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書籍紹介『15歳からの社会保障』

『15歳からの社会保障(横山 北斗)』という本の紹介です。


社会保障を知っておく

(画像は日本評論社より)

「社会保障」という言葉を聞いてどんなイメージが思い浮かびますか?どんな制度があるのかを知っていますか?

僕自身は特別支援学校に勤務する社会科教員、妻は医療ソーシャルワーカーという福祉にとても近い立場です。学生時代にガイドヘルパーやグループホームの管理人、障がい児学童(現在の放課後等デイサービス)兼作業所の職員といったアルバイトをしていたお陰で、障がいに関する福祉制度を自分の体験談も交えながら授業で子どもたちに伝えています。

支援学校ではそんな福祉制度について学ぶ機会もあるでしょうし、高等部での現場実習や進路になってくるとハローワークや障がい者就労・生活支援センター、福祉事業所といった施設や、支援区分判定、障がい年金などの福祉制度にダイレクトに関わる機会も増えてきます。

中学校や高校でも社会保障制度の概要について学ぶ機会はあるでしょう。でも、例えばアルバイトで受けたこの扱いは法律違反であるとか、困ったときに生活保護を申請する方法であるとかを学ぶことはほとんどないのが現実だと思います。

本当に困ったときにどう動けばいいのか、どこに相談すればいいのか、どんな手続きが必要なのか、具体的にどこの誰を頼ればいいのか…

社会保障の話は、自分とは関係のない遠い世界の話とは限りません。いつか自分が直面するかもしれない、身近な世界の話として知っておくこと。それもどこへどうすればいいのかを具体的に知っておくことが、いざというときの自分の助けになるかもしれません。

10人のストーリーから社会保障を知る

(画像はAmazon.co.jpより)

本の中では10人のストーリーを通して、それぞれに関連する社会保障制度や具体的な相談先などが紹介されます。

1 ケガで仕事を休まなくてはならず、医療費と生活費に困ったユウジ【26歳・社会人4年目】
2 アルバイトができなくなり、生活費や家賃の支払いに不安を抱えているサトシ【20歳・大学3年生】
3 住む場所がなく、食べるものに困ったシンジ【39歳】
4 高校生で妊娠し、生活に困ったマミ【18歳・高校3年生】
5 ひとりで子どもを育てることになったマサト【33歳】
6 発達障害の子どもを育てるジュン【47歳】とマコ
7 会社でハラスメントを受け、体調を崩したエミリ【26歳】
8 交通事故で車イスが必要な生活になったノブオ【21歳】
9 おばあちゃんと弟のお世話をしなければならないサクラ【中学3年生】
10 家族から暴力を受けているミユキとトモキ【小学5年生】

どのエピソードでも、困りごとに直面しつつ、今使える社会保障制度を知らない登場人物たち。

読み進めるうちに彼らの悩みが伝わり、彼らの顔が浮かんできます。社会保障制度を利用する人は遠い世界の知らない人ではなく、もしかしたら自分にもあり得ることを実感さらるはずです。

著者の横山さんは当初は医療や年金などの制度別のガイドブックを作る予定だったのだそうです。

 著者の横山さんは、「最初の構想は、医療や年金などの制度別のガイドブックを作ることでした」という。しかし、書き上げたサンプル原稿は、編集者から突き返された。「15歳に届くような工夫をして欲しい」

 悩んだうえに思い出したのが、病院の相談員時代に出会った人たちである。彼ら彼女らを主人公にして物語を組み立てることはできないだろうか。

 できあがったサンプル原稿には、ユウジの人物像が丁寧に描かれていた。社会の新商品開発のプロジェクトチームにエントリーを決めたこと、ひとり親家庭で育ち奨学金の返済に追われていること、恋人のサキが手渡したパンフレットが相談のきっかけになったこと。相談室のレイアウトや初回面接時のやりとりなど、制度説明に入るまでの人物描写にページを割いた。

 「これでいきましょう」――。編集者の一言で方針が決まった。

WedgeONLINEより

でも、それぞれのエピソードで語られるリアルさがあるから、読者に響くのだと思います。

具体的なエピソードの内容はぜひ本を手に取って読んでみてください。

制度や相談先を知っておくことの大切さ

各エピソードのおわりには紹介した制度の概要、利用するための条件、窓口などが、巻末には主な相談窓口、その他の社会保障制度の一覧、参考書籍・ウェブサイトが掲載されています。

(画像はAmazon.co.jpより)

本の中で役所に相談に行った際に、情報は聞かないと教えてもらえないのだなと感じるエピソードが度々あります(さらに言えば役所では配置換えがあるので、福祉の窓口にいる方が必ずしも福祉の専門職とは限らないのです)。

日本の福祉は申請主義、自分から申し出ないと制度を利用することができない、本当に困っている人に届きにくい仕組みになっています。

生活に困った女性が性産業に流れる、生活に困った方が闇バイトやサラ金・闇金に流れるといった問題は、制度を頼るということが広く知られていないことが原因の1つかもしれません(それ以外にもハードルの高さや即時性の低さもあるでしょう)。

今の時代、ネットで検索すれば大抵のことはわかります。でも、知らなければ調べようがないのです。

僕自身も授業で福祉制度について伝える際、「制度の細かい内容よりも、ざっくりとこんな制度があるんだなっていうことと、なによりもどんな制度があるのかや具体的にどうすればいいのかを教えてくれる相談先を覚えておくのが大事」と繰り返しています。

医療ソーシャルワーカー、自立相談支援機関、妊娠SOS、子育て世代包括支援センター、発達障害者支援センター、ハラスメントに関わる相談窓口、日本司法支援センター(法テラス)、児童相談所、配偶者暴力相談支援センター。

エピソードに登場する相談先を知っていて、繋がることができれば…読み終わり、目の前の子どもたちのことを考えるとそんな想いが絶えません。

巻末には代表的な相談窓口について紹介されています。

①お金や仕事、住まいに関する困りごと:福祉事務所、自立相談支援機関、ハローワーク

②妊娠や出産、子育て、児童虐待に関する困りごと:子育て世代包括支援センター、保健センター、保健所、市区町村の子育て支援に関する課、児童相談所、教育センターなど

③高齢や介護の困りごと:地域包括支援センター、市区町村の介護保険に関する課

④障害に関する困りごと:市区町村の障害福祉に関する課、市区町村が行う障害者相談支援事業、基幹相談支援センター

⑤心の問題や病気に関する困りごと:精神保健福祉センター、保健所など

代表的な相談窓口について より

著者の横山さんも関わった、いくつかの質問に答えることで自分の状況に合った支援を探すことができるサイトです。

悩みや不安を抱えて困っているときに、電話やSNSで気軽に相談できる場所を案内しています。

まとめ

「知らないことは個人責任では決してない」と語る横山さんの言葉が胸に残ります。

 わたしたちは義務教育において、社会制度の種類や内容、利用方法を教えてもらう機会を経ずに大人になります。ですから、知らなかったために利用できず、困った状況になってしまうことがあったとしても、それは決して個人の責任ではありません。
 自分や自分の身の回りの人の生活を守るために、一人ひとりが社会保障制度について知ることはとても大切です。この本はそのために書かれましたが、個人が社会保障制度を知ることと同じくらい、いえ、それ以上に、国や自治体が社会保障制度の情報を必要な人に届け、利用しやすくするための取り組みを積極的に行うこと、つまりは社会保障制度を申請する権利の行使をサポートする施策が重要なのです。
……
 著者としては、この本によって社会保障制度を知っていただくきっかけをつくりたいという思いとともに、このような本が必要とされない社会づくりに寄与していきたいと考えています。行政が利用できる制度をお知らせしてくれるプッシュ型の行政サービスや、利用条件を満たしている人が利用を拒否しなあ限りは自動的に制度を利用できる仕組み、オンラインでの申請などが実現すれば、社会保障制度は今よりもずっと利用がしやすくなるに違いありません。

おわりに より

横山さんの想いに賛同すると共に、これからも子どもたちに具体的な社会保障制度や相談先についての発信を続けていかねばと思います。

そんな想いを抱きながら紹介記事を書かせていただきました。

誰もが困ったときに必要な支援にアクセスできるように。

 最後に、この本を手にとってくださった成人の方へお願いがあります。
 本書をお読みいただき、その内容に意義を感じていただけましたら、中学生にも高校生にもご紹介いただき、中高生が社会保障制度について知るきっかけをつくる仲間になっていただけたら、大変うれしいです。
「この本、なんで書かれたんだろう。学校の教科書に載ってるのにね」
 そんな言葉が聞かれる未来が訪れることを願い、筆を置きたいと思います。

おわりに より

気になった方はぜひお手にとってみてください。そして、身近な子どもたちにも伝えてあげてもらえたらとも思います。

著者の横山北斗さんはXでも情報を発信されています。

また本書の刊行記念トークイベントのYouTube動画もありましたのでリンクを貼っておきます。、


参加にしたサイト

1.WedgeONLINE「「15歳にも分かるようにしてほしい」編集者から突き返された原稿案、『15歳からの社会保障』の著者インタビュー、これだけは絶対に伝えたかったこと」

2.厚生労働省 社会保障教育の推進に関する検討会第1回配付資料「書籍「15歳からの社会保障」のご紹介」



表紙の画像はAmazon.co.jpより引用した本の表紙です。