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付き添い入院の何がそんなに辛かったのか
「付き添い入院しなくなったね」
子供のアルバムを見て夫が言う。ベッド上に散らばる玩具。点滴用にシーネ固定された小さな腕。
付き添い入院は4回、3ヶ所病院を経験した。どれも短期だけどもうしたくない。
「子供のために仕方ないよね。辛いのは治療をしている子供だから」と言う意見もあるだろう。
付き添い入院は過酷だけど、もう少しやりようがあるのではないかと思っている。今も付き添い入院で疲弊している親子がいると思うといたたまれない。
1 そもそも付き添い入院時点で、親の心身疲労はピークに近い問題
入院すると、「ああ、また戻ってきてしまったな」と言う絶望感が襲う。
毎日飲んでいる薬と頓服でしのげず入院。
入院の少し前から体調不良&機嫌の悪い我が子に付き合っていた親の体調も、このとき既に割と疲弊している。
有給も消費している。看護休暇はとっくに消えている。
そして入院である。
2 「親からのニーズで付き添いを許可している」と言う話
医療現場には、過去に家族や付き添い人が行っていた療養上の世話を看護師らが担うべく歩んできた歴史がある。
1950年に「完全看護」「完全給食」開始
(実際には人手不足や慣習から、家族や付き添い人による世話が継続)
1958年に診療報酬体系「基準看護」により療養上の世話や食事、寝具が医療保険給付される
(実際には家族や職業付き添い者による世話が継続)
1994年に新看護体系が創設(『看護師や准看護師の配置数による看護料』と『看護補助者の配置数による看護補助料』の組み合わせが可能となる。看護補助者を多く採用し、付き添い人不要とする病院が多くなる)
1997年に付き添い看護を行う医療機関がゼロとなる
熊本大学
ここまでくるのに約50年かかったらしい。
現在、診療報酬体系上は付き添いを行うことは認められていない。
では付き添い入院はどうやって行われているかと言うと、
『付き添いを希望する患者や家族に対し、逆に医師が許可を出している。その場合でも、看護を代替または補充する目的で、付き添いを行うことは求めない』
(令和3年11月24日)
とのことだ。
より正確には
保険医療機関における看護については、
「看護は、当該保険医療機関の看護要員のみによって行われるものであり、当該保険医療機関において患者の負担による付添看護が行われてはならない。
ただし、患者の病状により、又は治療に対する理解が困難な小児患者又は知的障害を有する患者等の場合は、医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者が付き添うことは差し支えない。
なお、患者の負担によらない家族等による付添いであっても、それらが当該保険医療機関の看護要員による看護を代替し、又は当該保険医療機関の看護要員の看護力を充するようなことがあってはならない。」
となっている。
付き添い入院はあくまで親からの要望に対して、医師が許可を与えると言うスタンスだ。
だから親は『付き添い願い』を申請し、医師らがそれに対して許可を出す。
私は「家族に『付き添い願い』を提出させるのやめてくれ」と思っている。モヤモヤする。
医療機関から付き添いありきの入院説明を聞きながら「これは医療機関側からの要望では?」と思ってしまう。それでも書かなくてはならない。
既に過去の付き添い入院経験から気分はささくれだっているので、付き添い願い提出の度に「なんだろう。この親が強く付き添い求めてます感じは。こっちから求めてるの? 求めたっけ? 医師の許可書だけで良くない? 出さなかったら付き添いなしで入院させてくれるの?」と、思わなくもない。
私にとってあれは半強制的な決意表明みたいなものだ。いや、するけど。付き添い入院。させてください。我が子だもの。だが辛いのである。
付き添い入院では実質、親は労力提供にならざるを得ない。
食事介助やトイレ誘導、更衣や清拭、内服、体温計測、排泄状態や身体精神状態の把握、検査室までの移動は普通にする。だってそれは育児だ。普段からやってる。かつ看護だとも思う。
医療現場は忙しい。個室で医師や看護師に会う時間は1日のうちトータル1時間弱あるだろうか。ないかもしれない。
バイタルが安定していれば、退院させるわけにはいかない状態だが、それなりに動きかつそれでも体調が悪くて機嫌の悪い時間を持て余した子供と格闘する忍耐の時間が続く。理学療法士さんが来たり検査があると、人との接触時間が少し伸びる。
残り22時間は私と子供2人だけだ。誰かを召喚したい。
一方、バイタルが不安定でアラームが鳴り人の往来が激しい時は、それはそれで精神が削られる。
医療機器のアラーム音やそれに類似した音が私は苦手になった。
親の心情として、子供の体調が悪いなら付き添ってやりたい。子供の精神的な安定や安全確保には、付き添いがあった方が良い。
だから「付き添い入院なしで!」とかそう言う要望ではないのだ。
地方の小児科は貴重だ。ただでさえ婦人科等との混合病棟化しつつある入院先。付き添い入院をなくして現場が疲弊して、小児科自体が潰れてもらっても困る。
なお、令和4年11月には下記の事務連絡がなされている。
医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者が付き添う場合の対応について
厚生労働省が実施した「入院患者の家族等による付添いに関する実態調査」について、 結果をとりまとめたところであるが、これによると、医師の許可を得て入院患者に付き添う家族等から事前説明の充実を求める回答があった。
各医療機関においては、医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者による付添いを認める際には、当該医師などから家族等に対し、付き添う事由や範囲について十分説明を行った上で、医療機関内の設備等の付添いに当たって必要な情報について、丁寧な説明を行っていただくよう留意されたい。
3 付き添い交代可能か否か
これによって付き添い入院の難易度が断然変わる。ゲームで言う『ハードモード』か『イージーモード』かが、ここで別れるといっても過言ではない。
ある病院で付き添い交代可能と言われた時、私は嬉しくてガッツポーズをした。夫婦で付き添い交代が許されるなら「私はどうしてもこの日は仕事に!」「じゃあ自分はこの日○時までは仕事に行きたいから、交代しよう」と言うことが可能である。
付き添い交代はせめて両親可能にしてほしい。感染対策上、難しいのかもしれないけれど。
付き添い交代不可だと、共働きフルタイム出勤の我が家にとっては死活問題だ。基本給はほぼ同じなのである。
幸い付き添い入院が長期にならずに済んでいるが、これで片方が長期付き添い入院に伴い失職すると、世帯収入が半減する計算になる。怖い。(産後に一度、子供のケアで復帰が叶わず無給時代を経験しているので、本当に辛い。お金問題)
そしてその道を選ばざるを得なかった人々は存在する。
4 ネット環境を整備してほしい
「Wi-fiが病室にまでつながっていますよ。使えます」と言われた病院には、もう諸手をあげて感謝したい。ネット環境を整えてくれてありがとう。
TVやDVDで誤魔化すのは限界がある。私の遊びのネタも尽きる。玩具も飽きる。ネットで動画があれば、かろうじて誤魔化せる。入院期間が長い程、Wi-fi環境のありがたさが身に染みる。親も仕事や情報収集がしやすい。
孤独になりがちな付き添い入院で、ネットは社会とつながる貴重なツールである。むしろ命綱。
5 ベッドを改良してほしい
小児用サークルベッドの寸法を今一度、検討してほしい。そもそもあれは親子で寝ることを想定しているのか? 何歳まで?
あの狭い中で慢性的に寝不足だ。寝返りも打てず、ベッド柵に押し当てられた背中も腰も痛い。
ベッド柵と我が身の間にヨガマットを敷くと、かろうじて寝られる。付添い用の簡易ベッドも修行のように狭いし、ぎしぎし言う。
夜間の巡回のため常夜灯がうっすらついている室内。輸液ポンプの灯りが天井に向かって、ちかちかと明滅している。
アイマスクと耳栓で防衛し、そして限界が来た私は、シュラフを持ち込んだこともある。衛生上アウトかもしれないが、付き添い入院を乗り越えるためである。こうして付き添い入院が続くとアウトドアグッズが増えていく。
「高額当選したあかつきには、この医療機関の寝具を高級なものに変えるんだ」と妄想がはかどる。
6 シャワーとトイレとごはんの問題
シャワーを使ったことが無い。身体は拭いて済ませる。
運動不足なのでストレッチをする。限られたスペースで1日の歩数はたかが知れているが。
野菜も早々に口にできない。1日350gの摂取は夢のまた夢だ。温かいものを温かく、冷たいものを冷たく食べたいと、栄養補助食品を食べながら願った。
「1日1回有料で良いので付き添い食がでますように…」と思ったが、「付き添い人を想定していない以上、出ないな」と振り返る。時々、子供の残したものを食べた。
院内のコンビニで栄養バランスよく食べようとすると、それなりに高額になる。ここでもお金問題がからむ。
看護助手や介護士、有償無償ボランティアをお願いできないよね。採算とれないだろうし。
「頼む、1時間だけ見てくれたら耐えられるんだ」と思う場面は多々あった。私がお腹を壊してトイレに行きたいとき、トイレに引きこもることもままならない。
そして、ストレスから持病の喘息発作と蕁麻疹を発症した。付き添い入院で私は満身創痍だった。
7 付き添い入院の課題は、いつになったら改善するのか
厚生労働省が付き添い入院の実態把握をした2021年では、患者家族等調査の回収率1.37%(41件/3,000件)だった。有効回答率が低すぎて議論ができないと言う議事録が残っている。実施したコンサル会社さんにちょっと物申したい気分になる。残念で仕方がないです。せっかくの機会が勿体ない。
2023年2月現在、NPO法人キープ・ママ・スマイリングさんが「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」を実施したところで、厚生労働大臣に報告書及び要望書の提出に向けて動いているとSNSで発信されていた。
声をあげなければ気付いてもらえない。付き添い入院の親子と医療現場の声が届き、実態を理解してもらえることを願っている。