見出し画像

二次創作の著作権と財産権:知財高裁判例とAI学習データ利用の法的枠組み

二次創作は著作権侵害だから二次創作者が無断転載者訴えるのは権利濫用である、という主張について否定された裁判例がもう既にありまして(知財高裁令和2年10月6日)。この判決出たころは結構話題になってたし自分も解説した覚えがありますが、未だに二次創作の人が無断転載に対して何か言うとお前も二次創作だろ、とか言う人がいるんですね…

弁護士 河野冬樹

こんにちは、榊正宗です。

👇宣伝。全編生成AIによるミュージックビデオの監督しました!

このツイートで、河野弁護士が述べている「二次創作は著作権侵害だから二次創作者が無断転載者を訴えるのは権利濫用である、という主張が裁判例で否定されている」という話について、その背景と私の考えを整理しつつお話しします。

まず、河野弁護士のツイートは事実に基づいています。2020年10月6日に知的財産高等裁判所で下された判決(令和2年(ネ)第10018号)は、二次創作物の著作者が自身の作品を無断転載された場合に、その新たな創作部分について著作権が認められるというものでした。この判例は、二次創作の法律的な位置づけを改めて示す重要なものとして知られています。

私自身、東北ずん子公式を運営していた際に、こうした問題には敏感に対応してきました。二次創作であっても、創作された部分には著作権が発生します。ただし、ここで重要なのは、主に著作者人格権の側面が関わるという点です。財産権については、二次創作が原著作物を基にしている以上、原著作物の著作権者が許諾を与えない限り認められることはありません。そのため、特殊なガイドラインが設けられていない場合、二次創作が財産権を主張するのは非常に限定的な状況に限られるのです。

この判決で認められたのは、二次創作物の新たな創作部分に対する著作者人格権です。著作者人格権とは、創作者の名誉や人格に関わる権利であり、例えば無断で作品が改変されない権利や、名前を表示する権利などが含まれます。一方、財産権は、著作物を経済的に利用する権利であり、原著作物の許諾がなければ二次創作物においてこれを行使することはできません。財産権に関する議論は、この判決の中で特に直接的に扱われたわけではありませんが、これは二次創作物が原著作物に依拠しているため、財産権の行使が原著作物の著作権者に制約されるという基本的な原則に基づいています。

商用利用が許可された二次創作やファンアートが無断転載された場合、この問題はさらに複雑になります。商用利用が認められた場合でも、二次創作物の財産権を主張するには、原著作物の著作権者からの明確な許諾が必要です。たとえば、特定のガイドラインが設けられている場合には、その範囲内で財産権が認められることもありますが、それでも原著作物の権利者との合意が前提です。このため、商用利用が許可されたとしても、二次創作物が完全に独立した財産権を持つことは稀であり、原著作物との関係性が切り離せない状況にあります。

AIの学習や生成物をめぐる議論においても、この著作権の整理が欠かせません。一部の議論では、AIが公開されたデータを学習に使用することを「無断学習」と呼び、それを問題視する声が上がることがあります。しかし、ここで重要なのは、AIの学習プロセスが財産権や人格権をどのように扱うかという点です。

AIの学習プロセスは、いわゆる「公共トレーニング」として捉えることができます。公共トレーニングとは、広く一般に公開されているデータを用いてAIが統計的な学習を行うプロセスを指します。この過程では、データそのものを複製したり公開したりするのではなく、データから抽出した特定のパターンや特徴を内部的に利用するため、著作権法上の「利用」に該当しない場合がほとんどです。このため、AIの学習が直接的に著作権を侵害することは少ないとされています。

しかし、「無断学習」という表現が使われる場合、それがあたかも違法行為であるかのような誤解を招きます。公共トレーニングの視点を広めることで、AI学習が文化や技術の発展に寄与する活動であることを正しく理解する必要があります。AIが既存のデータを学習して生成した創作物は、元データを忠実に再現するのではなく、統計的に導き出された新たな創作物です。この点を明確にすることで、AIによる創作物が著作権法上の問題にならないことを多くの人に理解してもらうことができます。

一方で、手描きの二次創作において商用利用を含む財産権の侵害が行われる場合もあります。このような事例は、AIと比較した際に議論の焦点がぶれる原因となります。AIの学習や生成が財産権を侵害していない事実を冷静に分析することで、こうした誤解を解消し、適切な著作権の議論を進めることが重要だと考えます。

最終的には、著作権を正しく理解し、財産権と人格権を分けて判断する視点が求められます。河野弁護士の指摘は、二次創作やAIに関わる全てのクリエイターにとって有益であり、このテーマは今後も注目すべき重要な問題だと思います。


いいなと思ったら応援しよう!