書籍紹介『学びにくさのある子への読み書き支援』
『学びにくさのある子への読み書き支援(井上 賞子)』という本の紹介です。
著者の井上賞子先生はnoteや『実践みんなの特別支援教育』での記事を読み学ばせていただいていました。この本も買ったまま積読になりかけていたのですが、職場の先輩から教えてもらった東洋経済が選ぶ「年末年始に読みたい」、学校教育関係者にお薦めの本10選に紹介されていたのもあり、この年末に読みました。
いや、もっと早く読んでおけばよかったと後悔した1冊です。
いま目の前にいる子の「わかった!」を目指してきた実践の記録
少し長いですが、本の「はじめに」を引用します。
(画像はPR TIMESより)
井上先生の困っている子どもの背景を探り、試行錯誤を繰り返しながら子どもたちの「できる」「わかった」をさがす姿勢にとても共感します。
本に紹介されている子どもたちと井上のエピソード1つひとつが、わくわくする「これがあればできる!」を探す旅なんです。
ICTもアナログも具体的なノウハウを掲載
井上先生がされてきた具体的な支援のノウハウが掲載されているのもこの本の特徴です。
(画像はPR TIMESより)
1章は読み・書き、2章は思いをつたえる・コミュニケーションについて井上先生がそれぞれの目の前の子たちに取り組まれてきた試行錯誤のエピソードが紹介されています。
方法だけではなく、井上先生からまた目の前の子どもの見立てや、支援の手立てを選んだ具体的な理由なども掲載されています。
取り組みの内容、具体的な手立ての工夫についてはタブレットのアプリなどICT機器を使用したデジタルなものから、アイスのヘラを使った50音表などアナログなものまで様々。
アプリについては名前やアイコン、詳細が紹介されていてとてもわかりやすいです。読んでいるうちにいろんな子の顔が浮かんできて、あの子にこのアプリ使ってみたらどうかな?なんて自然に考えてしまいます。
またサイトなどについてはQRコードも載っているものもあり、すぐに検索して確認できます。
子どもたちとの関わりを考えさせられるコラム
具体的な取り組みだけでなく、井上先生のコラムも印象的です。
どれもそのテーマでがっつり語りたい!と思えるほど魅力的な内容です。
コラムや子どもたちとの関わり方のエピソードを通して井上先生の姿勢や考え方を知ることで、単なるHOWTOではなく、自分の目の前にいる子たちへの関わり方を具体的に考えることができるのかなぁと思います。
丁寧な子どもたちとの関わりに共感
登場する子どもたちへの井上先生の丁寧な関わりには尊敬の念があふれてきます。ちょっとおこがましいですが、自分自身の関わりを重ねる場面がいくつかありました。
ヒントカードを使っての選択式漢字テストを導入し、「わからなかったら確認して大丈夫だよ」と伝えると安心して取り組むことができたエピソードからは、かけ算の百ます計算を拒否していたけれど、九九表を見ながらでいいよと伝えると取り組みはじめ、知らぬ間に覚えていったあの子を思い出します。
彼女がたまたま用意していたジグソーパズルにハマり、その日からネットオークションで、500〜1000ピースの安いパズルを探すのが井上先生の日課になったエピソード。
「俺漢字なんて全然できへんねん」と言っていた子も浮かんできます。「けテぶれ学習法」を参考に、好きなアニメのキャラクターに関する漢字テストをはじめると、自宅にキャラクターの紹介カードを持ち帰り、どんどんテストに合格し、そのキャラクターカードを持って帰っていきました。その日からその子の好きなアニメとキャラクターを調べ、その紹介カードと漢字テストを作る日々が始まりました笑。いつしかその子漢字の苦手意識は消え、「家族とのドライブ中に看板などの漢字を読むようになったそうだよ」と担任さんから聞いたのは忘れられない思い出です。
身近な人の名前やLくんが伝えたいこと、よく使う言葉などの「Lくんことばカード」が増えていき、お母さんから「スーパーでお気に入りのキャラクター付きのソーセージをにぎって、『かっ・てー!』と大きな声を出して、びっくりしました」と話を聞くエピソード。
同じく発語の苦手な子に、「助けて」や休み時間の過ごし方のカードを作ったり、50音表を用意したりする中で、お母さんから自宅で用意してくださっていた50音表を使って「メガネ(先生)やすみ」と僕のお休みを教えてくれたこと連絡帳で知って笑ったあの瞬間を思い出しました。
アプリ「SimpleMind+」を使って思いを可視化していくことで、「もうない」と1つ2つで止まっていたNさんが、5年生になってから頑張っていることの項目を21個もあげることができたエピソード。
「ふつう」「わからない」を繰り返していたあの子と授業での振り返りノートのやり取りを重ねる中で少しずつ言葉が増えていき、発表会の感想文で「めっちゃ楽しかったです」と書いていたのを見た喜びの瞬間が浮かんできました。
子どもたちからエネルギーをもらいながらこそ、『わかった!』を目指す旅が続けられるのでしょうね。僕も浮かんできた子たちにたくさん支えられてきたのです。
井上先生と子どもたちとの関わりに共感する、そして自分もこんな関わりができるんじゃないかなと勇気づけられる、そんなエピソードがたくさん溢れた本なんです。
まとめ
この本は子どもたちと一緒に『わかった!』を探していく旅が綴られた本です。
具体的なノウハウも詳細に記載されていて、とても参考になります。
でも、それだけでなく井上先生が目の前の子どもに対して、つまずきの原因を仮定して手立てを探し、悩み、試し、調整ながら、子どもたちが「この方法なら自分でできる!」を見つけ、「自分で学ぶ」体験を重ねていくエピソードそれ自体がとっても魅力的な本でもあります。
この本の支援も参考にしながら、これからも目の前の子たちに試行錯誤を積み重ねていこうと改めて思いました。僕自身も「いま目の前にいる子の『わかった!』を目指す旅」の仲間になれたらいいなぁなんて。
井上賞子先生はnoteでも自作教材やアプリについての情報を発信されていますので、そちらもぜひのぞいてみてください。
東洋経済での記事もぜひ。
表紙の画像はAmazon.co.jpより引用した本の表紙です。