第70話 ルーツ
毎年冬の頭には、中学校の開校記念日がやってくる。学校の送り迎えに縛られない平日のこの日に合わせ、今年も鹿島神宮にお詣りに向かうと決めていた。
そのために少し頑張って、洗濯物やあきらのご飯の支度なども前日の夜のうちに万端に済ませる。タケミカヅチの招きにあいて、どうしてもまた、ご挨拶に行かなければならないということを魂の深いところで知っていた。
数年前のお詣りの時は近くに宿を取らせてもらい、一昨年や去年も日帰りながら、家族の協力が得られたためにそれなりに余裕のある予定が組めた。けれども今の状況で“あの子一人”を家に残して泊まりの旅行ができるわけもなく、強行で日帰りスケジュールを立てる他に方法はなかった。
さらに今年は一つ懸念があった。春先から、実家の父が時々入退院を繰り返していた。秋に再入院した父はその後二回も峠を越えて、またいつどうなるかわからなかった。そのため一応母にも連絡をして、もしも鹿島にいる時に何かあったら、駆けつけるのが少し遅くなる旨だけは伝えておいた。
朝、バタンと玄関が閉まる音がした。それまで寝室で待機していた私は、旦那の出勤を待ってから静かに階下へと降りていく。身支度を終える頃にはちょうどあきらも起きてきたため、用意してあるご飯の説明を口頭で軽く伝えた。
「わかった。適当な時間になったらあっためて食べるよ。今日、父親よりは早く帰ってくるんでしょ?」
「うん、もちろんそのつもり。帰りのバスが出発する時に一度連絡入れるね。あと、もし実家から連絡来たらこっちからもすぐ伝えるから。何かあったらLINEちょうだいね。」
「オッケー行ってら、気をつけてねー。」
バスで最寄り駅まで移動すると、朝の満員電車を乗り継いだ。多くの人が通勤のために電車に揺られていることを考えると、自分に対して複雑な感情が湧いてくる。
この社会の枠にも混ざれずに、私は一体何のため、どこに向かっているのだろう……。
広い東京駅の構内を移動し、途中の売店でチョコレートを買ってから八重洲口に出ると、高速バスターミナル1番乗り場を目指す。ICカードをかざして鹿島神宮行きのバスに乗り込んだ。
東京駅を出発すると、ほんの少しだけ湾岸沿いを走ってから、そのあとバスはひたすら内陸を横断していくことになる。
適当な席に座ると、つい数日前に見た夢と、一昨日見つけたネットニュースの内容をぼんやりと思い出していた。たぶんこれらは“お知らせ”だろう。一見バラバラのこの二つが、リンクしている気がしてならなかった。
…………
その日の夢の場面は、受付職員さんが教室で講義をしているというものだった。根っからの歴史マニアで地球の全てを把握していそうなその彼女は、夢の中でも同じように目を輝かせながら、黒板に『神名帳(じんみょうちょう)※』と綴っていた。
そしてネットニュースの方はというと、奈良の春日大社から分祀したとある神社で、全国の刀を集めた特別展が開かれるというものだった。
私の旧姓は決して多い苗字ではなく、どちらかというとやや少数派の部類だった。その名前が、ヤマトタケル伝説に因んだ土地に「郡」として存在していたことは元々調べ済みだったが、鹿島に向かうというこのタイミングで、ネットニュースで出てきたその神社の社名とも一致していることを知った。
可能性としての話ではあるが、つまり私の生家のルーツとは、鹿島のタケミカヅチが鹿に跨り奈良の春日大社に居を構えたのちに、そこから枝分かれした神社の一つに関係があるのかもしれなかった。
さっき買ったチョコレートを一粒口に入れると、スマホに『延喜式(えんぎしき)神名帳』と入れ、続けてその名前を打ち込んだ。
ビンゴだった。
出てきたものにざっと目を通すと、平安時代のとある地方豪族に、同じ名前を持つ一族がいたということが書かれていた。その土地を通してヤマトタケルとも繋がった。そしてその豪族のさらに祖先とされているのが、大化の改新で蘇我氏を滅ぼしたことで有名な、かの中臣氏ということらしい。
春日大社はもちろんのこと、鹿島神宮を拝んできたのも元を辿ると中臣氏ということで、私の名前の祖先にあたる人たちも、タケミカヅチを信仰してきたことになる。
本当にどこまで私の魂とやらは、家系から見ても剣(つるぎ)とご縁があるのだろう。
そんなことを思いながら窓の外を見上げると、差し掛かった霞ヶ浦(かすみがうら)の上空で、今年の初飛来かもしれない白鳥の一団が飛んでいるのが目に入り、思わず声が出そうになった。
幾多の戦いののち、その最期の姿を白鳥に変えて故郷に帰っていったのが、ヤマトタケルその人だと言われている。
シンクロニシティもここまで揃うと、逆に自嘲気味にならざるを得なかった。おかしみと同時にどこか諦めにも似た感情を二粒目のチョコレートで流し込むと、あと一時間で到着する鹿島神宮へと想いを向けた。
※延喜式神名帳……平安時代にまとめられた全国神社データベース
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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「ええー?まじか鎌足か」……ってちょっと思った。
(しーっ)
これさらに気持ちが悪いのが、けーこの苗字も遡っていくと中臣鎌足(藤原鎌足)に行き着くということ。それがわかった時けーこはね、「この名前であるという意味を知りなさい」とかって言われたらしい。脅し?脅しなの?笑
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