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第28話 緑の人


洗面所の鏡の前は、私にとって「繋がり」のいい場所のひとつ。



奈良から帰宅して一週間。あれからずっと引っかかっていたタケミカヅチの剣(つるぎ)のことを、もう一度きちんと思い浮かべ直す。今度はちゃんとお返ししようと意識すると、鏡の自分とはっきりと見つめ合い頷いてから、ギュッと目を閉じて集中していく。



「鹿島のタケミカヅチ様より預かりました剣、玉置山の玉石社におわしますオオナムチ様、オオクニヌシ様にお返しいたします。」



今度こそ体内から引き抜くと、両手に掲げて天に差し出す。すぐに使者としてやってきたのは、どうやら玉置山の鴉天狗(からすてんぐ)。
なるほどそうか、あそこはそういう場所だった。

熊野古道を擁する紀伊半島は、修験道の開祖である役小角(エンノオズヌ)※修行の地だと聞いたことがあった。
どのように信仰が発展したのか、山伏たちは鴉天狗の力を宿すような装束に身を包んでおり、往時はその霊力を借りて、歴史の裏で活躍していたことだろう。そういうことなら、この方がお遣いで来てくれたというのも間違いではないらしい。



「よろしくお願いいたします。」



物言わぬ鴉天狗に剣を託すと、彼は次の瞬間にはすでに飛び立ってしまっていた。そして去り際に空中から、「お役目ご苦労」とでもいうかのように、ポーンと何かを落として寄越した。

金色の、バレーボールくらいの大きさの宝珠を受け取った。



「ありがとうございます。」


これが何を意味しているのか、あの剣がなんだったのか、いただいたお礼を言うこと自体果たして合っているものなのか。
ひとつ終わったと思ったら、またも謎が返ってくる。この球体のことも全く何なのかわからなかったが、直感で子宮にしまうことにした。



まあ、剣が持ち主に戻ったんなら良かったってことだよね。

そう思ってお腹をさする。


そして再び目を開けて鏡の自分に向かいあった時、いきなりなんの前触れもなく、赤いキャミソールのあの人が脳裏をよぎった。



「あっ………ああーっ!!」



何故だかこのタイミングで、すべての理解が追いついた。


勝手にも、国籍不明性別不明の「おじさんおばさん」と名づけていたその人の正体が、今になって、大天使ラファエルだったということに気がついた。



ラファエルにはどちらかというと、「あなたの学びのためになるならどんな姿で現れることも厭わない」といった気質があるように感じられる。

仮にミカエルが、天使という「イメージ商売の型」を守る花形マジシャンのようなタイプなら、ラファエルには言ってしまえば、町娘でも老婆でも、汚れ役でも演じる「道化師のような性質」がある。

ラファエルの言わんとする想い
ーー「誰かのためのあなた」ではなく「あなたのためのあなた」でありなさい
言葉の形をとらない「概念」のような彼の想いが、私の体を通過していった。



つまりラファは、今の私という存在に対して「自分のための命を生きていない」ということを、強烈なあの姿でもって、わからせようとしてくれていたのだ。

「家族という他者のために自己犠牲を払って生きる、モノのような状態になっていること」。また「歪(いびつ)な男性性を更に酷使して、私自身が『おじさんおばさん』になってしまっていること」を、あの時繰り返し教えに来てくれていたということなのだ。

気がついて、ぽろんぽろんと涙が落ちる。

天ノ川でも思っていたが、いつからか私自身、この世界に迎合して生き残るために自分を男のようにして、ただ毎日を「こなして捌く(さばく)方」ばかりを優先してきてしまっていた。


……だけどそういうものじゃないの?
……だってみんなも、そうやって生きているんだよ…

……みんなと同じレールから外れたら、生きていくことなんかできないよ…


ずっとずっと、そんな見えない呪縛に絡め取られて生きてきたんだ。一生懸命必死になって、本当の自分じゃないものになろうと……自分以外の何者かになろうとして生きてきたんだ。


ハイヤーセルフと一緒に不動さんを精査することの他にももうひとつ、「本当の自分の心に正直になるということ」も、ここにきて促されている。
「自分に正直」だなんて、どこか後ろめたい感じがして心の奥がガタガタいってる。

だけどもう、戻らないって心に決めよう。
ラファエルが教えてくれたことを、無駄にしないようにしっかり拾って決意しよう。



鏡の端に、エメラルドグリーンの光がひとつ瞬き、微笑んでくれたのを感じた。



※役小角…役行者(えんのぎょうじゃ)



written by ひみ


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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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あとあれだね、ミカは戦隊モノのセンター。
ラファさんは、合法カジノのディーラー。
あきらがラファ気質なんだよ。
ババ抜きとか人狼とか、何も考えていないフリして脳内計算フル稼働でヒツジの皮着て一人勝ち笑

わたしミカエル:
「え?ババ抜き?ゲームなんだから気楽にやって楽しきゃよくない?」
ラファエルなあきら:
「え?ババ抜き?ゲームなんだから頭使って勝たなきゃ意味なくない?」

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