臆病なトラ

あるところに、臆病なトラがいました。

そのトラは、とても怖がりで、何をするにも、体が震えてしまいます。

ご飯を食べようと思っても、これを食べるぼくは、これの命を頂くほどの働きが出来るのだろうかと考えると、思うようにスプーンが握れません。

友達と遊ぼうと思っても、友達に話しかけようとすると、友達がぼくと遊んでも楽しいのかなと考えて足が震えてしまいます。

寝ようと思っても、起きれなくて誰かに迷惑をかけないかと思うと、体を震わせてしまいます。

そんなトラは、いつしか思い詰めて、死んでしまおうとします。

すると、勇気のあるトラがやってきて、こう言いました。

「死んでしまうことなんて無い。無理に強がって、周りと同じことをする必要は無いんだよ。君は君でいい。君だからいいんだ」

そう言われた臆病なトラは泣きだします。

臆病なトラは泣きながら言います。

「ぼくはダメなトラなんだ。いまのままのぼくでは、いつまでも大人になれないし、生きる希望を持てない」

それを聞いた勇気のあるトラは

「言ってるじゃないか。無理に大人になる必要は無い。君は君でいいんだ。生きる希望は、生きてないと生まれない。死ぬことだけが、辛い今から逃れる方法じゃないんだよ」

臆病なトラは考えます。

本当に、いまのままでいいんだろうか。
この辛い現実を、これからも生きている理由や意味があるんだろうか。

悩む臆病なトラを見て、勇気のあるトラは続けます。

「いいかい。理想を高く持つことはとてもいい事だ。だけどね、その理想が君を苦しめるのであれば、それは悪いことになる。今の自分を理解して認めてあげることが、今の君に必要なことなのさ」

臆病なトラは言います。

「そんなことをしてなんになるの? こんな落ちこぼれのぼくが、落ちこぼれてる事を認めてあげたって、将来、何の役にもたたないじゃないか」

それを聞いた勇気のあるトラは笑いました。

「役にたつじゃないか。他の誰でもない。君のためになっている。誰かのために生きることも大切だけど、まずは自分のために生きることがなによりも大事な事なんだよ」

臆病なトラは泣きやみます。

いままでの自分を思い返して見ると、誰かのためにとばかり考えていた事に気がつきました。

「そうか。まずは自分のためになる事をやればいいんだね。ぼくやってみる!」

臆病なトラは立ち上がります。

「そうだ、その意気だ! ぼくは応援しているよ」

勇気のあるトラに背中を押された臆病なトラの顔は、いつしか勇気のあるトラに負けないくらいの顔つきになっていました。

臆病なトラは、勇気のあるトラの言葉を信じて自分を大切にし、今でも元気に過ごしています。

そんな臆病なトラは、時々思います。

あの時捨てなかった命で、今の幸せがある。

あの時見えなかった幸せな未来が、今ここにある。

いろんなことを考えて思い詰めてしまった時はまず、自分を大切にしなきゃいけない。

その事を教えてくれた勇気のあるトラは、今はもう居ない。だけど、あのトラのように、今のぼくが誰かにこの事を教えてあげる。

それがぼくの意味なんだって気づけた、あの臆病なトラは、今では立派な、勇気のあるトラになりましたとさ。

めでたしめでたし。

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