第49話 接触
後ろから「キャー」と悲鳴があがり、足音がパタパタと近くなる。
楽器を持った女子生徒達が真横を追い越していく時に、そのうちの一人が小さな声で「ヤマタ先生マジキモっ」と言うと、彼女たちの間に笑いが起こった。
廊下の角へと消えていく吹部(すいぶ)の子たちの後ろ姿を見送りながら、私たちの時代にも女子から悲鳴があがるタイプの男の先生がいたなぁと、なんだか懐かしく思い出す。
その、たった今キモいと言われていたヤマタ先生に、「お母さん」と唐突に呼び止められた。
なんだろう。
この人と何か接点あったかしら。
この先生と、今までに関わった場面を少し思い出してみる。
梅雨の日に一度、学校の見回り運動で一緒に当番になったことがあった。他の保護者も予定を割いて参加しているにもかかわらず、途中で何の説明もなく、「じゃ、失礼します。」と先に一人で切り上げて校舎へと帰ってしまった人。
それからあきらの車椅子が廊下のパーテーションに引っかかり、通り抜けるのに手こずってしまった時。助けに走ってやってきたスサナル先生とは対照的に、楽しそうにニヤニヤしながら「俺は笑って見てるだけっていうね。」と、手伝いもせずに本当に見ていただけの人。
他にもいくつか思い出しても、なんだか常にかったるそうで、悪い印象しか出てこなかった。そんな人が私に、一体何の用だろう。
「お母さん、聞いたんですけどイギリスのあのバンドのこと好きなんですって?あれ知ってる人っていないですよね。」
ああ、あきらがずっと前に言ってたその話か。
「高校の時に、よく友達と聴いていたんです。私の周りでは流行ってたんですよ。局所的にかもしれませんけど。」
「いやもう自分の周りでは誰も知ってる人いなくて、あのロゴ見つけて嬉しくなっちゃって……。」
それから二言三言だけ会話して、別の吹部の男の子が「ヤマタ先生」と呼び止めたところで会話はお開きとなった。
なんだろう。悪い人じゃないんだろうけど、ちょっと視野が幼いところがあるんだろうな。だからあの女の子達にも無意識的に見抜かれてたって感じなのかも。
毎日のように校内を出入りしていると、自然と色んな先生方とどんどん顔見知りになっていく。同時に車椅子の子供とその親というだけで、一方通行的に有名になってしまうのも、それも避けられないことでもあった。
そのどちらが作用したものか、昨日だって、他学年の理科を教えているという、本来関わることすらないはずの先生とも初めて話をする機会があった。
この時のヤマタ先生もそんな中の一人に過ぎず、ここで会話をしたことすらも、正直私にとってはすぐに忘れてしまうくらいの他愛のないものになるはずだった。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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我が家基本的にテレビってつけなくて、年間を通してほとんど“置き物”なんだけど、パラの開会式あきらと見ちゃったよね。飛行機ちゃんの表情に魅せられた!
昨日、あきらはどうしても都内に出なきゃいけない用事があって、クラッチ(杖)使って一人で電車で出かけたんだけど、「エレベーターがないー!」ってなって、半泣きでエスカレーター使ったそう。うまく乗り降りできないから、せめて階段が欲しかったって。こういう恐怖感は当事者ならでは。
なのでパラのアスリートの方々には、色んな意味で尊敬しかないひみとあきらなのです。
それともし、パーテーショントラップに車椅子が捕獲されてたら、迷わず罠をほどいて解放してあげてください。ヤマタ先生のように笑って眺めてちゃダメよ。
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