「応援」がもたらす力

大阪桐蔭が劣勢になると、甲子園のスタンドからは歓声と拍手が沸き上がる。この試合の9回も、下関国際の応援に合わせて球場に響き渡る手拍子が起きた。
(2022.8.19付number 記事『号泣の大阪桐蔭「それができなかったのが弱さ」「手拍子に呑まれそうに」トリプルプレー、下関国際の研究…“甲子園の魔物”に王者は襲われた』より引用)

私自身、応援の凄まじさをこれほどまでに痛感した出来事はなかった。

大阪桐蔭高校の星子主将も
「プレッシャーに負けないだけの練習はしてきましたが、お客さんの手拍子に呑まれそうになり、マウンドに立っていた2年生の前田(悠伍)に声をかけられなかったのが申し訳なかったです。力がないチームと思いながら全員でやっていく中で、追われる立場になって成長しきれなかったと感じます。秋と春に満足はしなかったが、どこかに隙があったのかもしれません」(引用:前出記事)
と語っている。18歳の高校生たちをも呑み込んでしまう応援の凄まじさとはいかばかりだろうか。想像するのが難しい。

私自身、野球観戦が好きでプロ•アマ問わず見ることが多い。
今年は3年ぶりに社会人野球の全国大会「第93回都市対抗野球大会」が夏に東京ドームで開催されるということで、友人を誘い2試合を現地にて観戦した。

個人的に、忘れられない出来事がある。
7/19(月)に行われた、日本製鉄鹿島(茨城•鹿嶋市代表)対三菱重工West(兵庫•神戸市、高砂市代表)の時のことである。

2-3と、三菱重工Westが勝ち越しで9回裏の攻撃を迎えた。
「この回何としても点を取って、絶対に勝ちましょう!」と応援団の方がマイクで訴えた。すると、三塁側内野スタンドや三階席に陣取る日本製鉄鹿島ファンが立ち上がって応援を始めたのだ。私はどこか諦めの気持ちを抱いていたのだが「負けたくない」という心の奥底から湧き上がる気持ちが上回り、友人と一緒になって立って応援を始めた。

8回まで好投を続けた三菱重工West•竹田投手が降板し、金田投手に交代。
その回の先頭打者•長谷川選手こそ空振り三振に倒れたが、続く生田目選手の打球をピッチャーが弾いてしまい内野安打に。
(生田目選手の代走には、ルーキーの陶山選手が送られた)
内野安打になった瞬間、三塁側スタンドがドッと湧いた。入場時に配られたコバルトブルーのうちわが靡く様は、まるで大きな波となって選手達を後押ししているかのようだった。
続くはベテランの高畠選手。2ボールからしっかりレフト前へ運んで1死2•3塁とチャンスを広げた。この試合では先制タイムリーも打っているので、ここぞの場面できっちりと決めてくれる勝負強さのある選手だと感じた。
ベテランの一振りにスタンドも大喜び。また一段階応援のボルテージを上げ、火力がMAXと言ってもいいような応援になっていった。ブラスバンドの演奏のテンポも徐々に加速していく。
まだここで終わらないし、終わらせない。これが日本製鉄鹿島の強さだろう。
次の打者はコーチも兼任する堀越選手。
相手投手は、鹿島の応援の空気に呑み込まれてしまったのだろうか。ストライクが1つも入らず、結果的に四球となり1死満塁となった。
1死満塁とサヨナラ勝ちをするには最高の場面になり、ここで代打•柳内選手が登場。
スタンドも総立ちになり、いざ行かんと言わんばかりにうちわを叩いて応援を始めた。
2ボール1ストライクと迎えた4球目。打球は三塁側スタンドの声援に押されるようにグングンと伸びてライトオーバーのタイムリー。ランナー2人が還り劇的なサヨナラ勝ちとなった。

その瞬間、三塁側スタンドが歓喜に包まれた。
昨年は日本選手権と都市対抗野球大会の予選で敗退し、二大大会出場を逃している。
各大会の予選で厳しさを味わい、悔しい思いをしてきたからこそ、選手達が抱き合い揉みくちゃになって喜びあう様子は込み上げるものがあった。
自分たちの前に、鹿嶋市から訪れた家族連れが座っていた。どうやら、そのご家族のお母様が鹿嶋のファンなようだ。
「お母さんが行く試合って大体勝ててなかったから、勝てて良かったよ〜!もし勝ったら、次の試合も絶対見に行くって決めて休みも取ったんだから」と誇らしげに語る姿は、実に心地良いものだった。

科学が飛躍的に進歩した現代においても、言霊が存在している。言霊とは、古代日本において言葉に宿るとされていた不思議な力のことを指す。
わかりやすい例で言えば、神社でお祓いを受ける際に神主さんが読み上げて下さる「祝詞」は、言霊の力に基づくものとされている。

一方で、スポーツにおける応援の力とはどのような効果があるのか。興味深い記事を見つけたので、引用させて頂く。

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数年前、あるスポーツメディアが「応援されることによるパフォーマンスの変化」を検証したことがある。無観客の前半、有観客の後半で違いはあるのか-。ハンドボール強豪校の選手たちに観客が入ると教えず、走行距離や心拍数、ステップ数などを測る装置を着用させた▲結果は予想通り。大勢に注目された後半は各数値が上がり、運動量は約20%も向上していた。「モチベーションが上がって自然と体が動いた」。当時の選手のコメントもまた、如実に違いを表していた。
(長崎新聞 2022.6.19日付 『トピック 水や空』より引用)
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選手たちは、応援されることでパフォーマンス力が上がり、運動量も無観客の時より約20%上昇していたという。観客がいて応援してくれることがモチベーションとなり、自然と体が動くというから不思議だ。
この記事を読んで、まさしく先述した試合の内容に相応しいと思わざるを得なかった。
スタンド全員が一つになって応援することが、選手たちの力となり最高のパフォーマンスを遺憾無く発揮できるということだ。

そして何よりも大切なことは、最後まで決して諦めずにポジティブな気持ちを持ち続けることなのかもしれない。
私もこの試合を見ていて、三菱重工Westよりも日本製鉄鹿島の方が「勝ちたい」という気持ちに溢れていたように見て取れた。結果的に、色々な要因がプラスに働いたことでこのような結果へと繋がったのだと思う。

スポーツにおいて、選手とファンは一つのチームだと思っている。決して選手一人で戦っている訳ではない。応援してくれるファンがいるから頑張れるし、ファンの応援が励みになる。それは、プロやアマチュア問わず言えることではないだろうか。

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