実は最も困難な手技、胃管挿入
麻酔科の数ある手技の中で、一番難しい手技は胃管挿入です。
え?挿管とかCVとか、硬膜外麻酔じゃないんですか?
そう思う人もいるかも知れません。
が、最も手こずるのは胃管なんです。
報告にもよりますが、
文献上でも意識のない、挿管されている人の
胃管挿入初回成功率は50%程度です。
胃管挿入が難しくて、手術開始が遅くなってしまうこともあります。
「なんで胃管ごときが入らないんだ。」
そんな周囲の視線で、
いたたまれない気持ちになります。
それでも麻酔科医は胃管を入れます。
なぜそこまでして入れるのでしょう?
この記事では胃管挿入の目的と具体的な方法について解説します。
麻酔科医が何を考えながらこの管を入れているかがわかります。
ただ闇雲に突っ込んでいるわけではないんですよ!
挿入の目的
端的にいうと「誤嚥性肺炎を防ぐため」です。
全身麻酔中の誤嚥性肺炎は恐ろしい病気です。
発生頻度自体は35万件に1件程度と言われていますが、
ひとたび発生すると致死率は50%にものぼります。
胃管のメリット
●胃液の排出
●マスク換気で送気されてしまった空気の脱気
胃をなるべく、ぺちゃんこにして誤嚥のリスクを下げます。
胃液は飲食していない状態でも0.6ml/kg/hで生産されますが、
通常空腹時の胃液は50ml以下です。
50mlでも十分リスクですが
全身麻酔下では腸管の動きは悪くなるため、
胃液はこれよりも多くなることもあるでしょう。
胃管のデメリット
●鼻から入れた場合、鼻出血のリスクがある。
●長時間手術の場合、鼻・舌潰瘍を作るリスクがある。
●頭蓋底手術・外傷後は、鼻からの挿入で頭蓋内への挿入リスクがある。
●気管挿入され肺炎を起こすリスクがある。
術後に必要ない場合は口からいれるのが無難そうです。
気管挿入は時々経験しますね。
胃管のところからリークが生じて、
一回換気量が下がる。
呼吸器のアラームが鳴る。
これで気がつきます。
挿入方法のあれこれ
問題はこれです。
胃管が入らない人は本当に入らない。
麻酔科医が、どのように胃管をいれているのかみてみましょう。
文字通り、手を変え品を変えてやっています。
●咽頭後壁に指で押さえつけながら送る
●両側頸部圧迫法
●マギール鉗子を使う
●挿管チューブ越しに入れる
●蒸留水を胃管に通して凍らせておく
●ガイドワイヤーを使う
●手を変える
ひとつづつ見ていきましょう。
咽頭後壁に指で押さえつけながら送る
私はまずこの方法でやっています。
左手を口腔内に入れ、
人差し指でチューブを咽頭後壁に押しつけつつ送ります。
この方法では咽頭レベルで胃管が折れたり、
ループを作ったり、進まなかったりするのが
触覚でわかります。
正しい方へ向くようにいように後壁に押し付けて進めていきます。
胃管の進むべき正しい方向とは?
全身麻酔下で挿管された患者さんの経鼻胃管挿入の様子をファイバーで観察した研究があります。
挿入に成功した症例では
多くの胃管は被裂軟骨の隣の下咽頭を通過します。
イメージとしては右下か、左下ですね。
ざっくりですが(笑)
手技全般に言えることですが、
見えないところでの操作はイメージが大切です。
イメージができてない限り
その操作はテキトーだし、
どう改良したらいいのかもわかりません。
喉頭レベルでは
左右どちらかの「被裂軟骨の隣の下咽頭」を目指しましょう。
両側頸部圧迫法
逆に失敗した胃管挿入では梨状窩に突っ込んでしまっていることが多かったようです。
イメージとしては右上か、左上ですね(笑)
両側頸部圧迫法ではここを潰すようなイメージで甲状軟骨の辺りをつかみます。
その状態で軽く持ち上げると下咽頭にスペースができ、さらに挿入しやすくなります。
(引用: https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen-06.pdf)
マギール鉗子を使う
(引用:http://www.taiyu-medical.co.jp/pdf/catalogue16.pdf)
喉頭鏡をかけて直視しながら、マギール鉗子で胃管を送り込みます。
目視で胃管が確認できる
胃管を進める力が伝わりやすい
というメリットがあります。
最近はビデオ喉頭鏡があるので組み合わせて、
より視覚的に確認しながら胃管を進めることができます。
挿管チューブ越しに入れる
私の最終兵器です!
今のところこれで入らなかった症例はないです。
周りでやっている人がおらず、
紹介すると感動されます。(笑)
twitterでも紹介したので引用しますね。
日本語の紹介記事もあるので貼っておきます。
この方法の場合も、
食道挿管をするときは喉頭周囲の解剖を思い描きながら入れていきます。
蒸留水を胃管に通して凍らせておく
準備が必要だけど、胃管自体にコシを持たせる方法。
有効性を検証した論文では
初回成功率
58% vs 88%で
有意に成功率は上がります。
予め準備ができるなら、一つくらいあってもいいかもしれませんね!
ガイドワイヤーを使う
これも胃管自体にコシを持たせる方法。
実際に使ったことはないのですが、手近に手に入るようなら試してみる価値はありそうです。
内視鏡室とかにあるんですかね。
紹介されている論文では
初回成功率
56.7% vs 99.2%
という結果です。
手を変える
誰かに代わってもらうだけで、
するっと入ってしまうことはよくあります。
何が悪かったんだろう、、。
と、全くの謎に終わることもありますが
絶対に何かが違うはずです。
よくよく聞い検証しましょう。
でも何かはわからないことが多いです(笑)
まとめ
●胃管は誤嚥性肺炎を予防する為に挿入する。
●実は麻酔科手技の中で最難関手技である。
●挿入方法はいろいろある。
●いずれにせよ、喉頭周囲の解剖をイメージしながら挿入するのが大事。
麻酔科手技を学ぶなら下記本をおすすめします。
今回の胃管挿入も詳細に理論的に解説されています。
私はファンなので買いました!(笑)
指導するときにもヒントになりますよ。
最後までお読みいただきありがとうございました!
また次回もよろしくお願いします。
お読みいただきありがとうございます!頂いたサポートはコンテツ作成に還元していきます。よろしくおねがいします。