明るい人と暗い人は違う星に住んでいる。だから出会わない
「私、寝たら嫌なこと忘れるんだよね」などと言う人に限って、お酒を飲むと「私だって裏では考えてるし、繊細なんだよ」みたいな弱音アピールをする。それを聞くと一気に幻滅する。脳のHDDに悩んでることがしっかり刻まれてるじゃん、と嫌味を言いたくなる。
そういった人を見ると、明るい人として生きていたいのか暗い人に見られたいのかハッキリしてほしいと思ってしまう。覆面レスラーとして世に出たのなら、正体を明かさずに一生を貫き通す魂を持ってほしい。
だから、私は自称明るい人というのを信じていなかった。アンミカのことは、裏では弱音を吐く強がりな軟弱者のピエロだと決め込んでいた。「ハッピー・ラッキー・ラブ・スマイル・ピース・ドリーム」なんてテレビ用のキャラづくりに決まっている。あれを素で言っているとしたら頭がおかしい。明るい人間なんてのは、フィクションの産物だと思っていた。
明るい人間などこの世にいないと思っていた。
思っていた。
そう、「思っていた」だ。過去形なのである。今の私は、「明るい人間は……います!」とSTAP細胞のように高らかに宣言するだろう。
以前までは、「明るい人類などいない。暗い人間の中で虚勢を張った人間が明るく見えるだけ」という自作の名言で理論武装して生きてきたが、それらはすべてが幻想であることを知った。私は武装などしておらず、全裸で戦場に立っていたのだ。いや、明るい人間が台風のように武装を引きちぎって全裸にしていったというほうが正しいかもしれない。明るいというのは、時に台風のように暴力的にもなりえる。明るくみんなを照らしつつ、台風のように服をはぎとっていく、北風と太陽の両方の能力を持ったハイブリッドウェザーなのである。明るい人だと判別しづらいので、その人のことはハイブリットウェザーと呼ぼう。
なぜ、私の考えが180度グルっと変わったのかと言えば、単純である。本当に明るい人間と話す機会があったからだ。話してみてびっくりしたが、ヘビー級に明るかった。心から「自分とは違う次元で生きている」と実感した。
もうなんか明るい通り越して眩しかった。眩しくて目が痛くなる。ハイブリットウェザーの明るさに耐えきれなくて、私が心の中でずっと「バルス!」と唱えていたからかもしれない。目がぁぁぁぁあっ。
さて、なぜ私が簡単に「世の中には本当に明るい人がいる」と信じるようになったのか、結論を先に言おう。明るい人間と暗い人間は生きてる星が違うと気付いたからだ。コミュニティが分断されているので、普段はお互いに出会うタイプの人間ではないのである。
私がその結論にたどり着いたのは、ハイブリットウェザーバルスと話しているときである。私が「いや、こんな明るくて真っ直ぐな人、私の周りにいないですよ」と言うと、「あー、たしかに!逆に私の周りには精神的に弱かったり、暗い人っていないかもしれない」と即座に返答してきたからだ。
私はそのやりとりをしたときに、完全に腑に落ちたのだ。住んでる星が違うという事実に気づいたのだ。私は暗い世界のコミュニティにいるから、明るい人間に出会ったことがなかったのだ。
私の住む世界には根っこが腐ったようなこじらせ人間しかいないのだが、明るい人間の周りには明るい人間しかいないのである。「偏差値が20違うと話が通じない」という暴論をインターネットでたまに目にするが、明るさや暗さにも偏差値があるのかもしれない。その偏差値が釣り合う人間同士が寄り添いあって生きているのだ。
つまり、私の近くにいた「寝たら嫌なこと忘れるんだよね」と口にしていた人たちは明るい人間ではなかったのだ。私の自作名言である「暗い人間の中で虚勢を張っているものが明るくみえるだけ」という理論武装どおりだったのである。暗い人間が明るい人間になろうともがいていたのだ。
一方で、明るい人間の周りには、悟空やルフィやナルトのような楽しい人間ばかりなのである。「ゴムゴムの……かめはめ旋丸〜〜!!!」のように、人気キャラが一同に集合する子供映画祭りのように楽しい日常を送っているのだ。そりゃ暗い人間なんて弾き出されるわけだ。
つまり私とハイブリットウェザーバルスルフィは、違う星にいる住人だったので、本来は出会わない人種なのだ。私からすれば、ユニコーンのような存在なのである。
私はハイブリットウェザーバルスルフィユニコーンとの対話を通じて、明るい人間が世の中に本当にいることを知った。「私、寝たら嫌なこと忘れるんだよね」というセリフも、今なら信じられる。だって自分とは違う未知の生物の生態なのだから。未知の生物は悩みなんて持たない。
そう考えると、やっぱりアンミカの明るさも嘘でないということになってくる。彼女は本当に根から明るい人間なのかもしれない。つまり、「ハッピー・ラッキー・ラブ・スマイル・ピース・ドリーム」とアンミカは本気で言っているのだ。頭がおかしい。私の中の明るい人間への印象は変わったが、アンミカの頭がおかしいという評価は変わらない。ハイブリットウェザーバルスルフィユニコーンという奇妙な造語をこの文章内で誕生させたと思っていたが、ハッピー・ラッキー・ラブ・スマイル・ピース・ドリームのほうがよっぽど猟奇的なカタカナである。
今まで出会わなかっただけで、明るい人間はこの世にいることがわかった。STAP細胞はないかもしれないが、「明るい人間は……います!」と声高らかに宣言して生きていこうと思った。