第98話 美しき翠玉の悲哀
陽を浴びて暖まった車内へと戻ってくると、ちょっとだけ窓を開けてから次の行き先を座間(ざま)市方面へと定めた。朝一番の難問を越えてしまうと、そこからあとはサクサクと、目的地のほうからこちらにやってきてくれた。
数か所神社を巡るだけで、羽衣、赤龍、羊羹、「鬼の居ぬ間に洗濯」など、その都度訳の分からないヒントが一瞬で大量に集まってきてしまう。
そのうちのいくつかは次へ繋がる正解への導きとなり、またいくつかは不正解へと手ぐすねを引いていて、新鮮な景色に楽しくドライブしながらも、見守るしかない天界のほうがハラハラしているのが伝わった。
車はやがて、鈴鹿明神社(すずかみょうじんしゃ)へと到着した。
参道(産道)塞がれてるけど、ここに来たのは合ってるのかな。
本殿へと続く場所一帯、ちょうど地面の工事をしていて、カラーコーンで線引きされた端っこの臨時通路からお詣りに行く。
タケミカヅチを連想する「鹿」の字が含まれてはいるけど、ここのご祭神はなんと、イザナギノミコトとスサノオノミコト。対の女性が黄泉へと渡り生きる糧を失った父と、おそらくその愛する女性の面影を宿した顔で生まれ、いつまでもその“母”を乞うている息子。
もしも自分の魂を分け合ったツインレイが、仮に今後、共に生きる選択を捨て別の道へと進もうとするなら、その時生まれる憎悪は凄まじいものへと変化していくに違いない。
この現代において、旧時代の男性原理システムが未だ暴君と化しているのも、私からしたら、このイザナギの癒えない悲しみを雛型としているように思えてならなかった。
だからこそ、スサノオが天界を追放された裏側には、イザナギにとって決して埋まることのない引き裂かれるような痛みが見え隠れしているのがわかってしまう。
そんな父子が確執を超え、螺旋を一周上がった先で共に祀られていることは、私にとって、ある意味信じられない驚きであり、また大きな喜びとして感じられた。
そしてゆっくり手を合わせると、男の人の声が響いた。あとからけーこが「髭のおっさんが一人いたよ。」と言っていたけど、その正体はわかっていた。とても優しい声だった。
「クシナダ。」
たった一言だったけど、たった一言で充分だった。車に戻ると堪えきれずに、気の済むまで泣き晴らした。
だけどたくさん涙が出た理由は、先生の私への想いがスサノオに宿って現れたのもあったけど、彼スサノオという人もまた、母への傷を抱えたままの、痛みを持った一人の男性だという事実が不憫に思えたせいでもあった。その穴を埋めてほしいというように、だからこそ私のことを、彼はクシナダと呼んだのだ。
……
鈴鹿明神社を後にすると、その日の最後は、ダムとしては県内一の“宮ヶ瀬湖”まで足を運んだ。
白を含む、独特のエメラルドグリーンをした美しい湖面に架かる虹の大橋を越えながら、この“剣と勾玉の旅”では、県内のあちこちと、天界と下界、見える世界と見えない世界を結ぶポータル作りをさせられていると、そんな風に確信していった。
それをさらに強固にするようにけーこが言うには、今、地球のこの状態の中、ここまで自由に動ける二人組が他にはいないと拾っていて、「うちら二人が適役なんでしょ。」とのことだった。
男性性を象徴する剣のエネルギーの私と、胎児の形の女性性、勾玉エネルギーのけーこという二人が、片や離婚し社会や家庭から縛られず、片や生を遊び倒すことをモットーに、謎解きパズルに夢中になりながらも軽やかに地球を遊び、尚且つトリガーとして舞っている。
これほどの適任者は、確かに他にはいないのかもしれない。
そして今日まで生かされてきたこの世界でも、人知れずエネルギーを繋いできた名も知らぬ先人たちの尽力という種が、いつか咲く日のために蒔かれ続けていたのかもしれない。
湖畔をやや離れ、予告なく目の前に現れたログハウス調のレストラン。気がつくと、三時をとっくに過ぎていた。
「門出のお祝いが、まさかのこんなところでやってきたよ。」と言いながら、お腹をすかせた遅めのランチにとびきりのご馳走を味わった。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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さらっと書いちゃってますが、すみません。イザナギとイザナミはツインです。
宇宙の中心から、ざっくりオーバーセルフのみの世界のあと、ツインとして分かれ出す神世七代(かみよななよ)という世界があります。その最後の二柱にして、初めて地上に降りた、ある意味私たちが今いる世界の原型となる二人です。この二人が陰と陽の世界に分かれたことで、その後地球上の神も人間も自分のツインレイが誰だかわからなくなってしまいます。
ただ思い出してください。善悪で判断しなければ、ツインレイ以外と恋愛したり結婚したりできるのも、地球ならではなのです。
その経験の価値は、オーバーセルフ(あなた)からしたら計り知れません。目の前の恋愛、結婚を、「ツインだから、ツインじゃないから」といった理由で判断せず、すべて大切にしてください。(注:自己犠牲ではない)
イザナギ世界は確かに悲しみを内包してはいますが、それもまた素晴らしいことなんです。
どんな状態であれ、今を生きること。これに尽きると思いますよ。
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