第69話 ふたご星の統合
夢を見ている。
中学時代に美術部に所属していた私は、その夢の中でも当時のままの美術部員になっていた。昇降口から校舎に入ると、受付では見知らぬ職員さんが外部からの電話を受けている最中だった。彼女はスサナル先生の名前によく似た苗字を何度か口にして、電話口の相手に念入りに確認を取りながら職員名簿をめくっていた。
そんな名前の先生、この学校にいたかなぁ。スサナル先生の間違いかなぁ。
中学生の私はそのまま、顧問に言いつけられた用事を済ませて美術室まで戻っていく。途中の廊下にはたくさんの、『子供ニュース』と書かれた掲示物が貼ってあった。それらの内容は多岐にわたっており、彗星発見の歴史、生き物の進化の過程、アルコールの体への影響から中国兵馬俑(へいばよう)の出土品まで、学習図鑑を切り取ったようなテーマがそれぞれ広がっていた。その中の一枚のポスターに、私の目は釘づけになった。
部室に戻るために階段を上っている途中から、頭の中には「海」という単語が浮かんでいた。そして、そのワードに導かれるように行き着いた一つの子供ニュースには、細かい説明文と共に、一枚の絵画の写真が紹介されていた。
タイトルは、『イエスの海』。掲示物として印刷された絵のはずなのに、それはまるで動画かなにかのように、次々と“展開”していった。
初めは何もなかった海上に黄土色の小さな陸地がポツンと生まれ、そこからやがて、反時計回りの螺旋状に徐々に面積を拡大していく。定点観測された早送りのような映像には世界のあらゆるものが描かれており、曼荼羅そのものを見ているのだと感覚的にわかった。
神秘的なその絵から、目を離すことができなかった。
『イエスの海』は本来“一枚絵”の絵画でありながら、その瞬間にも地球の全ての歴史を刻々と刻み続けていた。発生しては衰退し、勃興しては崩壊する文明は、まるで神の呼吸のようだった。アフリカンドラムのような打楽器と、複数の女性の神秘的なコーラスとが頭の中に聴こえはじめていた。
だけどこの絵を描いた人のその時の裁量で、出来事なのか建造物なのか、描かれていないものがなにか二つだけあると、夢の中の感覚が感知していた。
ダヴィンチの目を通して見たような螺旋、早送りの地球文明の広がり。BGMがひときわ盛り上がってクライマックスを迎え、最高潮に達した音が鳴り止み静寂が訪れたその瞬間。
ボンッと胸に、衝撃を受けた。
彼、スサナル先生の本名がそのまま、ボール状のエネルギー体となって私の胸に飛び込んできた。
はっと息を大きく吸い込み、両目を見開いた。何が起こったのか、一瞬頭が混乱した。
今のは一体何……?
「疑問」が脳のすべてのスペースを占領し、過電流でショートした。“思考”が金縛りのように固まったそののち、今体験したばかりの身体の感覚を頼りに理解が後から追いついてきた。
“描かれていない二つ”とは、私とスサナル先生のことだった。私と彼の二人とは、何者かにより描かれる側のものではなくて、この曼荼羅を今この瞬間も描き続ける「創造者側」の存在だった。
私と彼の魂の一部がたった今統合したのだと、胸の細胞たちが教えてくれていた。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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久しぶりに、ちょっとだけドキッとしちゃった。
陰陽統合の数である69話目で、「え?今回書くのこの話?」ってなった。書かされてる私。
しかも、この話書いたのって陰極と陽極が同量の、
秋分の日笑
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