暮れの日の出来事
今日は12/31日。
この年の瀬にぼくは、実家に帰るために電車に乗っていた。
夜勤明けで疲れきっているが、電車で寝ると乗り過ごすため、ゲームをしていることにした。
とりあえず携帯を取り出し、画面をフリックする。ひとしきり眺め、開いたのは、某有名パズルゲームだ。
ころころころころ……。
よっぽど暇だったのであろう。一心不乱に夢中でパズルをしていた。
次は〜大宮〜大宮〜
車内アナウンスが流れる。
うーん、まだ大宮か。
電車に乗るのは嫌いじゃない。が、こうも長い時間乗るとなると、うんざりしてくる。
座りっぱなしのため、おケツも痛い。
「はぁ〜」
大きなため息が漏れた。
「ふふふっ」
隣に座っていた女性が、それを見て笑う。
おれは軽く会釈をして愛想笑いをした。
「どちらまで行かれるのですか?」
「おれは群馬まで」
「あら、長旅ですね。帰省ですか?」
「はぁ、まぁそんなところですね」
女性も暇だったのであろう。すごく気さくに話をしてくれた。
まもなく大宮〜大宮〜
「あ、私次の駅だ」
「羨ましいなぁ。もう電車、降りられるんですね」
「えへへ。私も結構座っていたので早く運動したいです」
そう言って彼女は微笑んだ。
「あはは。元気ですね」
「もちろんです!」
「おれはまだまだ先だ、思いやられちゃいますよ」
おれがそう言うと、彼女は少し考えて言った。
「じゃあ、一緒に降りちゃいますか!」
「!?」
驚きすぎて声が出なかった。
おれが口をあんぐり開けていると
「ふふふっ。冗談です」
「で、ですよね、ははは」
動揺を隠せないまま、笑って誤魔化してしまった。
プシュー。
気まずい空気のまま、電車は駅へと到着する。
大宮〜大宮〜お出口は左側です。
車内アナウンスが流れた。
「じゃあ私はこれで。」
女性が立ち上がり言った。
おれも会釈しようとしたが、体が拒んだ。
もう少しこの女性と話をしていたい。おれの頭にはもう実家のことなんてなかった。
「あの!!」
考える暇もなく体が勝手に立ち上がる。
女性が振り返る。
「はい?」
「やっぱり、降りてもいいですか。」
柄にもなく真面目な顔で言ってしまった。
きっと真っ赤だったであろうおれの顔を見つめ
「もちろんです!!」
と、彼女はニコッと笑って言った。
急いで荷物をまとめて電車を降りる。
おれと彼女は、大晦日の、まだ夕日も落ちきらない大宮の街に溶けていった。
〜完〜