上場企業とスタートアップ 〜 よいアライアンス先の見つけ方 〜
企業が競争環境を乗り越え長期的な競合優位性を維持するために、自社の取り組み・枠組みを超える「アライアンス戦略」が重要性を増しています。業界をリードし続けるためには、自社のコアプロダクトの質を維持・向上させるにとどまらず、顧客が期待する広汎なニーズに対応する必要があります。
今回は、ゲストスピーカーに事業売却をご経験されたスタートアップ企業のFounderのみなさん、そしてM&Aや資本業務提携を通じてアライアンスの橋渡しをされているスペシャリストのみなさんをお招きし、お話を伺いました。
――まずは、これまでに行ってきたアライアンスについてお聞かせください。
小笹さん
前職のイベントレジストはスタートアップで、ベンチャーキャピタルや事業会社から資金調達をしました。ということは、なんらかの形でイグジットしなければいけない運命なのです。一般的な手段としてはIPOとM&Aがありますが、私個人としては最初から「M&Aでイグジットしたい」と考えていました。それは、「さまざまな会社とシナジーをつくりながら成長する機会を増やしていきたい」という思いがあったからです。
2014年に3社と資本業務提携しました。当時は先々のM&Aも視野に入れて、どのようなシナジーを構築していくかを考えて提携先を模索しました。最終的には、そのうちの1社とM&Aに至りました。
村上さん
弊社の場合、「人事やマーケーティングの機能が弱い」という背景がありました。これが大企業と組むことで強化できるのであれば、「アライアンスを組もう」という思考です。そこから、人材系と広告代理店の上場会社と資本提携しています。「自社の事業をどのように伸ばしていくか?」というなかで、自社でやるのか、アウトソースするのか、連携するのか。そのHowの一つがアライアンスです。「どのような理由で組むのか?」が出発点ですね。
矢野さん
私どもの場合は、「開発面における課題を解決したかった」というのが入り口です。技術とは異なるところにさまざまな事情があり、「自社だけでこれ以上ユーザーを増やしていくのは難しい」と感じていました。そんなとき、友人から企業を紹介してもらったのがきっかけで、アライアンスを結びました。
――いまのお話にもありましたが、アライアンスやM&Aのパートナーとの出会いや、一般的な段取りについてお聞かせください。
村上さん
取引をするなかで、「ここをもっと進化させていこう」という話から契約に発展するパターンが多いです。資金調達のためにいろいろな会社と話をしていく過程で、お互いに課題解決が見込めるところと組んでいきました。
小笹さん
一般的にM&Aのプロセスに入るときは、まず、コンサルティング会社に依頼してロングリストをつくってもらうことが多いのではないでしょうか。しかし、そこに挙がった会社とは、無理矢理ロジックを合わせなければシナジーが生まれない場合もあります。やはり、お互いの課題が “カチッ”とはまるところと組むのが理想的だと思います。私の場合、「いままでに資本業務提携をしてきた会社とは、課題の共有もできている。組むべきはここなんじゃないかな」と思い、結果的に以前から資本業務提携していた企業とのM&Aに至りました。セオリーでは、ロングリストから候補を絞り込んでアプローチするという流れがありますが、そこにとらわれる必要はないと思います。
シンプルにお金のだけのことを考えると、ロングリストの会社のほうがよい条件であることも多いと思います。でも、従業員の幸せとか、持続可能なサービスの提供とか、ほかに重視するべきことが多くありました。やっぱり「この会社に預けたら大丈夫!」と思える会社にお願いしたかった、というのが一番大きいです。
矢野さん
私どもの場合は、後にパートナーになる会社のグローバルチームの方から「怪しい者ではございません」と、いきなり電話がかかってきました。開発を担当していた夫が、当時サンフランシスコに住んでいたので「すぐにお会いすることはできません」とお伝えしました。すると翌日、アポなしで先方の3人が夫の会社を訪ねてきたのです。そこで急に食事に誘われて、提携の話をされたそうです。なんと、その翌日も自宅の前にいて、また食事に誘われて。「ご飯を食べに行くとなんとかなる」と思っていることに、びっくりしました。
――すごいなぁ、口説き落としですよね。ほかに、こういうエピソードを聞いたことはありますか?
村上さん
弊社もM&Aなどサポートさせていただいていますが、このような事例は聞いたことがありません。日本の上場企業は、このような動きはしづらいのではないでしょうか。海外ならではです。
小笹さん
買い手側に熱量があるって、すごくいいですね。
矢野さん
私もその担当の方とお会いして、朝の4時ぐらいまで話をしたことがあるのですが、その方は「このあと南米に行かなくてはいけない」と言うのです。もう、すごい汚い格好でスーツケースを引いて行く背中を見て、「なんて一生懸命に仕事をする人なんだろう」と思って、当時から尊敬していました。
――ここからは、株式会社ウイングアーク1st代表取締役社長兼CEO田中潤さんにも飛び入り参加していただいて、お話を伺っていきます。アライアンスを組むときは、やっぱりロングリストから選ぶプロセスを踏んでいくのでしょうか?
田中さん
いままでに出資した会社は、すべて私が自力で見つけてきた企業です。ロングリストには、聞いたことがある企業がたくさん入っていて、イメージも湧きやすいのですが、実際にお会いしたことがありません。それよりも、「話を聞いてみたら面白そうだから手伝いたい」と思う会社に出資することのほうが多いです。
――アライアンスの際に重要視していることはなんですか?
村上さん
M&Aもアライアンスも時間軸の長い話で、半年から1年ほどかかることもあります。すると、アライアンス自体が目的になってしまうこともあるのです。そうではなくて、お互いのビジョンの方向性をしっかり見据えて進めることが大事ですね。
矢野さん
私どもの場合は、「本気で世の中のほとんどの携帯電話に、うちのアプリを入れたい」という話をすると、先方が「500万ユーザー獲得できます」って言うんです。マンガのような話でしょ。このように、ビジョンを確認しながら進めることでうまくいきました。
村上さん
大企業とか上場企業の働き方やカルチャーを押しつけてしまうと、崩壊してしまうケースが散見されます。やはり、目指す先を共有したうえで、働き方、評価制度、採用制度などをすり合わせていく。そこで、一定の自由度を持たせるなど、バランスよくお互いが歩んでいける座組になるといいですね。
――企業文化の違いは、どのようにして乗り越えていけばよいのでしょうか?
田中さん
基本的にパートナーとなる会社の文化は、そのままにしています。社長がいなくなるということはあまり考えていません。社長がいなくなると、その会社の文化をつくった人がいなくなってしまいます。社員のなかには、文化に憧れて入社した方もたくさんいると思うので、そこは壊さないようにしています。一方で、弊社は上場企業のため、どうしても守ってほしい部分もあります。だから、必要最低限のルールのなかで自由度を持って、協力しながら進めていくようにしています。
小笹さん
経営統合したときに大変なのは、経営管理を買い手側に合わせていくとか、親会社に合わせていくとか、そういう話だと思います。でも、それはお客様にはなんの関係もない話ですよね。だから、ネガティブに捉えないで、楽しみながらやっていったほうがよいと思います。
スタートアップ側からすると、大企業のプロセスやガバナンスは、とても勉強になります。一方で、大企業のほうもスタートアップから学ぶことがあるはずです。お互いにリスペクトできる関係だといいですね。
矢野さん
上下ではなく、対等な立場と捉えることも大切ですよね。
田中さん
お互いを理解しようという姿勢がない人たちと、一緒にならないことです。どちらが偉いかは、関係ありません。
――これまでにあったネガティブケースをお聞かせください。
村上さん
昔の話ですが、上場企業と連携してサービスを進めようとしたときに、上場企業かつ先方の事業運営上求める情報管理やルールの水準が高く、弊社がそのレベルに達しておらず、頓挫したことがあります。こういったギャップは早めに埋めておかないと、いざ現場に落としたときに問題が浮き彫りになることがあります。
矢野さん
私どもの場合は先方が中国の企業ということもあり、大事にすることがまったく違いました。中国は「やったもん勝ち」みたいなとこがあります。「考えることは誰でもできる、実際にリリースしなければ勝つことはできない。それを実行した人しか評価されない」という文化。だから、どこか支障があってもまず出して、それを直していくというような進め方なのです。もしも、それで評価が下がったとしても「次に修正して出せば評価は上がるから大丈夫」という考え方に、ついていけないこともありました。でも、いまは間違ってはいなかったと思っています。
田中さん
大きな会社であるのは、M&Aを担当していた方が異動してしまって、別の方が担当になるケース。前の担当者は、すごくいいと思って進めていたのに、後任はそうは思っていない。そこから支配的なやり方になってしまって、急に全部変えてしまおうとすることがあります。そんなことも起こり得るものだという想定をしたうえで、やはり誰と組むかがとても重要です。
ほかには、スタートアップが「M&Aをしてほしい」という場合で、どうしようもなくなってしまって、なんとか助けてくださいというパターンがあります。この場合、社長は逃げる気満々の可能性があるので、それを察知した買い手側は社長を見なくなります。買い手側が「その会社が持っているものが残ればよい」という考え方になってしまうと、従業員のことも考えなくなってしまいますので、よくないパターンです。
矢野さん
大企業などの買い手側が、自分たちが持っていない機能を付け加えるつもりで、自分たちが詳しくない機能を持つ会社を買ってしまうということはないですか?
田中さん空いているポジションを埋めようとして買ってはみたものの、いざ入れてみたらまったく想定と違っていたということは、大企業ではあります。すると、また売られてしまうので、どんどん会社が変わっていってしまいますから、よくないですね。
―― いま、アライアンスを考えているみなさんに向けて、一言お願いします。
矢野さん
スタートアップが大企業と組むときは、新しいことを始めるのが重要です。「あそこに100億あるから、100億取りにいこう」ではなく、「ここには1億しかないけど、これを100億にしよう」と言えるようなチームをつくることができるとよいですね。
村上さん
くり返しになりますが、アライアンスやM&Aが目的にならないようにすること。お互いのやりたいことやビジョンがマッチするのであれば、「一緒にやりましょう」というプロセスが大事です。
小笹さん
日本のスタートアップのイグジット方法のなかでM&Aは、3割程度。対してアメリカは9割以上がM&Aです。M&Aが増えると、経営者の人材流動性が高まります。すると、どんどん起業する機会が増えて、ひいては起業家の総量の増加にもつながります。だから、日本のスタートアップはもっとM&Aでイグジットしてほしいです。そのようなスタートアップと「一緒にやろう」と言ってくれる大企業が、たくさん出てくるといいですね。
…
ライター コクブサトシ @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st
meetALIVEとは…
meetALIVEのFacebookグループ
イベントに参加された方は、どなたでもジョインできます。(参加申請必要です。)学び合いと交流を目的とし、過去に開催したイベント動画も閲覧可能なコミュニティグループです。もちろん、今回のセッションの動画も閲覧出来ます。
meetALIVEのTwitter
今後開催予定のイベントの告知や、イベント時の実況中継を行います。
meetALIVEのPeatix
直近で開催予定のイベントを確認し、申し込みできます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?