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書籍紹介『見えない・見えにくい子供のための歩行指導Q&A』

『見えない・見えにくい子供のための歩行指導Q&A(全国盲学校長会/青木 隆一)』という本の紹介です。

視覚に障がいにある子にとって、「移動」というのは生活する上でとても大事で大きな課題です。

歩行指導とは、単に歩くことだけではありません。どこに何があるのかの空間認知や身体感覚、触覚や聴覚、嗅覚と情報のリンク、頭の中での地図づくり、白杖の使い方、電車やバスの利用、困ったときの援助依頼をはじめとするコミュニケーションや社会性、咄嗟の判断力などなど総合的な力が必要なものです。

安全に歩行するためには、なんとなく歩けるではなく、論理的に歩けるようになる必要があるのです。

盲学校の子どもたちは、自立活動の時間を中心に、歩行訓練士の資格を持つ教員や外部の講師から歩行指導を受けます。

歩行訓練士とは社会福祉法人日本ライトハウス、または国立リハビリテーションセンターの養成課程を受講された方のことです。

しかし歩行訓練士の資格を持つ教員の数は足りていませんし、校外はともかく校舎内の手引きや移動、教室内の構造把握はどんな教員でも指導できた方がいいはずです。

そんな訳で誕生したのが、Q&A形式で歩行指導について学んでいくこの本です。執筆にあたっては全国の盲学校で歩行訓練に携わられている先生方の協力がありました(僕の先輩も執筆者の一人です)。

この本の目次を引用します。

目次
はじめに
本書作成の意義
本書の活用上の留意点

第1部 歩行指導を始める前に
序章 特別支援教育の現状と課題
1 特別支援教育を取り巻く状況
1.障害者の権利に関する条約
2.改正障害者基本法
3.障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
4.共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)
2 視覚障害教育の現状と課題
1.盲学校の現状
2.盲学校の在籍者数等について
3.小・中学校等における視覚障害教育の現状
4.盲学校の主な課題

第2部 実際の歩行指導に当たって
第1章 視覚障害教育における歩行指導の概要
Q1 視覚障害者への歩行指導の意義等について教えてください。
Q2 自立活動として行われる歩行指導の考え方を教えてください。
Q3 将来のひとり歩きに向けて、育成しておくべき能力について教えてください。
Q4 歩行を支える「基礎的能力」の指導について教えてください。
Q5 歩行の経験で得た知識や技術を生かす指導について教えてください。
Q6 視覚障害者にとっての白杖の法的根拠について教えてください。
Q7 学校で行われる歩行指導は、どのようなものがありますか。
◆Column◆
1 歩行指導の必要性
2 次はどこに行くの?
3 歩行指導の教科書
第2章 個別の指導計画の作成・活用等
Q8  個別の指導計画の作成に当たって、基本的な考え方を教えてください。
Q9  歩行に関する実態把握は、どのようにしたらよいでしょうか。
Q10 PDCAを踏まえた個別の指導計画の作成・活用について教えてください。
第3章 歩行の初期段階で大切にしたい指導
Q11 姿勢と歩行との関係は、どのようなものでしょうか。
Q12 歩行に必要な「身体の動き」は、どのようなものでしょうか。
Q13 歩行に必要な「環境の把握」は、どのようなものでしょうか。
◆Column◆
4 いろんなところで宝探しゲーム
5 様々な目的地
第4章 屋内の移動
Q14 教室内の歩行指導について教えてください。
Q15 歩行における「地図の指導」は、どのようにしたらよいでしょうか。
Q16 自分の教室から別の場所への歩行指導について教えてください。
第5章 ガイド歩行
Q17 ガイド歩行の意義や目的について教えてください。
Q18 視覚障害のある子供にとってのガイド歩行の意義を教えてください。
Q19 ガイド歩行の基本的な方法を教えてください。
第6章 白杖の基本的操作
Q20 白杖の意義、構造、種類について教えてください。
Q21 白杖の入手方法や選び方について教えてください。
Q22 白杖導入前に使う移動補助具(プリケーン)について教えてください。
Q23 白杖の持ち方や握り方、白杖による防御の方法について教えてください。
Q24 白杖の基本的な操作技術について教えてください。
Q25 階段や溝などでは、どのように白杖を使えばよいでしょうか。
◆Column◆
6 「白杖SOSシグナル」運動を知っていますか
7 「白杖の妖精 つえぽん」の誕生
第7章 白杖を用いた屋外での指導
Q26 屋外で歩行指導を実施するに当たっての留意点を教えてください。
Q27 障害物を発見した後の回避方法について教えてください。
Q28 歩道と車道の区別の有無による歩行の違いについて教えてください。
Q29 車音を安全な歩行に生かす方法について教えてください。
Q30 「信号機のない交差点」の横断の方法について教えてください。
Q31 「信号機のある交差点」の横断の方法について教えてください。
Q32 「踏切」の横断の方法について教えてください。
Q33 繁華街や駅構内など混雑する場所の歩行について教えてください。
Q34 様々な手掛かりをどのように活用するとよいでしょうか。
Q35 雨天や積雪など気象条件に応じた歩行について教えてください。
Q36 歩行におけるICT機器の活用について教えてください。
第8章 交通機関等の利用
Q37 バスの利用に当たっての指導について教えてください。
Q38 乗用車やタクシーの乗降に当たっての指導について教えてください。
Q39 電車の利用に当たっての指導について教えてください。
Q40 電車の利用に当たって、プラットホームの構造等に関する指導について教えてください。
Q41 電車の乗降に当たっての指導について教えてください。
Q42 エレベーターやエスカレーターの利用に当たっての指導について教えてください。
Q43 道に迷ったときなど、援助依頼をする際の留意点を教えてください。
◆Column◆
8 指導時のヒヤリ・ハット
9 視覚障害者と腕時計
第9章 自立と社会参加に向けて
Q44 歩行時のマナーとして、どのようなことが大切ですか。
Q45 登下校の歩行指導における留意点を教えてください。
Q46 進学や就職に伴う歩行指導は、どのように進めるとよいでしょうか。
Q47 社会自立につながる歩行の意欲的な態度とは、どのようなものでしょうか。
◆Column◆
10 歩行能力が視覚障害者の自立につながる
11 指導者のマナー
第10章 弱視の子供への歩行指導
Q48 弱視の子供への歩行指導の基本的な考え方を教えてください。
Q49 弱視の子供の歩行に必要な見え方の把握方法について教えてください。
Q50 弱視の子供の歩行における弱視レンズ等の活用について教えてください。
第11章 重複障害のある子供への歩行指導
Q51 重複障害のある子供への歩行指導の意義を教えてください。
Q52 重複障害のある子供への歩行指導について教えてください。
◆Column◆
12 A君との思い出
13 指で会話をしながら歩くこと
第12章 中途視覚障害障害者への歩行指導
Q53 中途視覚障害者への歩行指導は、どのように考えればよいでしょうか。
◆Column◆
14 人生の景色が変わるとき
第13章 視覚障害者の歩行を支える
Q54 保護者や関係機関とのよりよい連携の在り方について教えてください。
Q55 同行援護制度とその利用の仕方について教えてください。
Q56 点字ブロックについて、知っておくべきことを教えてください。
Q57 歩行訓練士という国家資格があるのですか。
◆Column◆
15 八盲サポーターの取組 ~地域で支え合う登下校支援~
16 点字ブロックの利用者
17 盲導犬歩行
18 歩行指導のパイオニア 木下和三郎から学ぶ
引用・参考文献

第3部 参考資料

○「歩行実態表」(例)
○保護宛ての一人通学に関する文書(例)
1 「一人通学に向けての手順について」
2 「一人通学届の提出について」
3 「一人通学届」
4 「一人通学指導計画」
5 「一人通学歩行指導チェックシート」
ジアース教育新社より)

どうでしょうか。歩行指導の多岐にわたる内容に驚かれたかも知れません。歩行指導の内容って本当に幅広いのです。

そして歩行ができるようになることはその人の人生を変えることにもなります。「Column14 人生の景色が変わるとき」で紹介されているある生徒さんの言葉を引用します。

「歩行指導は私の人生の景色を変えてくれました。人に見られることがあれほど嫌だった私でしたが、助けてくださった多くの方との出会いに、優しさや温かさを感じることができるようになりました。ときには他者の一言に傷つきそうになることもありましたが、『(余裕のない相手の態度に)大丈夫かしら』と相手を心配できるようにもなりました。今が一番しあわせです。」と、満面の笑顔で大学の卒業報告をしてくれたことを今でも思い出します。

もちろん歩行だけでなく、社会生活全般へ繋がる指導や支援をしていくのが盲学校なのですが、とりわけ移動というのはその人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に繋がるものなのだなぁと再確認するエピソードです。

もちろんこの本を読んだだけで歩行指導に求められる理論や指導技術がすべて身につくわけではありません。実際の指導にあたっては、歩行訓練士からの指導助言を受けていく必要性もありますが、そのエッセンスが詰まったおすすめの本です。

盲学校の教員をはじめ、視覚に障がいのある子たちに関わられている方へおすすめの本です。

またこの本以外にも。歩行指導に関しては『歩行指導の手引(文部省)』や『白杖歩行サポ-トハンドブック(新潟県中途視覚障害者のリハビリテ-ション/山田幸男)』なども参考になるかと思いますので、紹介しておきます。



表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。