生成系AIはもう飽きられた!? 〜トレンド再考とビジネスの未来を探る 〜
未来を切り開く技術としての生成系AI。一方で、その存在が飽きられているとの声も聞かれます。果たして、その真実はどうなのでしょうか?
生成AIがいかに未来のビジネスに関わりどのような可能性を秘めているのか。一歩先を行く洞察と情報で、生成系AIがもたらす未来への道を照らし、ビジネスの舞台裏で息づく躍動感あふれるポテンシャルに迫ります。
――SNSでは「生成AIはもう飽きられた」というつぶやきが見られますが、実際のところどのように感じていますか?
砂金さん
孫正義氏は、「今後10年以内に、自立した答えを出してくれる人間よりも賢いAIができる」と言っています。メガトレンドはおそらく変わらないと思うので、どのようなスタンスでこの流れに乗るかですね。
小澤さん
今年の春ごろはChatGPTが注目を集めていましたが、業務に活用できなかったので、MAU(Monthly Active Users)の低下が起こっているのではないでしょうか。社内ツールとの連携の難しさなどが解決されない限りは、ダウントレンドが続くと思います。
砂金さん
でも、絶対数でいえば相当な量なので、一時的なバブルで終わるのではなく定着していくものとだと考えています。
小澤さん
たしかに、ダウントレンドはありつつも適用できる業務の量は、いままでに比べて何十倍ものインパクトがあります。そこを理解して活用を進めるのが大事ですね。
―― 生成AIの最新情報についてお聞かせください。
小澤さん
ChatGPTのエンタープライズ版が出てきて、国内のさまざまな産業のビジネスモデルも転換が求められています。業界や企業に特化した活用へと、どのように切り替えていくのか。これから半年で、大きな変化があると見ています。
砂金さん
そのときに、“チューニング”をどうするかがポイントです。シンプルなのは、プロンプトで生成AIに前提知識を持たせてから聞く方法です。汎用性を持たせたい場合は、ローラーチューニングという、もっと手前の段階で調整する方法もあります。ただし、お金がかかります。
どのレベルでチューニングするかを適切に判断必要があります。たとえば、金融業界向けのLLM(大規模言語モデル)が必要なのか、損害保険の事故問い合わせ処理に特化したLLMが必要なのか。 現場で欲しいのは、明らかに後者です。余計な知識は必要ないから、目の前の業務がきちんとできるものが欲しい。そのときに、「どんな方法が自分たちにとってベストなのか」を見極められる存在が大事になってきます。
小島さん
企業がDXに取り組んでいない時点で、生成AIを導入してもうまくいきません。たとえば、自治体には河川マニュアルがあります。大雨で河川が氾濫したときに「対処の仕方を教えてください」と入力すれば、200ページぐらいあるマニュアルからパッと回答を出してくれるようにすることもできます。しかし、そのマニュアル自体が最新のものになっていないことがあるんですね。アップデートされた情報がどこにあるのかもわからない状況では、生成AIは使えません。だから、現場でITを根付かせていくところから始める必要があります。
――情報セキュリティーの観点から、生成AIの利用が企業内で制限されるケースがあります。そのようなハードルを乗り越えていくにはどうすればよいでしょうか?
小島さん
金融機関では、基本的にChatGPTの利用は禁止されてます。そのほかの企業でも直接業務に利用する事例は、まだまだ少ないです。一方で、エンタープライズ版を使って個人情報を管理したり、管理権限を分けたりして導入するところは増えているようです。
小澤さん
国内では日清食品HDやベネッセコーポレーションが、生成AIの導入を進めています。国内の大企業でいちばん多いのは、Azure OpenAIサービス(=OpenAIのAIモデルをMicrosoft Azure上のセキュアな環境で利用できるサービス)を使った、社内独自の環境をつくるケースです。もうひとつは、生成AIを社内で活用するためのプラットフォームサービスを利用するケースです。「法人GAI」「exaBase 生成AI powered by GPT-4」などのサービスがあります。社内のリテラシーが低かったり、開発リソースがなかったりする場合は、このようなサービスを利用すると導入しやすいです。
砂金さん
セキュリティーに関しては、これまでベーシックな部分は積み上げてきているので、ChatGPTを導入するのであれば、その差分だけを確認していけばよいと思います。一般論も含めたセキュリティーの話になってしまうと解が見えなくなります。そうではなくて、「企業で使うときにインプットした情報が、OpenAIに学習されるかもしれない。そこで情報漏洩があるかもしれないから、セキュアな環境で使いましょう」というように、生成AIのセキュリティーとして正しい論議が必要です。
小澤さん
そもそも社内のDXが進んでいないと、ChatGPTに入力するデジタルデータが少なく、活用が進ません。だから、「業務がデジタル化しているか?」「社内のデータはきちんと構築されているか?」といった議論に戻ってしまいます。
砂金さん
クラウドのときと違うのは、一般人がChatGPTを使えるところです。みなさんの上司が言ってくるわけですよ。「ChatGPTを使って、なにか新しいビジネスをつくってほしい」ってね。このような会話が始まるのは健全だと思うのですが、ここから先が要注意。「どんな情報をどこまで入力してよいのか?」という議論を、解像度高くしないと先に進みません。
小島さん
社内で生成AIを活用したビジネスコンテストを行っている企業は、たくさんあります。ただ、それが実働されないケースは多く、「生成AI」というワードが先走りしすぎているため、なんでもかんでも生成AIを使おうとしてしまっているようです。
小澤さん
日本の生成AIの利用率は約9%。そのいちばんの用途は「情報検索」です。生成AIを情報検索のツールとして捉えている以上、業務の変革は進みません。
小島さん
アメリカでは「約50%の人が生成AIを利用している」と言われています。海外の企業とお話すると、業務で本格的に使っているところが多いです。
小澤さん
欧米と日本の利用率にこれだけ差があるのは、総合職と専門職の違いが要因ではないかと思います。ジョブ・ディスクリプションの文化が日本にはあって、きちんと決めないと進められないところがあるのではないでしょうか。
砂金さん
生成AI技術の使い方ナンバーワンは、間違いなく「GitHub Copilot(=コーディング中にAIがコードの提案をしてくれる機能)」ですね。ペアプログラミングが半分の工数でできるようになるので、使わない理由がありません。それなのに日本の利用率が低いのは、「ChatGPTのようにテキストで返してくれるUX=生成AI」という認識になってしまっていて、それ以外のものが含まれていないのかもしれません。
――ここからは、事前に寄せられた質問をゲストのみなさんにお聞きしていきます。「ChatGPTが製造業のあらゆる層に浸透する条件はなんだと思いますか?」
砂金さん
製造業をどこまでと捉えるかにもよりますが、本社勤務、生産ライン、物流まで含めるのであれば、間違いなくマルチモーダルAI(=2つ以上の異なるデータの種類から情報を収集し、それらを統合して処理するAI)が必要です。音声入力で、しかも適当な発音でも使えて、その企業特有の言葉も理解できてかつ、適切な業務に割り振ることができる。ここまでいけば、製造業でもどんどん浸透していくでしょうね。
小澤さん
近接領域では、建設業に特化した生成AIツールがあります。どんなことができるかというと、たとえば、CADのデータをアップするとその建築物に対する質問に答えてくれたり、国土交通省が出している国の基準をおぼえて設計の参考情報を答えてくれたりします。まずは、「製造業のなかにあるテキストに関連する課題ってなんだろう?」ということを紐解く必要があるのではないでしょうか。それができれば、同じような生成AIツールが製造業でも出てくるかもしれません。
小島さん
ジェネレーティブAIのサービスは、ほとんど業界を限定したものになっています。建設業界、製造業界、リーガル業界など、細分化されて具体的に使える中身が揃ってきているようです。
――次の質問です。「BtoBにおける生成AIのトレンドについて教えてください。また、BtoCでの活用シーンとして、どのような未来を見据えていますか?」
砂金さん
ブログを書くときにnoteを使っている方がいると思いますが、文章を書くときのサポートをAIがしてくれますよね。このような創作活動を補ってくれるようなものがあります。それが発展すると、小説を書くサポートをしてくれるものが出てくるかもしれません。また、画像生成AIや動画生成AIは、すでに一般的に使われています。このようなサービスを、「自分たちも作り手になって新しい変化をもたらす」という観点で使うと重宝します。いままでにできなかったことが、できるようになるので、みなさんにも作り手になって感動していただきたいですね。
小澤さん
世の中のマーケティングの仕組みが変わると思った事件が、GoogleのSGE(Search Generative Experience)の公開です。これは、Googleで検索をするとAIが結果を生成してくれるというもの。検索結果が生成に変わったということは、Googleの検索窓があるトップ画面だけで、すべてのインターネット生活が成り立ってしまう可能性があります。たとえば、なにかを買いたいときにGoogleで検索すると、「あなたがいま買うべきものはこれです」と自信を持って勧めてくれる。「メールが届きました。返信しておきましょうか?」というアテンションがあり、返信ボタンを押すだけで返信が完了する。そんなことができるようになります。
いままでは、そもそもこの検索クエリにニーズが現れるからこそ、SEO、リスティング広告というモデルが成立していました。しかし、ここまで大きくなった領域に生成AIが入ったということは、その先に広がるマーケットのサイズが大きすぎるということです。この象徴となったのがSGEです。
あわせて、このトレンドはChatGPTのプラグインで「オススメの焼肉屋さん」と聞いたら、食べログのプラグインを引っ張ってきて教えてくれる現象とまったく同じです。ChatGPTもGoogleもMicrosoftも統一されたインターフェースをつくろうとしているような感覚があります。怖いのはSiriですね。Siriに話しかけるだけでLINEの返信をしてくれたり、買い物が完了したりという未来がくれば、10年後BtoCのビジネスモデルはものすごい変化を遂げるのではないかと思います。
小島さん
私は、衣食住といった人間の生活のベースの部分は、あまり変わらないと思います。仕事が終われば、家に帰って、ごはんを食べて、ベッドに入る。そこに生成AIは、絡んでこないのではないでしょうか。
小澤さん
たしかに、現状はインターネット行動のアシスタント的なものです。一方でロボティクスとの連携がどうなっていくかですよね。ガストでは、ロボットがごはんを運んでくれるようになりますが、このような事例が一般的になって汎用性のあるロボットが出てくるとBtoC も変わってくるのではないでしょうか。
――本日は大変興味深いお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。最後に一言ずつコメントをお願いします。
砂金さん
生成AIはBtoBでこれから本格化していきます。そのときに、生成AIを自分の業務にいかに手なずけられるかが勝負です。それに備えて、DXによりデータを整えておくことが大事。AIを使うことが目的ではなくて、目の前の業務をいかに効率よくするかを突き詰めていくと、タイミングよくAIの技術が追いついてくるはずです。いまあるものでどのように組み立てればよいのだろうというブロックゲームに陥らないように、本質をみなさんに考えていただきたいですね。
小島さん
アメリカでは、すでにDXができている前提でCXに入っています。「日本は5年遅れている」と言われており、まだDXの段階です。いきなり壮大な未来に向けてやっていこうというのではなく、まずは「現場レベルで簡単に使えるものはないか」という視点で始めてみるのがよいと思います。
小澤さん
ドラえもんのすごいところは、のび太くんの悩みに合わせて適切なひみつ道具を提供し、課題を解決してくれるところです。いままでのデジタル系ツールの発展はドラえもんのひみつ道具的な発展でした。GoogleやOpenAI、Microsoftの動向からは、私たちとツールの間に立って橋渡しをしてくれるエージェントのようなプラットフォームを目指す戦略が透けて見えてきます。のび太くんとドラえもんが友情を育み、ドラえもんが人間社会に溶け込んでいるように、これからどのようにAIが社会のなかにあればよいのか。いま一度考えて、実践していただきたいです。
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ライター コクブサトシ @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st
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