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尊厳を回復したとき、他者を思いやれる/映画『プリズン・サークル』

過去に受けた傷つきに気づけないでいる、悲しめないままでいる。
そうであるうちは、他人のことまで考えが及ばないんだなあ。
自分が自分自身を尊重できない人が、他人のことを思いやることは難しいんだよね。

だから、人としての尊厳を回復した時になって、ようやっと他者を思いやる私が生まれるっていうか。
その私にはいつからでも出会えると僕は信じる。

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仙台のチネ・ラヴィータにて坂上香監督作品『プリズン・サークル』観てきました。

官民協働の新しい刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している。
TCで彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験したいじめ、虐待、差別などの記憶。悲しさ、さびしさ、怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく。

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率直に言って、対話をベースに回復を目指していくTCは塀の中の彼ら以上に、塀の外にいる僕らにこそ必要なんじゃないかなと思った。

罪を犯してから刑務所の中で、対話することで自分自身の気持ちや感情に気づき取り戻していく。それが塀の中だということが、見ていて胸が苦しくなる、複雑な想いに駆られる。
罪を犯す前に社会の中でそういう場に出会えていたら…と思わずにはいられなくなった。

作品の中に登場した受刑者、拓也、真人、翔、健太郎。彼らの幼少期は子どもが子どものままでいられない環境だったように感じた。加害者の全てが被害者だったわけではないのだろうけれど、彼らの親、家族、まわりの大人にこそTCのような場が必要だよなって。

僕自身も気持ちや感情、とりわけポジティブなものでないほど表現することにフタをしてきた。30代を過ぎてそれがどれだけ心と体を苦しめるかなんて思ってもみなかったな。
話せる場、否定・管理されない場、表現できる場にもっとはやく出会えていたらなとよく思う。

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公式ホームページに掲載されている鑑賞した方からのコメントがとても心に響くものがあったので、紹介したい。

人の苦しみがすべて他者との関わりから生まれるのなら、それを癒すのもまた他者との関わりでしかあり得ない。
他者と関わる手段は「会話」であること、暴力へのカウンターは「言葉」であることに改めて思いを巡らせました。
全刑務所でTCが導入されればと思います。
―ブレイディみかこ ライター
私には犯罪歴も壮絶な過去もないのに、自分の姿を見ているようで、動揺し胸を揺さぶられた。私たちはもう限界なのだ、自分のつらさを言葉にして受け止めてもらえる場がないまま、生きるのは。
―星野智幸 小説家
円(サークル)を作って、語り合う。それだけのことができない今の日本社会。その縮図ともいえる刑務所(プリズン)での、貴重な治療的試みが記録された。
受刑者たちの過酷な子ども時代の傷を、砂絵が優しさと切なさで包み込んでくれる。 加害者がみな被害者だったわけではない。だが、人として尊重される経験こそが、結局、人を尊重することにつながるのではないか。そう強く感じた。
―宮地尚子 精神科医/大学教員
加害性だけを自覚し、強い意志で新しい生き方を目指そうとすることは、必ずしも罪を償うことにつながらない。むしろ、蓋をしてきた痛む過去を受け入れ、受け入れられることで、はじめて加害の意味に気づく。傷ついていた、という認識は、傷つけていた、という認識に先行するのだ。
償うことは、過去を清算することではなく、過去とともに生き続けることだということを、この映画は教えてくれる。
―熊谷晋一郎 東京大学先端科学技術研究センター准教授/医師

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思ったのは『プリズン・サークル』を観た人もまだ観てない人もともに語り合える場、対話のサークルをつくれる場をやってみたらいいのではと。

感染症でイベントが相次いで中止されている今だから迷っているけれど、、、


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