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レトルトカレーを分解する

はじめに

レトルトカレー。この言葉を聞いただけで、封を切った瞬間の独特な香りや、温かいご飯の上にかけたときの黄金色を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?気軽なインスタントフードの定番になったレトルトカレーですが、その裏に隠された歴史や技術革新について分解してみようと思います。今回の担当はMEETINGのレトルトカレー研究員・木下です。
レトルトカレーを電子レンジにセットして出来上がるくらいにちょうど読み終えるくらいの量で書きますので、ぜひ、カレーをセットしてからお読みください。


レトルトカレーの現状

国内のレトルトカレー市場は年々拡大を続けています。最新の統計によると、日本国内で年間販売されるレトルトカレーの数は約3億袋。さらに国内で販売されているレトルトカレーは1,000種類以上にのぼると言われています(諸説あり)。生まれては消える熾烈な争い、まさに今はレトルトカレー戦国時代と言えるかもしれません。

研究員・木下のレトルトカレーコレクション

私、木下がレトルトカレーを研究を始めたのは、出張が多いのでその土地土地のレトルトカレーを収集しだしたのがきっかけでした。お土産ショップはもちろん、東京にいると出会えないその地域ならではの具材や製法を取り入れた「ご当地レトルトカレー」は魅力的です。カレー=嫌いな人いない(いたらごめんなさい)くらいの国民食ですので、地域活性のためのアイテムとして気軽に導入できるのでしょうね。

レトルトカレーの歴史

レトルト食品の歴史は、第二次世界大戦後の日本に遡ります。戦後復興の時代、多くの人々が栄養豊富で保存性の高い食品を求める中、アメリカで開発された「レトルトパウチ」の技術が日本に導入されました。これは食品を密閉した袋に詰め、加圧加熱殺菌を行う技術で、長期保存が可能になるという画期的なものでした。基本的にはこの製法は今でも変わりありません。
日本初、そして世界初のレトルトカレーは1968年に誕生します。そう、あの「ボンカレー」です。当時はまだ家庭用の電子レンジが普及しておらず、湯煎で温める方法が主流でしたが、その手軽さは画期的だったそうです(大塚食品のHPより)。

技術革新と多様化の時代

その後、食品メーカー各社が参入し、1980年代には、具材や辛さのバリエーションが増え、消費者の好みに合わせた商品展開が進みました。特に、地域ごとの特産品を使った「ご当地カレー」は、旅行ブームと相まって注目されることに。1990年代以降になると、レトルト食品全体の技術革新が進み、例えば、パウチの材質を改良し、電子レンジでそのまま加熱できるようにするなど利便性が飛躍的に向上。また、保存料や添加物を抑えた「無添加カレー」や、健康志向を取り入れた「カロリー控えめ」な商品が登場し、多様化が加速しました。

家のカレーと作り方がまったく違う

レトルトカレーと家庭のカレーは、一見同じ「カレー」というカテゴリーに属していますが、その作り方はまったく異なります。

【レトルトカレーの製造法】

  1. 材料の選定と調理
    家庭のカレーと同様に、野菜や肉を準備しますが、品質管理が非常に厳格です。すべての材料は工場で洗浄・殺菌され、規格に合ったものだけが使われます。

  2. スパイスと調味料の調合
    家庭のカレーではルーを使いますが、レトルトカレーではスパイスや調味料が粉末やペーストの形で調合されます。この工程でレトルトカレーの味をデザインするプロたちにより絶妙なバランスで配合され安定した味を実現します。

  3. 調理と高温高圧殺菌
    最大の違いはこの工程です。大きな鍋でカレーをつくってパウチに入れて熱殺菌して仕上げると思っている人もいらっしゃると思いますが、実はレトルトカレーは、具材、調味料を全部入れて熱を加え殺菌しながら同時に調理をしていきます。だから途中で味を足したりすることはできず、いわば密封した袋の中で調理が進みます。

  4. 検査と包装
    製品は厳しい品質検査を経て、箱詰めされます。漏れやパウチの破損がないか徹底的にチェックされ、市場に送り出されます。

メジャーレーベルとインディーズレーベル

私が出張でレトルトカレーを買う時に必ず見るのがパッケージの裏側。「製造元」です。
食品加工メーカーには「メジャーレーベル」と「インディースレーベル」があります(木下が名付けた呼び方)。音楽CDと同じで、全国に流通させることができるメジャーな会社なのか、地域の食を支える地場の会社なのかの違いです。メジャーレーベルはたとえば「ハウス食品」や「SB」のようなTVCMをバンバンできる会社で、地元にしか知られていない会社をインディーズと荒っぽく分けています。そしてさらに、レトルトカレー業界にはOEMを請け負う工場機能をもった全国区の「準メジャーレーベル」も存在します。「あれ、このカレーもここが作っているんだ」というのは、いくつかのご当地レトルトカレーを食べているとだんだんわかってきます。初めのうちは「インディーズ」なのか「準メジャー」なのか区別がつかないかもしれません。でも、10種類ほど食べたら傾向が見えてきます。

物語を伝えるツールとしてのカレー

ご当地レトルトカレーは、その土地の物語を伝える役割を担うことができます。神戸には阪神大震災の時の炊き出しのカレーをもとにしたカレーがあり、震災を乗り越えてきた地域の人々の思いが込められており、購入者がそのストーリーに触れることで、より深い価値を感じる仕掛けになっています。また、歴史や文化をテーマにしたレトルトカレーもあります。例えば、奈良県の「大和野菜カレー」では、大和時代から続く伝統的な農作物の魅力をアピールしています。このように、レトルトカレーは「食べるだけで学べる文化発信ツール」として機能しているのです。
弊社でもレトルトカレーを使ったブランディングをお手伝いさせていただいた事例がございますので、気になる方はこちらをご覧ください。


レトルトカレー多様性の時代

レトルトカレーまでも多様性の時代。
今、どんな方向でレトルトカレーがあるのか覗いてみましょう。

○誰ひとり取り残さないベクトル

  • 低糖質・低カロリーカレー:糖尿病患者やダイエット志向の人々向けに、糖質やカロリーを大幅に抑えた製品が登場しています。

  • ビーガン対応カレー:動物性の材料を一切使用せず、植物由来の食材のみで作られたビーガンカレーが注目を集めています。

  • アレルゲンフリーカレー:特定のアレルギーを持つ人でも安心して食べられるよう、小麦や乳製品を使わないカレーが開発されています。

○環境に優しいベクトル

  • エコパッケージの採用:従来のアルミパウチに代わり、環境負荷の少ない素材を使用した包装が導入されています。また、リサイクル可能なパッケージを採用するメーカーも。

  • 地産地消の推進:輸送コストやCO₂排出量を抑えるため、地元で生産された食材を使用したレトルトカレーに注目が集まっています。

  • 食品ロスの削減:規格外品や余剰食材を活用したレトルトカレーの開発が進んでおり、社会問題の解決に貢献しています。

未来のレトルトカレーとは?

未来のレトルトカレーは単なる「保存食」の枠を超え、消費者の健康、環境、文化、そして技術との深いつながりを持つ「体験型食品」として進化していくでしょう。たとえば、以下のような未来はどうでしょう。

●レトルトカレーのパーソナライズ化
健康状態や好みに合わせて栄養素を最適化した「パーソナライズドカレー」

●レトルトカレーのパタゴニア化
食べることで地域や環境保護活動を支援できる「ソーシャル・エンゲージメントカレー」

●レトルトカレーのコンテンツ化
ARやVRを活用し食べる前に「カレーの物語」をバーチャルで体験できる新感覚商品。VRをみながら食べて旅するカレーもあるかもしれません。

おかわり

さて、レトルトカレーを分解してみましたがいかがでしたでしょうか?
レトルトカレーを企業のブランディングやマーケティングに使っていきたい。そんな方がいらっしゃったらMEETINGレトルトカレー研究所にご連絡ください。
研究員木下が食べたレトルトカレーベスト10はまた次回。