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第67話 快刀乱麻


風の強い日だった。
バスツアーから2週間と少し、その日はあきらの志望校の文化祭だった。

その高校は主要駅からそう遠くない立地にあり、秋の祝日を利用してのイベントでもあったために、近隣のパーキングは埋まっている可能性が高かった。旦那には、正門までの送り迎えをお願いしていた。工事関係の仕事をしている旦那は、私たちを高校まで送った後に現場を一件回ってから、大体の時間でのお迎えを約束してくれていた。

ここのところ、3人揃うと何故か空気が重かった。行きの車内でも何かがあったわけではないのに皆ピリピリと居心地が悪く、後部座席の私とあきらが時々言葉を交わす程度だった。

正門付近で降ろしてもらった私達は、それから3時間ほどかけて、校内の出し物を楽しんだ。
入学説明会や科ごとの体験会など真面目な目的で訪れたはずが、ガニ股ミニスカートの女装男子が作ってくれる焼きそばや、輸血用パックから飲む赤いジュース、トリックアートのフォトスポットまで出現するという混沌ぶりに、あきらも相当その学校に惹きつけられたようだった。

校内をひととおり堪能して、そろそろお迎えをお願いしようかという話になった頃、ちょうど旦那のほうからスマホに電話が掛かってきた。朝の時点では予定にはなかった現場に対し、強風対策をしに行かなければならなくなったので、タクシーを拾って自力で帰ってほしいとの連絡だった。
二人で強風に抗いながら、普通の人なら10分で着く道のりを20分かけて駅まで行くと、風に混じって少し雨まで降り出してきた。

車椅子は持つ場所次第で重さを感じずに持ち上げられるが、残念ながら少し機嫌の悪い運転手さんに当たってしまったようで、「いやーこれは重いね。かなり重いですよ。」と、終始文句を言いながら苦戦してトランクに詰め込んでくれた。
出発と同時にギリギリで、雨が本降りになってきた。

結局自宅に着いてからも色々と気に入らない様子の運転手さんは、それでも私が手を貸すことは拒んでおいて、やはりブツブツと文句を言いながら車椅子を降ろしてくれた。

「うわー重い。奥さんね、やっぱりこの車椅子重いですよ。これは絶対変えたほうがいいと思いますよ。重すぎます。あとそこに、なんか挟まってるみたいですよ。」

そうしてまるで、私たちを乗せたことが災難だったと言わんばかりに走り去って行ってしまったが、「挟まってる」と言われたものが気になったので見てみると、あの鶴岡八幡宮のお守りが座席の隙間から飛び出していた。
その時には気づかなかったけど、後から改めてお守りを見てみたら、剣の刃の部分が少しだけ曲がってしまっていた。

もつれた糸の「解体」の合図となった文化祭のその日は、陰極のバランスを再び切り替えていく秋分の日でもありながら、私たち夫婦にまつわる幾つかの記念日のうちの一つでもあった。
 



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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……とはいえ今年の秋分よ。けーこも祭だけど私も祭。
私、自分のアカシック、全ページ読破するんじゃないかと思ってしまう勢いだよね。秋の読書祭り、闇出し祭り。

けーこもよく言うけど、本当に「一歩一歩」だよ。
私が神話に詳しくなっていったのって、あきらが小1の時に図書館で借りた『絵本』からのスタートだったの。全6冊から成る『古事記』の絵本を借りたら親子で気に入って、時間をおいてもう一回借りて。
それがあったからこそ、退院後にネットで見つけた「現代版意訳」に出会った時も、難しい名前もスラスラ入ったの。
遠回りに見える一歩一歩がいちばん近いのよ。


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