英語の一人称代名詞は「I」以外思い浮かばない。ところが日本語では、男性に限っても「私」「僕」「俺」とすぐに幾つか思い付く。女性も同様にバリエーションがあり、「ボク」とか特殊な属性を思わせるものまでありますね。
日本語で雑文をしたためる時に最初の最初に直面するのが、この一人称代名詞問題。今これを書いている自分をどう表記するかは、文章全体の雰囲気、さらにはテーマまで左右する重大な第一歩ですよ。
私自身は、note以外ではほとんど一人称代名詞を使う文章を書かない上、創作を体系的に学んだ経験もないので、理論的なことは言えません。以下勝手な例文をつくって、実際どんな感じに変わってくるか実験してみたい。あくまで印象論でお目汚しですが。
普遍的・散文的「私」。推定年齢は中年以降
さえないキモ親父サラリーマンの枯れたエロ妄想。テーマは「疲れた日常」。
青い「僕」。推定年齢は10代後半~30代ぐらい
生活とか言いながら、まだ生活に疲れてない様子と自意識過剰っぷりがうかがえます。テーマは「大学生の日常」。
自己主張強めの「俺」。推定年齢は10代後半~30代
ハードボイルド(?)風味。オレ様です。やはり若い。香る犯罪臭。テーマは「荒れた日常」。
謎の透明人間。年齢不詳(ただし高齢者ではない)
少し不思議な雰囲気が出るかなあ。勘ぐって読めば、女の隣に座ることに何かの意味がありそうな雰囲気も。テーマは「日常からの脱出」。
総じて、「私」は中高年から高齢者まで等身大の自分を描写する際に使い勝手が良く、「僕」はそれより若く、あまり絶望を感じない。情緒的な文章に向いてる気がする。ついついなんちゃって村上春樹風になりがちなのも、「僕」の特徴か。
「俺」は角が立っていて、肉体的、言い換えれば少々の暴力の臭いも。やはり若め。中年にさしかかるぐらいまでは守備範囲か。
主語なしに関しては、内面描写と情景描写が一体化するような感じか。「私」に近いけど、ちょっと浮遊感がある。主語を欠いても文章が成立するのが、日本語のおもしろいところです。