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第167話 追いかけっこの憂鬱


 愛されなくても、愛してる。憎まれてても、愛してる。


 内観中に先生の中から『呪い殺したい』というキーワードが出てきた。少し前から視えていた通り、彼の中には深い深い、私に対する憎悪がある。それを象徴するかのように、磔(はりつけ)になった一人の女性と、その周りを取り囲む無数の髑髏(どくろ)のビジョンも視えていた。

 この世界には、人の数と同じだけの宇宙が存在するという。けーこにはけーこの、あきらにはあきらのユニバース。それらが複雑に絡み合い、絶えることなくマルチバース(※)としての調和とうねりを紡ぎ出している。
 私がこの『自分にとってのユニバース』というものを捉える時、そこには一つの超感覚的な想いがあって、“私の宇宙は『彼に』作ってもらったのだ”という古(いにしえ)の記憶の断片を拾う。お互い名など持つこともない、量子レベルの太古の記憶。

 であれば当然光だけでなく、この世界に存在する目を背けたくなるほどのあらゆる残虐行為などもすべて、私と彼に起因するということになるだろう。それらは現実世界のみならず、映画や小説という物語の中で最悪を極めた悪役でさえ、自分を雛型としていることになってくる。

 だからこそ、彼の中から『傷つけたい』『呪い殺したい』という感情が視えた時、それらは“有って当たり前”なのだと不思議と冷静に受け入れることができた。


 とはいえこの前の架空の彼女を作り出して当てつけてきた夢以降、毎日のように彼の『憎悪』と向き合ってきたが、望む変化はまだまだ感じられる様子もなかった。
 呼気も、肉体に反映された頭痛などの痛みも引かず、薬を飲むことも度々あった。その代わり浄化中に視える警官の数もとんでもなく多く、それだけがこの時期のモチベーションだった。
 腕組みをし、しかめっ面の彼のビジョンが伝えてくるのは相変わらずの不信感で、私に対し、“懐柔されてたまるか”といった固い意志まで見え隠れしていた。

 そんな中、またも“夢”という四次元を介して彼の意識がやってきた。

 中学校の待合スペースに座っていると、近くの廊下をスサナル先生が歩いてくる。約一年前と同じように慌てて鞄から手紙を出すと、彼の元へと近づいていった。

「また、先生に手紙を書きました。」

 ところが(というか“やはり”というか)、どこまでも私に懐疑的な彼は敢えて周りに聞こえるように、「それじゃあ、渡しておきますよ。」と大きめの口調で、これは自分宛の手紙などではないのだとカモフラージュをしてきたのだ。
 “僕たちそういう仲じゃないでしょ。”と、牽制の意味も込もっているようだった。

 そうして半泣き顔の私の手を離れた手紙は結局、なぜだかその場で開封されることになる。

 自分でも、そもそも何が書かれているのかわからない手紙。隙間からちらっと見えたのは、便箋ではなくポップアップカードだということ。“上のレイヤーの私”からの預かり物だということだけはなんとなくわかったけど、どんな内容が記されているのか。それに、本来読む気すらない彼が半強制的にこうして文字を追っているのもまた、私たちの味方である、“私たち自身の高次元”の介入によるものなのだろうと思った。


 パタンとカードが閉じられる。一体何が起こったんだろう……。

「大好きだ!!」

 叫ぶと同時に両腕を大きく広げた彼に、優しくギュッと包まれた。だけどあれほど渇望していた、満面の笑みを浮かべた彼にやっとのことで会えたというのに、抱きしめられた瞬間にどういう訳だか「あれ?」と思った。そしておかしなことに、彼からの好意に対して自分の心がときめかず、どこまでも冷静になっていくのを感じた。




※ユニバース、マルチバース……例えば、とある魂が映画館の椅子に座り真っ白いスクリーンを観ると、その魂の誕生から死までの3次元現実の上映が始まるとします。するとその魂はそのスクリーン世界に没入し、そこが映画館だということすらも忘れてしまいます。
その時観ている映画がユニバースだとすると、マルチバースとは、実はその一枚のスクリーンで上映されているのはたったひとつの映像現実ではなく、観ている魂の数だけそれぞれ別の3次元現実が同時上映されているような感覚です。
時々他者と映像の内容を共有するので全員同じものを観ていると錯覚しますが、全部その人だけの映像です。
そして更に進むと、実は映画館にいたはずの他の魂すらも、自分自身だったと気づきます。


written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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本当、ツインレイって追いかけっこ。
以前も書きましたが、ランナーとかチェイサーって分けてもあんまり意味なんてありません。両方ともがランナーだし、両方ともがチェイサーです。
基本はざっくり女性が先に内観やって、男性が後から現実やるけど、自分がツインレイだということを知らないツインレイ男性だって内観(内省に近い)やるし、ツインレイ女性も現実やります。
双子ですから。

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→第168話 戦乱の業火

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