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第149話 太陽の剣



 空が明るく白み始めてきたその日の早朝。ほんの少しだけ意識が目を覚ましてしまい、気がつくと夢と現(うつつ)の狭間にいた。明晰夢のような状態で視界をぐるっと見回してスサナル先生を探してみると、すぐに見つけることができた。

 思い切って闇に触れる。
体を丸めている彼の元へと飛んでいき背中にそっと手を添えると、その途端に現実で寝ている肉体がベッドの上でのけぞった。私に対する激しい拒絶。奥から奥から止め処なく、私のことを罵っている。罵りつつも葛藤している。

 ごめんなさい。私に対してたくさん『怒り』があるんだね。そのままでいいよ。私はあなたの敵じゃないよ。私に対して怒っているあなたのことを、そのまままるごと受け入れているよ。

 膝を抱えて丸まっている背中から、彼の葛藤が伝わってくる。苦しい表情で歯を食いしばって顔をしかめ、私のことを愛したい彼と、私に攻撃をしたい彼とがその内側で闘っていた。

 けれどもさらにその奥には、本当は『後悔』や『迷い』、それから「あなたの元に戻れない。」といった“涙”があるのに、『自分のほうが男で“当然上”だから、“下にいるべき女”のお前にそんなものは見せられない』といった歪んだ感情が存在していて、だからそれらを必死に私から隠そう隠そうとしていた。

 摩る(さする)ようにそっと手で彼に触れるたび、何度も私の体が激しくのけぞり頭がブンブン左右に振れて、そうして闇が抜けていく。その時ふと、シャツから覗く彼の手首に目が行った。

 傷だらけ!

 まさかと思い、上半身の白いシャツだけ想念を使って取り払う。

 こっちもだ……。

 そこには細かい無数の切り傷が、お腹側にも背中にもびっしりと隙間なく存在していた。

……この人は、これほどたくさんの心の傷を抱えているのに社会で問題なくやっているように見せるため、必死に涼しい顔を演じて、痛くない振りをしながら生きてきてたんだ。


 その傷をひと通り確認すると、次に何をすべきかを知っている私が、一度ゆっくり彼から離れた。暗闇の中に佇むスサナル先生を一人残してふわっと宙に舞い上がると、光を目指して飛んでいく。

 直径僅か数メートル。だけどその見た目の大きさからではなく、もっと“本質的な質量”を感じ取り、自分はこのあと『この太陽の内側』へと入っていくのだと明確に理解していた。

 果たしてそこで私を待っていたのは、まっすぐに伸びた一本の剣(つるぎ)だった。
 それからすぐに、迷うことなく抜き身の剣を私という“鞘”の体内へと入れると、急ぎ彼の元へと戻ってきた。

 まっすぐに彼の目を見る。
そしてその“伽藍堂”から目を逸らさずに、「一度だけ、私のことを抱きしめてほしい。」とお願いする。
 下手したらそれは、私たちの身体が吹っ飛びかねない賭けだった。茫洋(ぼうよう)とした伽藍堂がゆっくりと近づいてきたその時、私の意志からではないのに、何故か自然とこんなセリフを口にしていた。

「私、他の誰かのところになんか行かないわ。」

 体が触れ合った先から、彼の絶叫が耳をつん裂く。断末魔の残響は、きっとこの宇宙をその最果てまで揺るがしたに違いない。
 横になっている私の肉体はバッタンバッタンとのたうち回り、気がつくと悪寒から一変、びっしり寝汗をかいていた。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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当たり前かもしれませんが、この時彼の傷を見て、顕在意識の私はかなりショックでした。
だけど私に対してだからこそ、彼がそれを見せてくれたということもわかっていました。
流血こそしていませんでしたが、5センチとか10センチくらいのどの傷口もぱっくりと裂け、とても痛々しかったです。
でもね、宇宙をくまなく探しても、彼がこの傷をさらけ出せたのは、唯一私に対してだけだとわかっていました。だからこそ私も、逃げずにしっかりと直視しました。
(参考)第102話 「僕を助けて」


ツインレイって結局自分なので、どこまで本当の自分を自己信頼できるかなんですよね。本当は自分が傷ついているんだっていうことを、鏡を見ることによって確認できるんです。

変に聞こえるかもしれませんが、自己信頼ができてないと、自分が自分のことを欺き(あざむき)ます。自分によって、自分が騙されるんですね。

なので繰り返しになりますが、闇を直視してください。
冬至を過ぎて、集合意識の浄化に対する宇宙の介入が期待できなくなった今、頼れるのは自分自身です。

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←今までのお話はこちら

→第150話 剣の舞


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