第46話 玉依
（タマヨリ）
夏休みはとっくに明け、9月になっていた。
簡単なお昼を済ませて満腹でうとうとしそうになっていると、意識がどこかに繋がりそうな気配がしたのでソファーに移って目を閉じた。
ビジョンの中の私は、戦の始まりの合図に用いられる鏑矢（かぶらや）を天高く放った。大きく放物線を描いた矢が当たった先は、玉置山にある一本の大きな杉の木だった。
その大杉の頂で私を待っていたのは、以前オオナムチの遣いとしてお会いした、いつかの鴉天狗さん。そして鴉天狗と私のちょうど真ん中にあるのは、いつの間に私のお腹から取り出されていたのか、あの金色の珠だった。
じっと珠に注目する……。
すると幾らも経たないうちにパリパリと亀裂が入りはじめ、中から何かが孵った！
うそ、これって卵だったの…！？
殻を破って出てきたのは、まだとても小さな金色の龍。手のひらくらいの大きさだろうか。私の意識に合わせるように、ふいごで息吹を吹き返すように、その小さな体はみるみる成体へと変化を遂げていく。
カラスの羽を貸してもらって私も一緒に空へ舞う。鴉天狗と共に、泳ぐ大きな飛翔体となった金色を追って飛んでいくと、到着する前から「これは根の国※に向かっているのかな」との直感が走る。
緑深い山々を抜けて切り立った崖沿いに地下へと潜ると、そのまま底へ底へと一直線に降りていく。深く潜れば潜るほど、周りにはたくさんの魑魅魍魎たちがひそんでいることがわかったが、彼らは歯噛みしつつも私に対して手を出せないことを感覚的に察知していたので、特に怖さは感じなかった。
やはり。
地の底では、まだ若きスサノオが待っていた。
どんな顔をしているのか、どんな表情をしているのか。そこに関しては相変わらず良く視えなかったけど、代わりに「私の中の別の意識体」とそのスサノオとが、何やら話をしていることはわかった。
この時の出来事に関し、少し後になってから幾つかの答え合わせをもらえたところによると、今回私の別次元体が「玉依」として働いていたことや（※）、この金龍とは元々山陰地方で崇められていた土着の神で、ヤマタノオロチの高次元体とも同一神だということなどが徐々に知らされることとなった。
私って、巫女だったのか。
それ自体にも驚いたが、さらにもっと驚くべき事態が判明した。
この鴉天狗からいただいた宝珠を直感的に子宮にしまったのが、確か去年の10月下旬だった。それが龍神の卵だったとわかり、孵った今日までを数えてみたら……。その誤差わずか数日の範囲で、ちょうど十月十日（とつきとおか）となっていた。
仕組まれたように人間の女性の妊娠期間と重なっており、托卵により胎内で温めてきた卵に対して乳母の私が見守る中で、金龍の幼体は産声をあげたのだった。
はぁー、夜明けの晩かぁ……。※
そのとんでもない情報に対し、自分でも理解するのがやっとだったが、また新しく、きっと何かが動き出す。
肝心のその“何か”が何なのか。いつか夜明けを迎えるために、一度漆黒を深める必要があることだけは辛うじて何となく理解した。
※根の国…＝黄泉の国。
個人的解釈として、イザナギとイザナミが創った
大八州島（おおやそしま＝日本列島）という「島」の「根っこ」に当たる場所の、裏の面。
第8話、スサナルノオオカミ参照
※私の別次元体…私のパラレル意識体、別バージョン。
人ひとりの魂といっても、そこにはたくさんの意識体が無限に重なっている。別のレイヤーや別人格とも言い換えられる。
※玉依（タマヨリ）…龍宮城の海神（ワダツミ）の二人の娘、豊玉姫と玉依姫という固有名詞のほかに、「乳母」、「産みの母の代わりに育てる者」としての意味合いもある。
「玉（子宝）」の「依代（よりしろ）」で、タマヨリ。
そして「巫女」も「玉依」と同様に、この「育ての母親」の役割が含まれることがある。
ちなみに龍宮城の玉依姫も、姉トヨタマビメに代わり、神武天皇の育ての母となっている。
※『朝』という漢字を分解すると、十月十日。
朝とはかごめ歌でいう夜明けの晩。
今回、開戦の合図の鏑矢とも重なって、「鶴と亀がすべった（統べた）」に表される統合の前の明け方、嵐の前の静けさと直感。
「夜明け前が一番暗い」とも。当時の私の心境は、「ええー、これから何すんの？やだなー。」
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説（笑）、ぜひお楽しみください。
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睡眠中の夢や、瞑想中のビジョンは可能ならメモしておくことをお勧めします。
妄想、気のせいだと決めつけないでー。
あとから人生の謎を解いていく鍵になることがあるよ。大袈裟じゃなくて、点が線で繋がっていくの。
霊的な悪夢の場合は、ひとつ浄化された分が最後上がっていく時にも見るからまた意味合いが少し違ってくるけど、質の違いに気づくためにもやっぱりメモを推奨するよ。
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