家族との時間 -ニューヨークから帰国して10年、思うこと-
パタン。怒涛のような引っ越し作業を終えてJFK空港に向かう朝。13年近く暮らしたマンハッタンを後にする日。アパートのドアを閉じる瞬間を今でもはっきり覚えています。
リムジンサービスで空港まで向かう車の中から長年暮らしてきた街の景色を眺めていると、言葉にならない様々な感情と思い出が交錯しました。一生結婚なんてしないかもしれないと思いながら夢を謳歌した日々。自由気ままな生活を送り、ずっとニューヨークで過ごすんだろうなと。それが今、自分で選んでこの街を去っていくんです。正直現実味がなくて。
人生は不思議ですね。「運命は自分で切り開く」ものだけれど、それと同時に何か意味があるものの方にグイグイっと引っ張られて行く感じもあります。そのバランスを保ちながら進んできた結果、今の自分があります。気づいたらニューヨークから帰国してもうすぐ10年です。
もちろん、ニューヨーク時代を懐かしく思い出すことはあります。貧乏学生としてスタートした大学院、パワー全開のおばちゃんルームメイト(ブログMeg for Life「『Oh My Roomie: ニューヨーク・グラマシーの事件簿 』(Kindle版) 本日発売!」)。念願の音楽業界への就職とエンドレスな音楽イベント。たくさんの素敵な友人たちとのハングアウト。タイムズ・スクエアでのサプライズ・プロポーズ……。
今では夫となった彼と一緒に住み始めた頃。ニューヨークでの物件探しはとても大変で、不動産のエージェントに
「そんな物件ありません」
と言われながらも無理難題を押し通して見つけてもらったFiDi(Financial Districtの略)のアパート。最高の便と住み心地の良さがとても気に入っていました。
そして数年後。結婚し子供も生まれ、もう少し広いアパートに引っ越そうかと考えていた矢先のこと、住んでいたアパートビルが取り壊されることになり全世帯に立ち退き通知が届きました。殆どが引っ越していき静まりかえったアパートからついに私たちも出ることに。この立ち退きの一件が私とニューヨークでできた小さな家族の道を大きく変えることになりました。息子も1歳になるし、ハドソン川かイーストリバーを超えてマンハッタンから郊外のもう少し大きなアパートに引っ越すか、それとも……?
「海超え」の選択。
夫の提案は「川越え」ではなく
「海を超えて日本に引っ越しちゃえ!」
というものでした。日本語も話せないのになんという度胸!私が年をとってきた日本の両親のことを日頃から気にしていたのをわかってくれていたし、息子が育つ環境を考えても日本移住が一番いいと思ったようです。私にも、それが当たり前で一番自然な選択に思えました。多少勇気がいる決断ではありましたが。
当時の私はニューヨークのキャリア・ウーマンでした。三ヶ月の産休の後一年間は職場に戻って働きましたが、深呼吸するのも忘れるほど目まぐるしい日々にふと思いました。これは私が本当に望んでいる生活なのかと。一度きりしかない、こんなに可愛い時期の我が子をお金を払って人に預け、働いて得た給料の大半はベビーシッター代と高騰し続ける家賃の支払いで消えていきます。この生活をずっと続けたいか?答えはノーでした。
だから、引っ越しました。今いかなければ後悔すると思ったから。
私は子供が祖父母の近くで育つことに賛成です。祖父母は親とは違う愛情を注いでくれるから。そういう家族生活の中で価値観とか道徳を学びながら子供は育っていきます。大人たちにとっても、一度きりしかない子供の幼少期や成長をそばで楽しむのはこの上ない幸せです。
「もっと一緒にいたかった」って後悔しても時間は戻ってこないんです。正直、何が親孝行なのか、「海外で逞しくバリバリ働く娘」を誇らしく思ってもらうことなのか、わからなくてそこで気持ちが揺れなかったといえば嘘になります。でも最終的には「時間は限られているんだから愛する人や家族となるべく多くの時を一緒に過ごしたい」が私の中では勝ちました。
運命と旦那さんが
「行こうよ」
ポンと背中を押してくれたおかげで日本移住計画は実行され、私は家族との何よりも贅沢な時を過ごしてきました。海越えの選択は本当に価値あるものでした。
「じーじと行ったあのレストラン、懐かしいね。I miss じーじ。」
3年前に他界した父のことをふと思い出す息子ももうすぐ11歳です。そのうち、頼んでも一緒に出かけてくれなくなるのかな。下手したら「ババァ」呼ばわりされちゃうかもしれない。今一緒に過ごすこの瞬間を楽しんでもバチは当たらないでしょう。ちなみに、「うざい」なんて言うようになってみなさいよ、嬉しそうに母に抱きついている写真をSNS投稿してやるんだから!
心の栄養になった!インスパイアされた!など、評価・サポート頂ければ明日の執筆中のコーヒー代にさせて頂き、精進致します!Thank you very much!