第58話 捕囚
真夜中、深く魘(うな)される。
「今晩、あいつに見つかりませんように」と結界を張ってから眠りにつくのに、それでも時々突破されてしまう。
学校で校舎の外を歩く時には、日傘を深くさして周囲から顔が見えないように。受付横の待ち合いスペースであきらのことを待つ時も、一番奥の壁に囲まれた席を陣取り本を開いて、基本は下を向いている。とにかく何としても、ヤマタ先生にだけは絶対に見つからないこと。そんな自衛が何より必要となっていた。
自分の子供の学校なのに、どうしてコソコソと隠れるように過ごし、その上睡眠を取る時にまで気を張り詰めて、あいつに見つからないように生きなければならないのだろうか。
段々と、ノイローゼになっていった。
24時間神経が休まることがなかった。どこから侵入されるかわからないので、スサナル先生のために「意識の扉」を開けておくこともできない。「もうやだいっそ死んでしまいたい」と願ったところで、仮に私が本当に死んで肉体を捨てることができたとしても、霊魂対霊魂ならば、理論上逃げ場などどこにもない。
頑丈に鍵をかけているつもりの毎日の中で、知らぬ間にじわじわと、ヤマタ先生の囁きに呑まれていることに気づけなかった。
今まで大好きだと思っていたスサナル先生に対して、ささやかな恋心ですら持っていてはいけない気がしてきた。先生とは「気が合う友人」という関係こそが、一番しっくりくると思えるようになっていた。
その一方でいつもいつも、あいつの気持ち悪い笑い声が耳にこびりついて離れなかった。目の下は、段々隈になっていった。
そしてある朝、私はとうとう発狂した。
あまりに疲れ果てて、結界に弛みが生じていたのにどうすることもできなかったあの朝。
残酷なことに、断片的に唯一記憶に残っていた夢のカケラのシーンでは、呆然としてどこかに横たわった裸体の私のお腹の上に、緑色をしたヘドロが吐き出されているという最悪のものだった。
やられた!寝ている間に捕まったんだ!逃げきれなかったんだ!私の性を、あいつに盗られてしまったんだ!!
『許せない!!絶対に絶対に許せない!!』
泣いても泣いても泣き足らず、叫んでも叫んでも叫び足らず、真っ黒い化け物となった私の闇が、全ての私を支配していた。
ごめんね私のハイヤーセルフ、ごめんね大好きなスサナル先生……。
例えスサナル先生との未来が今世で消滅してしまったとしても、例え永劫の地獄が待っていたとしても、これから復讐の道を選ぶことにする。
私の魂は殺されたのだ。だったら私もあいつの魂を滅多刺しにして朽ちさせよう、それさえ果たせれば本望だと、修羅の道に堕ちる覚悟をした。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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「念ずれば通ずる」とは言いますが、私自身、人の念の恐ろしさを身をもって体験した出来事でした。
ただね、“願掛け”なんかにも、表があれば裏もあります。願掛け、おまじないといえばかわいらしくもあるけど、言葉が違うだけで契約でもあると自覚すれば、エゴ発信の契約なんて恐ろしくないですか?どこで変な副作用がうまれるかわからない。
求められるのは、紛うことなき心です。
これは、当時のヤマタ先生宛にも言えますが、復讐を誓った当時の私への自戒でもあるんですよ。
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