脳を活かす力:ウェンディ・スズキ博士との対談
「運動するたびに、脳が変わるんです」
脳科学者ウェンディ・スズキ博士は言う。
彼女は、脳の可塑性(脳が経験や環境に応じて変化する能力)の専門家であり、記憶、感情、運動の関係を解き明かしてきました。
ニューヨーク大学の学部長である彼女の使命は、私たちが日常の中で脳を最大限に活用する方法を見つけ、それを実践に移す手助けをすることだと語っています。
この記事では、ウェンディ・スズキ博士がメル・ロビンズとのインタビューで語った、脳の可塑性や運動、感情、社会的つながりが脳に与える驚くべき影響とそのメカニズムについて詳しくまとめています。
ウェンディ・スズキ博士の経歴
ウェンディ・スズキ博士は、日系三世のアメリカ人で、ニューヨーク大学の芸術科学学部長であり、世界的に著名な神経科学者です。
彼女は、記憶、脳の可塑性、脳の健康に関する研究で知られており、特に運動が脳に及ぼすポジティブな影響について多くの実績を持っています。
著書『Healthy Brain, Happy Life』などでも、多くの人に脳の健康に関する知識を広め、科学を身近に感じさせる情熱的な教育者としても評価されています。
メル・ロビンズ の経歴
メル・ロビンズ (Mel Robbins) は、アメリカ出身の著名なモチベーショナルスピーカー、作家、ラジオおよびテレビのホストです。
彼女は特に「5秒ルール(The 5 Second Rule)」というシンプルかつ強力な行動法則を提唱したことで有名です。
このルールは、どんな状況でも決断を下すための5秒以内に行動することを推奨し、世界中の人々に日常生活やビジネスでの意思決定における行動変化を促してきました。
メル・ロビンズは、ベストセラー作家として多くの著書を出版しており、特に『The 5 Second Rule』と『The High 5 Habit』が高い評価を受けています。
また、TEDトークでも彼女の発表は非常に人気があり、広範囲にわたる視聴者に影響を与えています。
脳の力を引き出す「可塑性」の秘密
私たちの脳は固定されたものではなく、経験や環境に応じて常に変化し、成長する能力を持っています。
この「脳の可塑性」と呼ばれる力は、日々の行動や選択によって、私たちの脳をより良くも、時には悪くも変化させる可能性があります。
ウェンディ・スズキ博士は、この脳の可塑性についての研究を深く掘り下げ、運動、感情、日常的な選択がどのように脳に影響を与えるかを明らかにしました。
脳の可塑性とは?
脳の可塑性は、神経細胞が新しい結合を形成し、経験や環境によって変化する能力を指します。
これにより、脳は常に学び、適応し、新しいスキルを習得することができます。
かつては、脳の成長は子供時代に限られると考えられていましたが、現代の科学は、成人でも脳が新しい神経細胞を作り続けることを示しています。
ウェンディ・スズキ博士が教えてくれた「運動」と「脳」の関係
スズキ博士が脳科学に興味を持ったきっかけは、大学時代に受けた特別な授業でした。
彼女は脳の持つ驚異的な能力—特に、脳が新しい経験や環境に応じて変化し続ける力—に魅了されました。
その後、彼女はニューヨーク大学で教鞭を取り、脳がどうすれば健康を保ち、さらには成長するかについての研究を続けています。
そんなスズキ博士が人生を大きく変えたのは、彼女自身の体験からでした。
テニュア(大学の終身雇用資格)を目指してひたすら働く中で、彼女はストレスに押しつぶされ、疲れ果ててしまいました。
そんな時、一人で参加したペルーでのリバーラフティングの旅が彼女の人生を一変させました。
「私は、もっと強くなりたい」と思ったスズキ博士は、ニューヨークのジムに通い始めたのです。
最初はただの体力づくりでしたが、運動を続けるうちに、スズキ博士はあることに気づきました。
「運動を始めてから、集中力が上がり、仕事がうまく進むようになったんです」。
脳科学者としての彼女は、その変化がただの気のせいではないと感じ、自身の研究を運動の効果に向けてシフトさせました。
たった10分の運動で脳は変わる
スズキ博士の研究によれば、たった10分のウォーキングでも脳に大きな影響を与えることができます。
運動をすると、脳内ではドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの「幸せホルモン」が放出され、気分が良くなり、集中力や記憶力が向上するのです。
さらに、定期的に運動を続けることで、脳の記憶を司る海馬(かいば)が強化され、新しい神経細胞が生まれることがわかっています。
「運動をすることで、脳がどんどん賢くなり、記憶力も向上するのです」
スズキ博士は力強く語ります。
「愛している」という言葉が刻まれる瞬間
スズキ博士の「愛している」という言葉が刻まれる瞬間についての話は、感情と記憶がどのように強く結びついているかを示す、非常に感動的なエピソードです。
彼女の父親が認知症を患ったとき、スズキ博士は家族として大切なことを見直すきっかけを得ました。
日本の文化では、特に古い世代の間では、「愛している」と直接言うことはあまり一般的ではありません。
しかし、父親の病状が進行する中で、スズキ博士は心の中で「今こそ、この言葉を伝えるべきだ」と決意しました。
最初、電話で母親に「これから毎回『愛している』と言ってみるのはどうか」と提案したとき、母親は少し戸惑いました。
しかし、思い切って伝えてみると、両親とも同意し、会話の最後に「愛している」という言葉を交わすようになりました。
驚くべき瞬間は、次の週に訪れます。
記憶があいまいになりつつある父親が、認知症の進行にもかかわらず、電話の最後に自ら「愛している」と言ったのです。
スズキ博士は、父親がこの新しい習慣を覚えていたことに感動しました。
これは単に言葉を覚えたというよりも、感情的な繋がりが強く、脳に深く刻まれた結果だと彼女は理解しました。
彼女はこの出来事を、脳の「海馬」の働きと関連づけました。
海馬は記憶を形成する重要な役割を担う部分であり、特に感情が伴う出来事は、脳に深く定着することが知られています。
彼女の父親は、認知症が進んでいる中でも、この感情的なやりとりを新たに記憶として刻んだのです。
このエピソードは、スズキ博士にとって科学的にも個人的にも非常に大きな意味を持つものでした。
感情の力がどれほど強く、記憶を支える要因になるかを体験した彼女は、
「愛している」
というシンプルな言葉が、家族の絆を深め、心に刻まれる力を再認識しました。
感情が脳に与える影響は大きく、特に感情を伴った経験は、記憶として脳に定着しやすくなります。
これは、脳の海馬が感情的な出来事に対して強く反応し、記憶を形成するためです。
このエピソードは、運動や知識だけでなく、感情的なつながりも脳の健康に深く関わっていることを教えてくれます。
可塑性を活かした脳の健康法
脳の可塑性を引き出すためには、運動や感情的なつながりだけでなく、日常生活での小さな選択が重要です。
たとえば、階段を使うこと、10分の散歩を習慣化すること、新しい趣味を始めることなど、簡単な行動でも脳にプラスの効果を与えることができます。
「どんな小さな行動でも、脳に良い影響を与えます。
重要なのは、それを習慣にすることです」
とスズキ博士は強調しています。
新しい環境に身を置いたり、好奇心を持って新しいことを学ぶことも、脳の可塑性を高める方法です。
脳を健やかに保つ日常の行動
脳の可塑性を最大限に引き出すためには、
身体を動かすこと、
感情豊かな交流を持つこと、そして
新しいことに挑戦することが鍵です。
スズキ博士の研究は、私たちが小さな選択や日常の行動で脳を変える力を持っていることを証明しています。
毎日のウォーキングや、感情的なつながりを大切にすることで、私たちは健やかな脳を保ち、より豊かな人生を送ることができるのです。
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免責事項
この記事の内容は、ウェンディ・スズキ博士のインタビューをまとめたものですが、個人の健康や医療に関するアドバイスを代替するものではありません。脳や体に関する具体的な問題や治療については、専門の医師や医療従事者にご相談ください。また、本記事は情報提供を目的としており、効果や結果は個々の状況により異なる可能性があります。