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著作権法とFairly Trainedの矛盾

こんにちは、榊正宗です。

AI技術が社会に大きな影響を与えるようになり、その利用方法や倫理が問われる時代に突入しました。その中で、NPO「Fairly Trained」が注目されています。この団体は、AIが学習するデータの倫理性や透明性を確保するための認定制度を提供しています。

AI VTuber「絵藍ミツア」が、非営利団体「Fairly Trained」から認定を受けたとのことです。「東北ずん子」公式が関与していることもあり、否定的な意見を述べるのは避けたいのですが、ミツアの技術的な取り組み自体には大いに感銘を受けつつも、この「Fairly Trained」という団体を全面的に支持することは、私には慎重にならざるを得ないと感じています。

🟩Fairly Trainedの問題点

Fairly Trainedは、「AIモデルがどのようなデータを使用して学習しているのかを明確にし、著作権者やクリエイターの権利を守ること」を目的としています。一見すると、非常に理想的で社会的に意義のある取り組みのように思えます。ですが、この認定制度の詳細を見ていくと、いくつかの課題が浮かび上がります。これが、技術革新やAI開発にどのような影響を及ぼすのか、慎重に考えなくてはなりません。


NPO「Fairly Trained」とその認定制度とは?

Fairly Trainedは、「Licensed Model Certification」という認定制度を通じて、AIモデルが使用するデータが適法かつ倫理的であることを保証する仕組みを提供しています。この認定制度では、AIモデルが以下の基準を満たす必要があります。

  1. 使用するデータは著作権者から明確な許諾を得ていること。

  2. オープンライセンス(Creative Commonsなど)やパブリックドメインのデータであること。

  3. モデル開発者がデータを完全に所有していること。

認定を受けたAIモデルには、Fairly Trainedの認定ラベルが付与され、市場で「倫理的AI」として差別化を図ることが可能になります。このラベルは、倫理的なデータ利用を重視する企業やクリエイターにとって、一定の信頼を保証するものとして機能することを目指しています。

認定を受けるためには、売上規模に応じた認定料が必要です。最低でも年間500ドル(約7万円)から始まり、収益が多い企業では数千ドルにもなります。この仕組みは、特に資金力のある大企業にとっては問題ないでしょう。しかし、中小規模の開発者やスタートアップにとっては、負担が大きくなることが予想されます。


認定制度の意義とその限界

Fairly Trainedの認定制度が掲げる目的には一定の意義があります。著作権者やクリエイターが無断でデータを使用されるリスクを減らし、データ利用の透明性を高めることは、AIの社会的信頼性を向上させる一助となるでしょう。

しかし、この認定制度には大きな限界があります。その一つが、柔軟なデータ利用を認めている法的枠組みとの整合性が取れていない点です。

例えば、日本の著作権法第47条の7では、「情報解析のための利用」が特例として認められており、著作権者の許可を得なくても著作物を学習データとして利用できることが明記されています。この特例はAI開発者にとって非常に有用であり、技術革新を支える重要な枠組みです。

また、アメリカのフェアユースは、非営利目的や教育・研究目的であれば、著作物の無断利用が認められる場合があります。これらの法的枠組みは、AI技術の進化と社会的利益のバランスを取るために設けられたものですが、Fairly Trainedの認定基準では考慮されていません。

その結果、法的には問題のないデータ利用であっても、認定を受けられないという状況が生まれかねません。この矛盾が開発者にとってどのような影響を及ぼすか、深く考える必要があります。


認定制度の強制化がもたらすリスク

さらに懸念されるのは、認定制度が「事実上の義務」として扱われる未来です。認定を受けていないAIモデルが「非倫理的」とみなされる風潮が広まれば、開発者たちはこの認定に従わざるを得なくなるでしょう。この流れは、特に個人開発者や資金力の乏しいスタートアップにとって、大きな負担となります。

AI開発は試行錯誤の連続です。過剰な認定基準が課されることで、自由な発想やイノベーションが制限される危険性があります。AI市場が一部の大企業によって独占され、多様性が失われる未来は、決して望ましいものではありません。


出力規制は支持、学習データの認定強制は反対

AIが生成するコンテンツの出力に対する規制には賛同します。生成物がクリエイターの権利を侵害しないようにする技術的制御は、AIの信頼性を高めるうえで不可欠です。しかし、学習データの利用そのものを制限し、認定という形で一部団体がその運用を管理することには、強い懸念を抱きます。

フェアユースや日本の情報解析の特例規定は、AI開発の柔軟性を支える重要な法的枠組みです。これらを無視する形で認定制度を強制することは、技術革新を硬直化させるだけでなく、クリエイター自身にも恩恵が還元されない結果を招くでしょう。


開かれた議論と柔軟な仕組みを目指して

Fairly Trainedが掲げる理念は理解できます。しかし、その認定制度が一律の基準を押し付け、技術革新を妨げる構造を生むのであれば、それは新しい問題の火種になるでしょう。

私たちが目指すべきは、出力規制を通じてクリエイターの権利を守りつつ、学習データの利用においては柔軟性を確保するバランスの取れた仕組みです。技術の未来を守るためには、特定の団体がルールを独占するのではなく、透明性と多様な視点を取り入れた共創の場を築くことが必要です。


🟩デルタもんの取り組み

「デルタもん」は、AI技術の発展とクリエイターの権利保護を両立させることを目指して生まれたキャラクターです。その特徴として、AI関連の利用においては商用・非商用を問わず自由に使用できるライセンスを採用しています。具体的には、AIを用いた二次創作や学習データとしての利用を許可し、クリエイターが自身の作品をAI技術に活用できる環境を提供しています。これは、現行の著作権法の枠内で機能する柔軟な仕組みを意図しており、クリエイターとAI技術の共生を促進するものです。

Fairly Trainedの認定制度

一方、NPO「Fairly Trained」は、AIモデルが学習に使用するデータについて、著作権者からの明確な許諾を得ることを重視しています。彼らの認定制度では、AIモデルが使用するすべてのデータに対して、著作権者の許可やオープンライセンスであることを求めています。このアプローチは、クリエイターの権利を保護する観点から意義がありますが、同時にAI開発者に対して厳格な制約を課す可能性があります。特に、中小規模の開発者や新興企業にとっては、認定取得のためのコストや手続きが負担となり、市場参入の障壁となり得ます。

取り組みの違い

「デルタもん」の取り組みは、現行法の枠内でクリエイターとAI技術の共生を図る柔軟なアプローチを採用しています。具体的には、AI関連の利用において商用・非商用を問わず自由に使用できるライセンスを提供し、クリエイターが自身の作品をAI技術に活用できる環境を整備しています。これにより、AI技術の発展とクリエイターの権利保護の両立を目指しています。

一方、Fairly Trainedの認定制度は、AIモデルが使用するデータに対して厳格な許諾取得を求めることで、クリエイターの権利保護を強化することを目的としています。しかし、この厳格なアプローチは、AI開発者に対して高いハードルを課すことになり、技術革新のスピードを鈍化させるリスクも孕んでいます。

「デルタもん」の取り組みは、現行法の中で機能する柔軟な仕組みを提供し、クリエイターとAI技術の共生を促進することを目指しています。一方、Fairly Trainedの認定制度は、クリエイターの権利保護を強化する一方で、AI開発者に対して厳格な制約を課す可能性があります。このように、両者のアプローチには明確な違いがあり、それぞれの利点と課題を理解した上で、AI技術とクリエイターの共生を考えていくことが重要です。

AI技術の進化に伴い、その利用や倫理に関する議論が活発化しています。特に、NPO「Fairly Trained」の取り組みと、反AIキャンセルカルチャーとの関連性について懸念の声が上がっています。現時点で、両者が直接結びついているという明確な証拠はありませんが、連動してしまう危険性は否定できません。この点について、深く考察してみたいと思います。


🟩ゼロリスクビジネスとその危険性

まず、「ゼロリスクビジネス」という概念について考えてみましょう。これは、リスクを極力排除し、安全性や倫理性を強調することで市場の信頼を得ようとするビジネスモデルを指します。一見すると理想的に思えますが、過度にリスクを避けることで、革新や挑戦が阻害される危険性があります。社会は常に変化しており、リスクを完全に排除することは現実的ではありません。むしろ、適切なリスク管理と柔軟な対応が求められるのです。

Fairly Trainedと反AIキャンセルカルチャーの連動の危険性

NPO「Fairly Trained」は、AIの学習データに関する倫理的な基準を設け、適切な認定を行うことで、AI技術の健全な発展を目指しています。しかし、その厳格な基準や認定制度が、反AIキャンセルカルチャーと連動し、AI技術の発展を阻害する可能性があります。反AIキャンセルカルチャーとは、AI技術に対する過度な批判や排斥の動きを指し、技術革新を妨げる要因となり得ます。このような動きとFairly Trainedの取り組みが結びつくことで、AI開発者やクリエイターに対する過度な制約や圧力が生じる危険性があります。

注意喚起の重要性

このような状況を避けるためには、以下の点に注意することが重要です。

  1. 多様な視点の尊重: AI技術に関する議論では、多様な意見や視点を尊重し、偏った情報や過度な批判に流されないよう心掛けることが必要です。

  2. 適切なリスク管理: ゼロリスクを追求するのではなく、適切なリスク管理と柔軟な対応を重視し、技術革新と倫理のバランスを取ることが求められます。

  3. 透明性の確保: Fairly Trainedのような団体は、その基準や認定プロセスの透明性を確保し、過度な制約や偏りが生じないよう努めることが重要です。

  4. 建設的な対話の促進: 反AIキャンセルカルチャーのような排斥的な動きに対しては、建設的な対話を促進し、技術の健全な発展を支える環境を整えることが必要です。

これらの点を踏まえ、AI技術の発展と倫理的な利用の両立を目指すことが求められます。私たち一人ひとりが冷静な判断と行動を心掛け、技術と社会の健全な関係を築いていくことが重要です。


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