釉調を生み出すことを研究しています。

2022.9に撮影

これから、

ー卒業後の進路については、茨城県笠間市にある茨城県立笠間大学校という陶芸の専門学校を受験し、作家を目指して学びたいと考えています。
 益子と並んで関東の産地である笠間で学ぶことで、人や物の流れ、陶器の流行を身近に感じ、作家やギャラリーとの繋がりによって自身の制作活動を充実さていきたいです。
ー大学校卒業後は笠間市で制作を行うだろうと思いますが、そのまま笠間での制作を続けるのか、もしくは何年か後になって別の活動場所へ移るかどうかはそのタイミングが来た時に考えよう、くらいの心持ちでいます。私は人との交流や料理、音楽ライブ、読書、採集や旅行といったものが好きで刺激を受けるので、クラフトの陶芸作家として制作活動を行う傍らで生活を楽しめるような場所と時間を過ごしたいです。

12月の初め、ちょうど彼女が次なる進路のための入試試験を受けていることをテキスタイルの友人から私は聞いた。記事の構成を練りながら試験に挑む彼女の姿を想像した、このような重圧な世界観を持つ作家の卵は試験を経てどう作品と文章を作り出していくのだろうと思いを馳せた。
美しさとは洗練された偶然の連続なのかもしれない。それを体現した作家が山根彩であると取材で何度も思った。バタフライエフェクトのように、小さな好奇心が作品となり山根彩の手元から羽ばたく、その先で誰かの生活や人生が良い方向へ変わりまた新しい芸術作品が生まれる。偶然出会った作品によって心が動き思いもよらない方向へ進んでいく、それが彼女の持つ作品の力と魅力なのではないか。

12月12日追記:試験に受かり、来年から笠間陶芸大学校で2年間勉強をすることが決定したそうです、おめでたいですね!

画像のクリックで山根彩さんの制作アカウントにジャンプします

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