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第87話 オモイが糸をひいている
春から送り迎えをすることになる県立高校はちょっとした高台の上にあり、都内のビルや富士山までもがよく見えた。
春休み中、ニ回目の新入生登校日となったその日も、すっきりとした青く冷たい空気の中に、三角形の真っ白な雄姿を望むことができた。
付き添いでやってきた保護者は当然私一人だった。案内された空き教室で本を開こうとして、突然無性にスサナル先生に会いたくなってしまった。
こんな時、ここが中学なら偶然会うこともあったのにな。私がいるのを見つけたら、何読んでるんですかって話しかけてくれてたのにな……。
するとその想いにリンクしたのか、教室の入り口から先生の意識が歩いてやってきてくれた。
ちゃんと視えている訳ではないけれど、背景の上に拡張現実の彼の映像が透過するように重なって、その気配にも、存在としての厚みがあるような感覚だった。
嬉しさと共に寂しい気持ちが湧いてきて、思わず泣きたくなってしまった。スサナル先生の意識体が私の元に来てくれた分だけ、肉体を持った先生がここにいないことが不安で悲しくて仕方がなかった。
自分で選んだ事とはいえ、今更になって、連絡先を渡さなかったことを後悔していた。それからまた、「春休みに一緒に出かけてください。」と、その一言を言わなかった自分をたくさん呪った。
私たち、約束もしてないというのに一体この先どうなるんだろう。こんなんで本当に、これから仲を深めていけるのかな。
少しずつそんな考えに支配され始まると、不安の種が一粒また一粒と、いずれ多くの芽を出してきた。
……これは絶対、どうにかしなければ。
…………
あれからあと二回ほど、中学校に行けることが決まった。一つは、延期になってしまっていた成人委員の引き継ぎ業務。それからもう一つは、急遽一時間だけとの許可が降りた美術部の三送会。時勢的に、卒業生であっても気楽に遊びに行くことが叶わなくなった今、そのたった二回だけが本当に最後のチャンスだった。
一人、作戦を練っていた。あれこれたくさん考えて、最終的にもう一度、手紙を用意することにした。マステで封をした中身には、住所や固定電話まで、あらゆる連絡先を書き込んだ。だけどそれを渡せるかどうかはある意味“運”だと思っていた。
そして、最初の賭けとなる成人委員の解散後、PTA会議室を出るとそのままの足で職員室へと向かった。ここに来るまでの廊下はしんとしていたが、開け放たれたドアから覗き込んでタイムカードをざっと見ると、半分以上の先生達が出勤しているようだとわかった。
入り口近くの適当な先生を捕まえた。
「すいません、今日ってしまTいます?」
「ああ、ちょっと待ってね。
津島先生ー、あきらさんのお母さーん。」
卒業式から二週間。その先生が大声で叫んでくれたお陰で、3学年の先生を中心にパラパラと人が集まってきてくれた。
「ああ、しまT会えてよかった。ちょうどPTAで来ることになってたから、3年の先生達に……えっとこれ手紙にも書いてきたんだけど、この前のリハビリでの計測がすごい新記録だったんで、皆さんにお礼を伝えたいと思って。」
この気持ちは本当だった。たくさんの手術歴があるあきらに対し、入学時から試行錯誤して付き合ってくれた先生方には、どれほどお礼を伝えても足りない気がしていた。
『三学年の先生方へ』と書いた手紙をしまTに託すと、彼女は拳にした腕を目元に当てて、泣き真似するジェスチャーを交えて喜んでくれた。
そんなしまTのずっと奥、入り口の対角線上にはしっかりと、スサナル先生の姿が確認できていた。
机の後ろに立っているので腰から上は見えていた。だけど何処となく不自然で、明確な目的があって立ち上がっているようには見えなかった。何かを考えている振りなのか、一切顔を上げることなく目線を落とし、それでも意識だけはチラチラとこっちを気にしていた。私に対し、なんだか葛藤しているようだった。
いつもだったら真っ先に近くに来てくれそうなのに、これ以上ここで待っていてもどうにもならないと悟った。あまり長居もできないことだし、周りにいる先生達にお礼を言うと、後ろ髪を引かれながらも職員室を後にすることにした。
本命の手紙を渡せるとしたら、この後かもしれない。もしもスサナル先生が追いかけてきてくれたら、その時にこの連絡先を渡そう。
そう考えて、かなり時間を稼いでノロノロと出口まで向かったのに、ひと気のない学校は、最後まで全て無機質なグレーのままだった。
結局敷地を出てからも彼が追いかけてくることはなく、私の心には暗く冷たい水たまりができていた。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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この時は、富士山をエネルギーポータルとして、富士山とも縁のあるスサナル先生がやってきたって感じかな。(似た感じの話に41話『starlit eyes』)
かなり脱線するけど、例えば同じマンションとかでも富士山が見える部屋と見えない部屋では価格が違ったりするよね。それって、眺望とお金という対価に対するキャパの違いとも言える。循環量とでも言うのかな。
だから変な話だけど、meetooに来られる人っていうのは、meetooという富士のようなエネルギーに見合うだけのものを「今後回していける可能性のある」人。で、問題はその先。
例えあなたが「meetoo読むの大変だからもういいや」と自分の意志で離れたと勘違いしていても、それって高次元の視野からすれば、この人所詮そこまで止まりの魂だったねって、「こっちが篩い分けして手を切った」というのが本当の真実。
実際「ツインレイ統合したい」と口で言ってても、魂が統合にビビってる人は来ない笑
風の時代、そういう人に回せる分のチャンスのおこぼれなんてないんだよ。
別の言い方をすれば、meetooに問い合わせだけでもしてみようって一歩行動できる人は、それだけで統合の可能性が上がるんだよね。ついてくる覚悟のある人にだけ、meetoo(宇宙)も全力で統合させる覚悟があるからね。
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