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第37話 春の風


節分と立春を越えると一気にエネルギーが加速した。まおちゃんの一件以来、何においても沈みがちになっていた心もちょっとだけ軽くなってきた。

もちろん彼女だけが原因ではなかったように思うが、どこから無気力が広がったものか、この時期はただ真っ暗な感情の中をひたすらに彷徨っていた。
頭もうまく働かず、意味なくネットを眺めているうちにその日一日が終わってしまう。家のことすらまともにできない自分自身に嫌気が差し、社会不適合者だという強迫観念の負のループにどっぷりと呑まれてしまっていた。

重いため息ばかりだったのであきらには申し訳なかったが、この冷たい冬の間、闇が私を庇ってくれていたのも一つの事実だった。
動く気力すらない時に、闇はあたたかくもあった。理由もなく絶望的で訳もわからず死にたいのに、「何もかも忘れていいよ」と言って、強い光に曝されなくて済むように優しく匿ってくれていた。(※)

そんな出口すら見えない暗闇に没入し、それらをじっくり味わい尽くした頃。ぽつりぽつりと、ようやく心に灯りが戻ってきた。
窓から見える通りには木蓮のつぼみが確認できた。冬を残した鉛色の曇り空に浮かぶ、まだ殻にこもったハクモクレンの小さなつぼみは優しい豆電球のようだった。

その春の息吹に歩幅を合わせるように学校の行事もバタバタと動き出すと、さすがに落ち込んでもいられなくなってしまった。
卒業式の練習を筆頭に、授業参観と保護者会、お楽しみ会と忙しく続き、嫌でも外の世界との接触が増えていくにつれて少しずつ心も回復してきた。またそれに並行して、新しく通うことになる中学校でも校舎見学や部活動体験、制服採寸などもあり、怒涛の日々へと変化していった。

あきらがネットで選んだ卒業式のスーツが届くと「Michael」(ミカエル)というタグがついていて、天界を代表して祝ってくれた、その送り主の主張の激しさには思わず大笑いしてしまった。
あの悪夢の入院を経たあきらが生きて小学校を卒業できることは、私にとって奇跡だった。それなのに当の本人は、今となってはのほほんとしたもので、失った身体の機能についても「むしろ前のほうが不思議で、最初からなかった気がする。」とまで言って笑っている。

そして、3月半ば。卒業式は快晴だった。
体育館の後ろの紅白幕の間から、6年前にはまだ小さかった馴染みの顔たちが、次々と誇らしげに入場してくる。
車椅子を体育館の外に置いて、覚束ない足取りながらあきらがゆっくり会場に入ると、ありがたいことに拍手の音が最大級に鳴り響いた。

私立に行く子たちとはお別れとはいえ、大多数の子は同じ中学校に入学する。それでもやはり、卒業の節目は親として少し寂しい。我が子の成長は愛おしく嬉しく、もう一度繰り返すが、ちょっぴり寂しいものだ。
そんなことを感じながら帰宅すると、それから間もなくインターホンが鳴った。

けーこが立っていた。
「あきらに」と、大きな花束を持ってきてくれた。

「あのあきらが体育館歩いて卒業式だなんて、考えるだけで泣けるよね。」
私の話を聞いただけで、彼女もすでに泣きそうである。

大人二人がそんな状態だというのに、主役である本人はさっさと自室に戻って、LINEで友達と今日の写真を送り合っている。
日々、成長してるんだかしてないんだか。

花束の中にあったストックとポピーから甘い春の匂いがする。冬を越え、また新しい生活が始まる。


※…ツインレイとの部分的エネルギー的接触により、訳もわからず「落ちる」ことがあります。またその暗闇の状態は出会いの直前だけに限らず、場合によっては子供時代などでも、お互いの私生活の変化などで起こってくることもあります。
ちなみに私のこの時のエネルギー低下は、約ひと月弱に及ぶ苦しいものでした。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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家のWi-Fiが、2〜3週間前から調子悪かったの。
私にはその原因を探るという頭がなくて、
長く使ってるから調子悪いなー、修理とかかったるいけどどうしようかなー、くらいにしか思ってなかった。

私と違ってネットで調べてみるタイプのあきら、
「ルーターの近くに金属置いちゃ駄目だって」って。

金属…?

缶にね…細かい化粧品入れて、サイズも場所も使いやすさもぴったりー♪って思ったのがちょうどその時期。

モンサンミッシェルの、ガレットの空き缶笑
スマホ遅せぇ遅せぇ言ってた原因、ミカエル……。
防衛力無双、ミカエル……。
どんな電波もがっちりガード、ミカエル……。
ごめん愛してるよ、ミカエル……。

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重要『エゴのことが嫌いなエゴ』もこちらから

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