盲学校からの発信「言葉かけの構造化で、見通しをもてるように伝えよう」
僕の教員生活は、1校目(1年間)が知的障がい支援学校、2校目(10年間)が盲学校、そして現在が3校目の知的障がい支援学校になります。
2校目の盲学校でであった全盲でアスペルガータイプの子どもとの関わりから、視覚支援がなくても言葉かけで構造化の支援ができることに気づきました。そして、言葉かけの構造化は意外と耳からの情報に強いこともあるASD児(特にアスペルガータイプ)に対しても有効な支援の手立てになると思っています。
今回はそんな、視覚支援の陰に隠れて忘れられがちな言葉かけの構造化について紹介します。
盲学校学校で全盲のアスペルガーと出会う
大学生時代にガイドヘルパーやボランティア、障がい児学童(現在の放課後等デイサービス)や作業所でのアルバイトをしていました。そこでは、なんとなくの知識と感覚で障がいと接していました。
1校目の支援学校では、特別支援教育や発達障がいについての学習会があり、それまでなんとなくであった障がい特性や視覚支援や構造化などの支援の手立てなど多くのことを学ばせていただきました。
そして2校目の盲学校でアスペルガータイプの子の担任をすることになりました…が、その子は全盲、生まれたときから全く目が見えない子でした。
その前の支援学校で、自閉スペクトラム症(ASD)の子たちには視覚支援で見通しがもてるようになる構造化が有効と聞いていたのに…目が見えないのではどうしたらいいのか…と途方に暮れました。
構造化とは〜TEACCHプログラムより〜
構造化とは、予測不能な状態が苦手である特性を持つ自閉症(ASD)児に対して、整理され、構造化された環境をつくる支援の手立てのことで、アメリカのノースカロライナ州で1972年以来行われているASD(自閉症スペクトラム障害)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラム、TEACCHプログラムによるものです。
「TEACCH」は「Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren」(自閉症及び、それに準ずるコミュニケーション課題を抱える子ども向けのケアと教育)の略で、「自治体規模の介入」、「ゆりかごから墓場まで」、「自閉症児の文化」
、「親は共同療育者」、「構造化された教育」といった特徴があります。
視覚的構造化では、①物理的、②時間、③活動、④言語表現を構造化します。
(画像は地域生活支援機構より)
①物理的構造化は、家具、ついたて、カーペットなどを使い、各空間を物理的に区切ることで、各空間や場面で何をすればよいかを視覚的にわかりやすくすることです。
(画像は環境づくりのリゾームサイトより)
どこになにを置くのかなどを視覚的にわかりやすく提示もします。
(画像は環境づくりのリゾームサイトより)
②時間の構造化は、その日のスケジュールなどの可視化もいえます。本人が落ち着いて、主体的に活動できるよう、取組みの内容や順番を視覚的に示す、 「始め」と「終わり」を明確に示すなど、活動予定について見通しを持てるよう支援します。
(画像はこころの健康相談局すまいるナビゲーターより)
(画像はOnly One足立より)
③活動の構造化は、時間の構造化の一部と考えることもできます。時間の構造化が1日の活動全体の流れであるのに対し、活動の構造化は、1日の各活動一つひとつを要素に分解し、何をするのか、どうするのか、どうなると終わりになるのかといったことをより具体的に示すことです。
(画像はスタジオそらより)
(画像はBOUZAN NOTE!!より)
④言語環境の構造化は、言語による指示に統一感を持たせることです。わかりやすくシンプルな表現で、具体的に伝える(代名詞や抽象的な表現、あいまいな伝え方をしない)、否定的な言葉を避け、肯定的な表現(「廊下を走らない」→「廊下は歩く」)に言い換えるなどです。
具体的に伝える
盲学校に転勤して最初のアイマスク体験の研修で、見えない状態で「あっちを指差してください」と言われ、各々が自分の思う『あっち』を指差した後にアイマスクを外し、みんながバラバラの方向を指差しているのを確認するという体験をしました。
(画像は記者作成より)
これは盲学校では定番の体験で、「ここ、そこ、あそこ」などの指示語は伝わらないので、具体的な場所を伝えたり、手を叩いて音源を示したりする必要があるのだと確認するものです。
この体験のお陰で、具体的に伝えるという感覚がなんとなくわかり、子どもたちがわかる伝え方、例えば「体育館の入り口の方」と誰がが説明すると他の教員が体育館の入り口へ行って手を叩くことや「(教室の壁に番号をつけて)3番の壁に向かって右側の掃除用具入れからちりとりを取ってください」「廊下の方へ身体を向けてください」などのように具体的に説明することが少しずつできるようになっていったと思います。左右や奥手前などの表現にも慣れてきました(対面していると慣れるまで咄嗟に出ないものなのです)。
また僕自身がフロアバレーボールやグランドソフトボールの全盲プレイヤーを体験し、指示が分からなくて混乱したり、逆にその全盲プレイヤーの立場からわかりやすい伝え方を考えたことも影響していると思います。
実物を用意して触って確認することの大切さも学びました。
言葉かけでの構造化
もう一つ学んだのは言葉かけでも構造化できるということです。
例えばこんな感じです。
見えている子たちなら、黒板やホワイトボード、電子黒板などに作業の手順を掲示すればよいのでしょう。
(画像はエデュペディアより)
盲学校の見えない・見えにくい子たちにそれは難しく、たとえ点字や拡大文字のプリントを配っても作業中にささっと確認するのは難しい場面が多いのです。
そのため、いくつか工夫して子どもたちに伝えていました。
1つ目は、最初に今日はなにをするのか、全体でいくつの工程があるのかを示す(全体の見通しを伝える)ことです。後から後から工程の説明が追加されると混乱してしまうかもしれません。
(画像はウワノキカクより)
「今日の作業は3つあります」のように最初に全体像を伝えることで見通しが立ち、後からの流れの説明もイメージしやすくなるのです。
2つ目は、「1つ目は●●、2つ目は▲▲…」のように個別の取り組みを説明するときに、全体像と関連させて伝えることです。何番目の作業の話か子どもたちが理解していないとこちらの説明は右から左に流れていきます笑。
3つ目は子どもたちがわかるようなるべく具体的かつシンプルに伝えることです。
先ほどもお伝えしたように見えない・見えにくい子たちに対しては言葉でイメージしやすいように具体的に伝える必要があります。一方で、言葉だけで長々と話されると聞いている方も疲れますよね。なのでなるべく短く簡潔にシンプルにです。両立するのはなかなか難しく、言ってる僕自身ができていないことも多いですが笑
初めての内容などは丁寧に説明しますが、内容を子どもたちが理解しているときは確認したい部分以外はさくっと省略することも多いです。この辺りは子どもたちの様子、わかっていそうかどうかを見ながら判断します。
4つ目は最後に流れをもう一度確認することです。これは子どもたちの様子をみて省略することもあります。流れの確認なので、ここで細かく確認しすぎないことがポイントです。
言葉での説明で構造化するために僕がやっていた工夫は以上の4つです。よければ活用してみてください。
まとめ
振り返れば教員生活1年目のときは、視覚支援に囚われて、言葉での説明を軽視していた自分がいました。
盲学校でその伝え方を工夫していくうちに、周りの先生方から「説明がわかりやすいので参考にしてます」なんて言われることが増えました。
今はまた知的の支援学校で働いていますが、視覚支援の影に隠れて軽視されがちだけれども、言葉での伝え方の影響ってやっぱり大きいよなぁと再確認する日々を送っています。盲学校で学んだことが今も活きています。
(同時に視覚支援においてもシンプルなわかりやすさや文字と背景のコントラストなどの見やすさも大事だよなぁと盲学校的な視点で見ている自分もいます)
今回はそんな盲学校で学んだ言葉かけの工夫を紹介しました。見える見えないに関わらず、使えますよ。よければ活用ください。
参考にしたサイト
①LITALICO発達ナビ「TEACCHとは?ASD(自閉症スペクトラム障害)の人々を生涯支援するプログラムの概要を紹介」
②全国地域生活支援機構「自閉症教育における「構造化」というキーワードとTEACCHプログラム」
表紙の画像はPriPri Onlineから引用しました。