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転生したら天才で美形な男装少女でした。②

まず生徒は入学式のため、大広間に集まる。私が入ると、中の生徒が驚いたようにこちらを見た。
‥なんかゴミでもついてた?大丈夫だと思うんだけど。
 私が首を傾げていると、学長の話が始まってしまった。
「この学園で魔力を高め学力を高め、将来、国のためになる仕事に就けるようにしましょう」

新入生の答辞は第二王子のユリアスだ。完璧笑顔で話している。周りから女子生徒のため息が聞こえた。
…この人完璧だけど腹黒だよ?ほんとにこの人がいいの?
それにしても、主人公はどこにいるんだろう。なんかざわついてるけど、その方向は私っぽいのよね。でも顔のゴミはついてないと思うし。朝食が顔についてるとか?でも、父や母に、上品に食べないと怒られたから朝食がついているとかはないよね。なんで?
《はぁ》
リラにため息をつかれたような気がした。

そのあとはテストだ。
…えっ、一日目からテスト!?私なんの勉強もしてないんだけど!
 慌てて、テスト前の一時間の復習タイムにリラからの集中講義を受けた。頭の良さが二倍になってるのは本当のようだ。いろいろなことをすぐに覚えられた。
難しかったのは【魔法工学】だ。魔法を使っていろいろな魔術具を作る。でも、私の生きていたところは魔法じゃなくて科学だったから理解しにくかった。でも、魔法を機械の部品の一部だと思えば簡単だった。
【魔法薬学】は魔女をイメージしながら聞けば意外とすぐに理解できた。
あとは、文字とかを覚えれば計算できるし、古代語とか別の国の言葉とかも簡単だった。そりゃ、日本語に比べればね。
【歴史】は日本的に理解すればまあまあできた。今回のテストには歴史は出ないからこのあとゆっくり考えよう。

テストはまず筆記試験から。計算とか法律とか。全部、自信を持ってできた。そこら辺はリラに教わった中で簡単に覚えられたものだ。一応全学年分覚えた。もっと深くしたものもある。一時間もあったからね。ちなみにカンニングできないように、生徒と生徒の机の周りには闇に魔術具を使った結界が貼ってある。周りの様子を見たかったのに。別にこの程度、簡単に破れるが私の目標は「目立たず大人しく」だ。悩んでいるとリラが言った。
《強化魔法を使ったらどうだ》
…強化魔法?
《さっき言っただろう。強化魔法はいろいろなところを強化できる魔法だ。今回、周りを見たいなら【視覚強化魔法】を使ったらいい。ものすごく視覚を研ぎ澄まさせろ。見たい方向をじっと見つめればいい。そうしたら見えてくるだろう。一回瞬きすれば元に戻る》
言われた通りにやってみると確かにできた。みんなまだテスト用紙に何かを書き込んでいる。カンニングになるから何を書き込んでいるかは見ないけど。どうしたんだろう。
…暇のあまりテスト用紙に落書きでもしているのかな。
《…違うだろう。まだきっとテストをしている》
…何を言ってるの?私がもう終わっているのよ?昔から勉強しているこの人たちはもうとっくに終わらしているに違いないじゃない。
《はぁ、お前は本当にもう…》
と言ったきりリラは黙ってしまった。
…変なの。

筆記試験の後は実技試験だ。さっき言った【魔法工学】や、【魔法薬学】など。
【魔法工学】は、魔法陣を描いて教師から渡された道具を使い、魔術具を作る。「なるべく複雑に動くものを」と言われたから、無駄な高機能をつけまくる。属性にはマークがあっていうかそれを書き入れながら、魔力を流す。
…完成っと。
仕上げに魔力を流す。その作業を終え、人形の形をした魔術具から手を離す。その途端、人形がパッと光った。明るすぎて周りは目を開けていられなかったらしく、「なんだ」、「何が起こった」と騒いでいる。光は数秒光り続けた後、すうと消えていった。そして人形は…人形ではなくなっていた。なんか妖精っぽい小さくて綺麗な生き物になっていたのだ。魔術具だった妖精は足を動かしたり手を動かしたりしている。周りは当然こちらを凝視していて、教師が走ってきた。
「何事です!?」
そして妖精を見て、目を見開いた。
「こ、これは?」
…私だって知りたいよ。
するとリラが言った。
《お前が魔力を流しすぎたせいで、エルフになった》
…でもちょっとしか流してないよ。
《お前の魔力は規格外だと言っただろう。ちょっとだけの認識でも、実際にはものすごく流しているんだ。周りにはなんとかごまかせ》
…そんなこと言ったって。
周りの生徒や教師は私を凝視して説明を待っていた。
…え〜と…。
「申し訳ない。つい、熱中してしまった。すぐに元通りに戻す」
そう言って元に戻そうとすると、教師がものすごい形相で止めてきた。
「いいえ、いいえ。結構です。あなたは試験に合格ですから、これは私に預けてください」
「そうか。では、あなたに預けよう」
エルフを優しく持ち教師に差し出すと、今度は教師が私を見て固まった。
…もらえると思っていなかったのかな。
あなたのですよと、私は教師の手を取り、エルフをそっと乗せる。今度は教師は赤くなった。
…自分から取るつもりだったのに、勝手に渡されて怒ったのかな。変な怒りのポイント。
《そんなわけがないだろう》
リラが呆れたように言った。
…じゃあどうして?
リラは返事をしてくれなかった。

実技試験の後は昼食だ。あまり目立ちたくない私はひっそりと中庭へ行った。実技試験のあと、何人かの女子生徒に追いかけ回されたのだ。きっと、妖精の作り方を知りたかったのだろう。追いかけてくる女子生徒は逃げ回るたびに増えていった。噂が流れるのは早い。
中庭は、湖があった。あまりに水が透き通っていたので、私は飲んでみたくなってしまった。手で水をすくい口に運ぶ。水は冷たく、とても美味しかった。流石に学園の湖の水を何杯も飲むのは悪いだろう。だからその一杯をゆっくり飲む。乾いていた喉を、水はゆっくりと潤していく。
「ふぅっ」
飲み終わり、一息つくと、ガサッと木々の間から音がした。素早く、その方向を見ると、金髪碧眼の整った顔の女の子がいた。その子はとても慌てていて、
「あっ、え〜と。あの、それが、えっと」
とを繰り返していた。その様子があまりに可愛くて、私はくすっと笑ってしまった。それを見て女の子は赤くなって固まった。
…あらら、気を悪くしたかな。
固まりの溶けた女の子は、
「えっと、大広間はどこですか?」
と聞いてきた。
…今頃、そこになんの用があるんだろう?
「大広間?入学式は終わったが?」
そう言うと、女の子は
「えっ」
と、とても驚いていた。遅刻でもしたのだろう。試験は大抵終わってしまっているけど、大丈夫かな。
「試験も終わっているから、クラスの担当教師にもう一度試験を受けられないか聞いてみるといい」
「はっはい」
女の子はそう言って、建物の方へかけていった。
…面白い子だったな。
ベルが鳴り、昼休みが始まった。そうしたら、ここの中庭もすぐに見つかるだろう。早く隠れよう。立ち上がりながら、面白い女の子を思い出して、私はまた笑ってしまった。


わたしはできる限り早く走っているつもりでした。でも、学園の中は広いのです。すぐに迷ってしまいました。わたしは木々が並んでいる森のようなところを抜けようと進んでいました。先に広がっている場所が見えたのでそこへ走っていきました。しかし、わたしの足はすぐに止まってしまいました。そこには一人の生徒がいたのです。
その方が普通の人でしたら、大広間へどうやって行けばいいのか聞けるのですが、その方はとても美しい方で、まるで天使のようでした。天使のような方はひざまずいて湖に水を眺めていたかと思うと、いきなり手で水をすくい飲んだのです。いくら水が透き通っているとしてもわたしのような平民ではなく貴族の方が、と普段のわたしでしたら衛生面の心配をしたでしょう。しかし、そのときはただただ見とれていたのです。白い喉がゆっくり動くのを見つめることしかできませんでした。その美しい横顔を眺めていることしかできませんでした。
その方が水を飲み終わり、息をついたときわたしは思わず口を抑えてしまいました。そのときに、手が枝に当たり音がなりました。その方はすぐにこちらを向きました。見つかってしまったわたしは
「あっ、え〜と。あの、それが、えっと」
としか言うことしかできませんでした。その方はいきなりくすっと笑いました。その笑顔はとても美しく柔らかくきれいで、わたしは思わず固まってしまいました。その間にも顔が熱くなっていくのはわかります。でもなんとか口を動かし、大広間へはどこにあるのか聞きました。しかしその方の返事は
「大広間?入学式は終わったが?」
というものでした。信じられません。昨日来た使者の方はお昼を過ぎたあとだと言っていたのに。でもその後わたしはすぐにわかりました。きっとわたしは騙されたのでしょう。これまでもあったことのある貴族の方はみな意地悪でしたから。わたしのことをいじめるのがそんなに楽しいのでしょうか?
わたしの心は固まっていきましたけど、わたしのことを見ていた天使のような方は言いました。
「試験も終わっているから、クラスの担当教師にもう一度試験を受けられないか聞いてみるといい」
それだけでしたが、この方がわたしのことを気づかっているのはよくわかりました。
「はっはい」
わたしの固まっていた心は少し溶けたような気がしました。せっかく冷めてきていた顔がまた熱くなっていきます。その顔を見られないように踵を返して、わたしは校舎に向かって走りました。でもすぐに、お礼を言っていないことを思い出して、ちらっと振り返ると親切な方は立ち上がりながら笑っていました。その顔を見て思わず顔が緩んでしまいました。それにしても、この気持ちは何でしょう。


暇だから図書室で本を読もうと思い、向かっていると、第二王子のユリアスが、散歩をしていた。私は不意に思った。
...そういえば、あの女の子があのまま進んでいればこの人にあったのかな。
でも、すぐに頭を振ってそんなことはないと思い直した。
...そういえば、さっきからリラの声が聞こえないな。どうしたんだろう。
そう思っていると、リラからの返事があった。
《...なんだ》
...いや、さっきから声がしないなと思って。
《寝ていたんだ。今起こされたがな。まあいい。これからこのゲームの主人公と攻略対象たちとのイベントを説明する。別に歴史の授業でもいいぞ》
...イベントの説明でお願いします。
《わかった。ではまず、第二王子とのイベントだ。
主人公は意地悪な貴族のせいでものすごく遅刻をしてこの学園に来る。しかし学園が広すぎて迷ってしまう。そこで偶然第二王子と会う。大広間への道を聞くが、入学式は終わったと指摘を受ける。心が固まりそうになる主人公に第二王子はどうしたのかと聞き、主人公は貴族に騙されたと説明する。そこで第二王子から謝罪を受け、主人公はこの人は優しいと思い、初恋のような思いをいだく。
次に第三王子とのイベントだが...》
そこまで言ったとき、昼休み終了のベルがなり、私はとりあえず校舎へ戻る。リラは話を中断させられ機嫌が悪そうだが、一生懸命なだめる。校舎にはもう試験の採点が終わったようだ。試験結果が張り出されていた。一位は...私だった。筆記はすべて満点で、実技もとても良しだった。正直私はとても驚いていた。実技はともかく筆記は一時間で詰め込んだ私より当然昔から勉強している周りの方が点数がいいと思ったのだ。周りからとても注目され、私はその中の銀髪碧眼の野性味のある男の子からギッと睨まれた。たぶん、第三王子だろう。
ちなみに二位はユリアス、三位が主人公のサラ。四位は第三王子のアイクだった。
…なんだろう。順位で私に負けたのが悔しいのかな。

午後は【魔法薬学】と【剣技】。
【魔法薬学】は、自分の身を守る結界の魔法具を作る。大きな鍋に魔石を入れて、闇の魔力を出せる魔法具を使って作る。でも、私は説明の途中で気づいたことがあった。闇の魔力を出せる魔法具を使うのは皆が闇の属性ではないから。
…だったら魔法具を使わなくても、普通の魔力を流した方が魔法具の純度が良くなるんじゃない?
そう考えた私は実践してみることにした。大きな鍋を用意して、教師の用意した魔石を鍋に入れる。それから、薬草をいくつか入れて鍋をかき混ぜようとしたらリラが言った。
《そこの薬草も少し多めに入れろ》
リラが言ったのは、魔法具の結界の強さを調整する薬草だった。
…でも、入れすぎるとおかしなことになるんじゃ?
《いや大丈夫だ。結界と同時に、自分の魔力を十分の五くらいに抑えることが出来る魔法具を作ればいい》
…了解!
私はリラが言った薬草を入れると、闇の魔力を出せる魔法具を使わずそのまま魔力を流した。
…ぐ〜るぐ〜る。ぐ〜る…そういえば、魔力を流しているときに魔法具の形を決められるって言ってたな。魔力がたくさん必要って言ってたけど、私には関係ないし。
魔力を流しながら、形を考える。
…どうせなら素敵なのがいいな。繊細で複雑な結晶に憧れたこともあったし。
そんなことを考えていると、カランと音がして、魔力の流失が止まった。鍋の底に目をやってみると、そこには…ヤバイものができていた。
…いや、綺麗だよ。繊細で複雑だし。でもコレは純度が高すぎて、攻撃した相手が危ないんじゃないだろうか。
と考えていると、教師が言った。
「今質問があったのですが、なぜ闇の魔力を流すのかというとですね、風の魔力の方が結界としてはいいのですが、それでは相手の方に攻撃が跳ね返ってしまいます。それでもし、相手が避けたとしても周りの人やものに傷がついてしまいます。それに比べて闇の魔力を使うと攻撃を吸い込むのです。だからなのですよ」
…あっ、だったら大丈夫だ。よかった。
そこでリラがボソッと言った。
《いや、攻撃が十倍になって跳ね返って相手を追いかけ回す気がするな》
…不吉なこと言わないで!

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