盲学校からの発信「骨は触っといた方がおトクですよ」
視覚障害教育からの発信1回目ということで、今回は「骨の触察」についてお伝えします。
(画像は大阪市立自然史博物館ホームページより)
(画像はりかちゃんのサブノートより)
骨触ったことありますか?
動物の骨なんて普通触らないし、小学校や中学校の理科の授業では、横向きの肉食動物と草食動物の頭蓋骨の違いの図や写真を見て終わりです。でもそれだけだと、もったいない。目が見えない視覚障がいの授業だからこそ、みえてくるものもあるんです。
まず視覚障がいについてのお話から。
視覚障がいについて
視覚障害は情報障害とも言われます。目からの情報は全情報の90%を占めると言われています。その目からの情報を補うために使うのが、耳の聴覚、そして手などの「触覚」です。という訳で、手を使って観察する(よく「手で見ると」言われます)「触察」は盲学校で必要不可欠なのです。
(画像はいらすとやより)
この触察ですが、もちろん、いきなり触ってわかるようにはなりません。まず怖がらずに積極的に触れる手を育てないといけません(見えないものを触るのはテレビでも罰ゲーム扱いですよね、最初は怖いんです)。また触って気づいたこと、思ったことをすぐに発言できる態度や発言しやすい雰囲気も必要になります。
触察のポイント
上手な触察のポイントは以下の6つです。
①両手を使う(一度に把握できる範囲が広くなり、また両手の間隔から距離感がわかるようにな離ます)
②触り残しがないよう隅々までまんべんなく触る
③ 基準点をつくる(基準があることで位置関係や距離感が理解しやすくなります)
④全体→部分→また全体→…と繰り返し触る(両手の範囲しか一度に確認できません。部分を繋げて全体のイメージをつくり、また全体の中の部分を意識することで、全体像のイメージができてくるのです)
⑤触圧をコントロールする(大きな岩や木の幹など、硬くて大きいものは手のひら全体を押し付けるようにして触ると、質感や硬さがよくわかります。逆に生き物を触るときは優しくなでるように触ります)
⑥温度や触覚を意識して触る(温度や触覚の違いによって、木材か金属かプラスチックかなど材質の違いがわかります。また温度を意識することで、コップの中に水がどのくらい入っているかなどもわかります)
上記の内容は、『視覚障害教育入門』青柳まゆみ・鳥山由子編著(ジアース教育新社 2012)に掲載されています。
では本題の頭蓋骨の触察の内容です。
動物の頭蓋骨を触ろう
目標は、①哺乳類の頭蓋骨を観察して特徴を知ること、②頭蓋骨の特徴から生きているときの姿を推測すること、③これらの内容について、主体的に観察し、クラスメイトと対話して考えを深めることの3つです。
授業の展開についてです。標本は生きていた動物であり、「いただきます」の気持ちで丁寧に扱うことを確認し、以下の流れで触察を進めます。
①頭全体の大きさからその動物を考える
②顎の噛み合わせ確認(顎がどのくらい開くか、左右に動くか)
③歯の観察(犬歯の鋭さ、奥歯のすり合わせ)
④目の向き、大きさの観察(前向きか横向きから)
⑤鼻の特徴(鼻が突き出している、ひだの数)
⑥耳の穴の位置の観察(内耳が入っていた場所に気づく)
⑦頬骨の観察(骨表面のざらつきに気づく)
⑧脳が入る部屋の観察(大きさ)
⑨首(頚椎)の穴の観察(向きから動物の立つ姿勢を考える)
触察が終了したら、その動物の生き方を考え、名前を根拠を持って推理します。
この授業展開は、科学へジャンプでのワークショップ「骨は語る」(鳥山由子)を参考にしています。
触ることのメリットなど
骨を触ることの利点はいくつかあります。
①体験することで知識をより深められる
特に肉食動物の犬歯の鋭さなどの歯の特徴(肉食動物の犬歯/草食の臼歯)は直に触らないとイメージしにくいのではないでしょうか。また歯の数を数えてみると、肉食動物は臼歯が意外と多いなど、それまでのイメージとは異なる実態が見えてきます。
(画像はスタディサプリより)
それ以外にも、顎の開き方(肉食動物は肉を噛み切るために縦に大きく開き左右にはズレない/草食動物は草をすり潰すので左右にズレる)、目の向き(肉食動物は獲物を立体的に捉えるために前向きで視野が狭い/草食動物は敵を発見してすぐに逃げるために横向きで)なども実際に触る体験をすることで理解がより進むと思います。頭蓋骨と対面して目の穴に指を入れると、目の向きが本当によくわかります。
受動的に図や写真を見たり話を聞くだけでなく、能動的に触る体験は、確実に学びを深くします。
(画像は記者撮影より)
②触って初めて気づくことがある
まず骨の表面ですが、ザラザラしている部分とツルツルしている部分があります。「実はザラザラは筋肉が付いている部分だです」そう聞くと、子どもたちはツルツルとザラザラを識別し、筋肉のつき方(顎を動かすため頬骨から後頭部がザラザラ、逆に頭頂部はツルツル)などより深い理解につながります。
耳の穴もそうですね。気づくまで、動物の耳からの聴神経が後頭部の穴に伸びているなんて、骨を触わって、「この穴は何だ?」と考えないと気づかないはずです。
(画像はふたばのブログより)
首(頚椎)の穴も、そこに指を入れることで首の向きや太さがわかり、動物を推測する際のポイントになります。
というかよくある骨の図や写真では、耳の穴も首の穴も骨の表面のざらつきも説明されていないですよね。
(画像は記者撮影より)
もちろん欠点もあります。
①時間がかかる
触察はゆっくり丁寧に行う必要があるので、非常に時間がかかります。1つの頭蓋骨食察に数時間かけることも珍しくありません。
一方で、一度しっかり触察するとそれが基準となり、2回目以降はとてもスムーズになります。例えば、先に肉食動物の頭蓋骨を触ると、それを基準に比較することで、草食動物の頭蓋骨の理解はよりスピーディーに進みます。
②骨を触れる機会や場所がほとんどない
大阪市立自然史博物館には頭骨貸し出しキット(アライグマ・シカ)があります。各地の博物館で借りれる場合があるかもしれません。
また盲学校には実物教材として、頭蓋骨や剥製などの標本を保管している場合があります。
ただ多くの数を保有しているところは少ないため、一度に触れる人数には限りがでてきます。
今回の骨の触察についての話は以上です。
お役に立てば幸いです。
また盲学校での骨を触るなどの授業の様子は『手でみるいのち(柳楽未来)』という本に詳しく紹介されています。
今後とも盲学校の視覚障がい教育を通常校の教員の方へ向けて発信したいと思います。
よろしくお願いします。
表紙の画像は大阪市立自然史博物館からお借りしたニホンジカの頭蓋骨の写真です。
参考にした資料・サイト
①『改訂版 視覚障害教育入門』青柳まゆみ・鳥山由子編著(ジアース教育新社 2015)
https://www.kyoikushinsha.co.jp/book/0300/index.html
②『新訂版 視覚障害教育入門Q&A-確かな専門性の基盤となる基礎的な知識を身につけるために-』青木隆一・神尾裕治 監修(ジアース教育新社 2018)
https://www.kyoikushinsha.co.jp/book/0472/index.html
③『手で見るいのち』(毎日新聞 2018)https://mainichi.jp/tedemiru/
④科学へジャンプホームページ
https://www.jump2science.org/
⑤長居自然史博物館ホームページ
http://www.mus-nh.city.osaka.jp/index.html