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第63話 不安を抱えた勝利の女神



 これは……逆によかったのかもしれない……。


 見えない偶然に誘われて引き受けた成人委員の活動は、放課後に職員室の奥にあるPTA会議室を使って行われることが多かった。そして、運動部の顧問の他にも、様々な役職で学校内を行き来しているスサナル先生に偶然会うことも多くなった。

 反対にヤマタ先生はその時間、音楽室を中心にパート練習ごと各教室を回っているので、三階四階まであがりさえしなければ顔を合わせることも少なかった。


 正門から昇降口へと向かうアプローチの途中で、校庭を挟んだ反対側にいるスサナル先生の存在に気づく。陸上部と野球部の生徒達のさらにその奥からやってくる視線を、こちらもまっすぐに受けとめる。何十メートル先からでも、スサナル先生の口角があがり、目が優しさを帯びて細くなったのが伝わってくる。ハゴロモジャスミンの甘い匂いが風に乗り、花壇の横で、蝶や蜜蜂たちがちょっとした楽園をつくっている。

「あらあきらママ、なんかいいことあった?」

「えへへー、ちょっとねー。」

 受付で記帳を済ませると、スリッパをパタパタさせてPTA会議室へと向かう。毎日の送り迎えのために下駄箱に置かせてもらっている自前の黒いスリッパは、みんなが使う、校名がプリントされた緑のものと違って機嫌のいい音を立てている。
 スサナル先生とも会えたけど、今日はもう一つ、いいニュースが待っている。すでにLINEでわかってはいたけど、今回の立役者から、直に話を聞かなくちゃ。
 島村さんが会議室に到着したのは私のわりとすぐあとだった。その途端、わーっと自然に拍手が沸いた。

 話は五日ほど前。
各学年三名ずつ、計九人で構成された今年の成人委員は二手に分かれ、うち六人は、今年も恒例のバスツアーの工場見学の申し込み班、残る三人はスケジュール的に、翌早朝からの挨拶運動班となった。
 ここのところ、夕方から夜にかけて具合が悪くなることが続いていた私は挨拶運動の担当となり、ぴったり三ヶ月後の工場見学の申し込みは他の人にお願いしていた。

 たびたびテレビなどで『激戦』と紹介されるその食品工場の見学コース専用サイトは、深夜0時2分の段階で既にほかの五人は撃沈していたらしく、島村さんただ一人が、四十人という奇跡の大枠を勝ちとってくれていた。

「こちらの内容でよろしいですかって確認画面が出るでしょう?手の震えが止まらなかったよね。
だって、校長先生の予定ここしか空いてないのにこれ取れなかったら計画練り直しって思ったら、どうしようって心配でね。今から他の施設なんて無理でしょう?
私、今週毎晩、何度も何度もサイトに飛んで、代表者名とか人数の打ち込みまでシミュレーションしてたんだ。」

 絶対にヘマできないと、学校の住所から電話番号から『必要記載事項のコピペ文章』まで用意していたのだと興奮気味に語る彼女に拍手喝采を送りつつ、それからみんなでメインの他の、細かい部分を煮詰めていった。

 九月第一週。
食品工場見学と、鎌倉ランチと散策ツアーの企画が決定した。



written by ひみ

⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

⭐︎⭐︎⭐︎

実を言うと直感的に、工場見学、おそらく取れるだろうことはわかっていました笑
それから、寝てる私の意識にも、LINEを介してやり取りしている彼女たちの興奮が伝わってきていたので、
「あー、取れたんだなー…おめでとー…」と、半分寝ながら意識で返信しておきました。
テレパシー嘘つけない笑
便利よー。

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