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人生初めての映画はドラえもん

 幼いころの写真を見返していると、自宅だった団地の居間で撮られたものがぽつぽつと見つかる。大抵は兄と2人並んで、時々両親も含め4人で。
 その背景には、今は懐かしいブラウン管テレビが写りこんでいる。そして必ず放送されているのが”ドラえもん”だ。正確には、放送されているのではなく、再生されている。

 私が物心ついた頃には、テレビといえばドラえもんだった。当時は、いつでもドラえもんが放送されていると思っていたけれど、実際はそうではなく、ビデオテープにダビングしたものを母がひたすらに再生してくれていたのだ。1歳半になる次男を育てながらの家事をしていると、テレビに頼りたい親心がよーく分かる。私もきっと、何度も何度も母を呼び、ズボンのすそを引っぱり、抱っこを求め、一緒に遊ぼうと泣いていたのだろう。

 団地から引っ越しをして、電車で街まで出かけられるようになったことで、母は兄と私を初めての映画館へと連れて行ってくれた。上映作品はもちろん、ドラえもん。”ドラえもん のび太と雲の王国”である。
 映画館には初めてがいっぱいで、大きなスクリーンや可動するイス、しんと静まり返る空間にポップコーン。どきどきした。こんなにも心が躍る場所があるなんて。

 暗闇と大音量に最初は驚き圧倒されたけれど、すぐに作品へと引き込まれていった。大好きなドラえもんがこんなにも近く大迫力で見られるなんて、映画ってすごい!
 作品は終盤になり、王国を救うためにドラえもんが活躍するシーンとなった。私は大号泣。あまりの泣きっぷりに両隣に座っていた母と兄は驚き、必死でなだめてくれた。
 上映後、そんなに悲しかったのかと兄に問われ、何となく恥ずかしかった私は、
 「ポップコーンを食べていて舌を噛んだだけ。」
 と、一生懸命に考えた嘘をついた。

 あの時の映画館の雰囲気、涙や嘘、何気ない出来事だけれど30年経った今もしっかりと覚えている。母と兄とのお出かけ、楽しかったな。

拙い文章しか書けませんが、読んで下さったあなたに気に入っていただけたら、とても嬉しいです。