体験記事「日本最大級の盲重複障がい施設 光道園」
光道園は、1957(昭和32)年に故中道益平氏によって福井県に創立された、全国でも珍しい盲重複障がい(視覚障がいだけでなく、知的障がいや肢体不自由、聴覚障がいなど他の障がいを併せ有する)の方を対象とした大規模入所施設です。
盲重複障がいの施設としては全国に先駆けたものであり、現在も全国各地の出身の方が利用されています。
僕は以前、この光道園さんを見学させていただいたことがあります。そのときの体験や感想、光道園さんの理念や施設についてを紹介させていただけたらと思います。
1 光道園の理念と中道益平の人生
「愛なき人生は暗黒であり 汗なき社会は堕落である」
(画像は光道園より)
この言葉は、光道園を創設した初代園長の故中道益平氏が残した園訓であり、彼が生涯をかけて貫き通した精神でもあります。光道園という名前は、光の道=幸せの道に通じる園、光によって幸せな生活を送れる人が一人でも増えるようにとの思いから名付けられたそうです。
中道益平氏は、1907(明治40)年に福井県小浜市に生まれ、17歳で片眼を、25歳で両眼を失明します。失明した際には、喪失感から死をも考えたそうですが、ある日病院の中庭で手に触れた雑草が石の下から逞しく生きようとしているのに気づき、「両眼を失っても心の眼は持っている、同じ境遇で苦しむ人々を助けたい」と思ったそうです。
そこから一念発起し、盲学校へ入学し、マッサージ師となられます。そこから他の視覚障がい者との関わりの中で、盲重複障がいを知ります。また1948(昭和23)年には2度目の来日をし、福井駅で下車したヘレン・ケラー にも会われています。ヘレン・ケラーの「どう、あなたの心のランプを今一段高く差し上げてください。盲人が更生のために進む道を照らすために」という言葉が中道氏に大きな影響を与えたのかと思います。
(画像は共同通信より)
1957(昭和32)年に光道園を創設し、1958(昭和33)年にある福祉事務所より視覚障がいと知的障がいを併せ持つ方の入所相談を受け、全国どこを探しても受け入れ先がなかったことから光道園への受け入れを決意し、それが現在の盲重複障がいの大規模入所施設に繋がっています。
1970(昭和45)年にはヘレン・ケラーの名を冠したヘレンケラーホームも建設されます。1978(昭和53)年に中道氏は享年70歳で逝去されます。そして、その精神は今も光道園に受け継がれています。
(画像は光道園パンフレットより)
2 光道園のあゆみ
詳細は光道園ホームページのあゆみ(沿革)にも掲載されています。
1958(昭和32)年10月 福井県文京区において身体障害者更生施設として事業開始
1959(昭和33)年7月 社会福祉法人として厚生大臣より認可
同年9月 身体障害者福祉法による、身体障害者授産施設「光道園」として厚生大臣より指定
同年10月 点字図書館を開設
1966(昭和41)年4月 鯖江市石田町に重度身体障害者授産施設「ライトセンター」開設
1968(昭和43)年5月 ミックバラーズが県民会館にて初公演
1970(昭和45)年4月 鯖江市石田町に重度身体障害者更生援護施設「ライフトレーニングセンター」開設
1973(昭和48)年4月 越前町朝日に養護老人ホーム「第一光が丘ハウス」開設
1975(昭和50)年1月 越前町朝日に養護盲老人ホーム「第二光が丘ハウス」開設
同年5月 越前町朝日に特別養護老人ホーム「第三光が丘ハウス」開設
1981(昭和56)年4月 記録映画「ひとつの道」制作
1992(平成4)年4月 越前町朝日にデイサービスセンター・在宅介護支援センター「さざんかホール」を開設
1997(平成9)年4月 越前町朝日に「ライトホープセンター」を新築移転
1999(平成11)年7月 鯖江市和田町に「ライトワークセンター」を新築移転
同年10月 越前町朝日に「居宅介護支援事業さざんかホール」を開設
2000(平成12)年4月 越前町朝日に「ヘルパーステーションさざんか」を開設
2003(平成15)年9月 鯖江市和田町に「ライフトレーニングセンター」を新築移転、身体障害者デイサービスセンター「たねのいえ」開設
2006(平成18)年4月 「第三光が丘ハウス」をユニットケア方式による新型特養として改築
同年10月 越前町朝日に相談支援事業「越前町障害者支援センターさざんか」事業開設
2009(平成21)年4月 身体障害者4施設が、障害者自立支援法(平成25年度より障害者総合支援法に移行)における新体系に移行し、障害者支援施設となり、施設入所、生活介護、就労移行支援、就労継続支援(B型)、自立訓練(生活訓練)の事業を開始
2010(平成22)年4月 「第一光が丘ハウス」及び「第二光が丘ハウス」改築、「ライトホープセンター」にて短期入所、日中一時支援事業を開始
2011(平成23)年1月 鯖江市和田町に相談支援事業・障害者支援センター「こうどうえん」事業開設
2013(平成25)年4月 越前町朝日にグループホーム「とらいと」、就労支援事業所「フ・クレール」新築開設
2014(平成26)年10月 越前町朝日に福利厚生施設として、事業所内保育施設「ひかりっこ」新築開設
2015(平成27)年4月 ライトホープセンターに放課後等デイサービス「にこにこルーム」併設
2019(平成31)年4月 こども支援センター「えがお」開設
3 光道園の特徴
1.施設の概要
(1)朝日事業所と鯖江事業所
光道園は福井県内にある施設です。そして越前町朝日にある光道園朝日事業所と、鯖江市和田町にある光道園鯖江事業所の2つの大きな敷地があり、その中や周辺にいくつかの施設があります。初めて訪れたときにはその大きさや、雪国ならではの除雪車があることなどに驚きました。
(画像は光道園パンフレットより)
(2)光道園朝日事業所
・障がい者支援施設「光が丘ワークセンター」
(画像は光道園より)
・障がい者支援施設「ライトホープセンター」
(画像は光道園より)
・養護盲老人ホーム「第二光が丘ハウス」
(画像は光道園より)
これらが視覚障がい関係の生活介護や自立訓練(生活訓練)、短期入所や施設入所支援などの施設になります。
それ以外にも、越前町障害者支援センター・ヘルパーステーション「さざんか」、養護老人ホーム「第一光が丘ハウス」、特別養護老人ホーム「第三光が丘ハウス」、デイサービスセンター・居宅介護支援事業所・在宅介護支援センター「さざんかホール」、放課後等デイサービス「にこにこルーム」が、少し離れた場所に就労支援事業所「フ・クレール」とグループホーム 「とらいと」があります。
(3)光道園鯖江事業所
・障がい者支援施設「ライトワークセンター」
(画像は光道園より)
・障がい者支援施設「ライフトレーニングセンター」
(画像は光道園より)
・生活介護(通所)施設「たねのいえ」
(画像は光道園より)
これからが視覚障がい関係の生活介護や就労継続支援(B型)、日中一時支援や短期入所、施設入所の施設になります。
これら以外にも障害者支援センター「こうどうえん」があります。
2.全国各地から入所者が集まる
施設を利用されている方は福井在住の方がもちろん多いのですが、光道園には北は北海道から南は九州まで全国各地から盲重複障がいの方が入所されています。都市部であっても盲重複障がいの方の入所施設は少なく、また光道園のような大型施設はほとんどないからです。
3.基礎学習、課題学習
東京水産大学教授の故中島昭美先生が昭和44年より光道園に来園され、「施設は単に生活や訓練の場だけではない。そこで暮らす重い障害を持った方々を一人の人として捉え、その人たちが何も出来ない人たちではなく、限りない可能性を秘めた方々であると認識し、教育的要素を取り入れたかかわりを持つべきである」との言葉から、基礎学習、課題学習の取り組みがスタートしています。
(画像は光道園より)
4.福井大学や福井県立盲学校との繋がり
30年ほど前から福井大学大学院教育学研究科教授の松木健一先生が来園され、「障害とは障害をもつ個人にあるのではなく、その人と上手に関われていない周り(職員)との間にある」という考えのもと、関係性や関わり方のアドバイザーとして「生活支援事例報告会」に参加されています。
また福井県立盲学校とも毎年、合同研修会を行っています。盲学校卒業生も多数、光道園を利用しています。
5.視覚障がい施設としての専門性
光道園は専門の資格をもった歩行訓練士が在籍し、白杖歩行訓練や生活機能訓練も行っています。また盲ろう者の方もいらっしゃり、触手話や指点字でコミュニケーションをとっておられました。僕も学生時代にかじった手話を触ってもらい、少しだけお話しさせてもらいました。
(画像は光道園より)
生活だけでなく、陶芸や軽作業などの仕事にも工夫があります。
(画像は光道園より)
作業ではお土産のお菓子を入れる紙箱の組み立て作業を見学させていただきました。他の視覚障がい施設でも見学したことはあるのですが、熟練の職人さながらに指先の感覚で素早く組み立てていくスピードは圧巻の一言です。盲学校に帰ってから、子どもたちにもそのすごさを伝え、授業で箱の組み立ても行いました。
視覚障がいのある方、特に重複障がいのある方は何も出来ないと思われ、仕事をするという経験をしてこなかった方もいます。見学の際に、ある利用者さんが言った「仕事があるとおもいでなんじゃ(楽しいなぁ)!」という言葉を聞きました。光道園にいる方々は、園訓にあるように汗をかく、働く喜びや楽しみを知っているのかもしれないなぁと思ったり。
光道園の陶芸「陶華星」では、十二支の陶芸商品やオリジナルキャラクター「ガオー」の販売や色付け体験なども行っているそうです。注文は電話0778-62-8103まで。
(画像は光道園より)
6.ミックバラーズ
光道園ではクラブ活動も盛んですが、その中の器楽クラブが「ミックバラーズ」です。ミックバラーズとは、バラバラの存在をミックスし一つの音楽にするという意味があります。園内の行事だけでなく、県内、全国で何百回と演奏活動を展開されています。
(画像は福祉新聞 社会福祉法人風土記<48>より)
(画像はでぶろぐより)
7.2つの車輪
光道園の方が言っておられました。「1つ目の車輪が全国から盲重複障がいの方々を受け入れること、そして2つ目の車輪が身近な地域のニーズに答えることです」と。
実際に視覚障がいに留まらず、養護老人ホームや特別養護老人ホーム、デイサービスやヘルパーステーション、放課後等デイサービスなどにも取り組まれています。特に就労支援事業所の「フ・クレール」とグループホーム「とらいと」は知的障がい・発達障がいの方を対象にされた施設だそうです。フ・クレールのパン美味しかったです。
(画像は光道園より)
また地域の学校を対象にした「こうどうえん福祉学習体験プログラム」も行われています。
(画像は光道園より)
4 盲重複障がいについて
光道園からはじまった盲重複障がい施設は全国に広がり、東京光の家などの大型入所施設もできています。
盲重複障がいについては、全国盲重複障害者福祉施設研究協議会が作成した『盲重複障害について』が大変参考になります。もちろん視覚障がいの方への対応にも活用できます。
(画像は島根ライトハウスより)
また特に盲ろうについては、国立特別支援教育総合研究所が作成した『視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろうの子どもたちの育ちと学びのために』や『みなさまの身近に視覚と聴覚の両方に障害のある「盲ろう」のお子さんはいらっしゃいませんか?』があります。
(画像は国立特別支援教育総合研究所より)
(画像は国立特別支援教育総合研究所より)
島根ライトハウスのホームページには、全国盲重複障害者福祉施設研究協議会事務局の連絡先や「盲重複研協議会加盟施設一覧表」、「盲重複研家族会加盟一覧」の資料も掲載されています。
それ以外にも、盲ろう医療支援情報ネットなどのサイトがあります。
まとめ
盲重複障がいの大規模施設、光道園の紹介はどうだったでしょうか。僕自身が福祉との出会いが、学生時代に始めた身体障害の方のガイドヘルパーで、その利用者の方に頼まれて、グループホームのキーパー(管理人)のアルバイトもしていました。今でもその方との付き合いは続いているのですが、お母さんの高齢化の問題に直面されています。
僕は支援学校で働いているので、子どもたちや保護者の方よりも卒業後の進路については知っていることが多く、先を見据えてお話をすることがあります。しかし、支援学校卒業後の進路は何十年と続いていくのです。
学校にいる間に意識することはあまりないのかもしれませんが、保護者の方がいなくなったときにどうするのか。その選択肢の1つとして、今回紹介した光道園のような入所施設を知っておいてもいいのかもしれません。
まだまだ語り尽くせていない魅力が沢山あります。詳しく知りたい方は、直接見学されるか、ホームページやブログ、Facebookなどをご覧ください。
参考にしたサイト
①光道園
表紙の画像は光道園ホームページより引用しました。